〔文責:企画部指導課・細貝〕

基調講演 「ビジネス創造新世紀」〜人脈を生かしたビジネスの創造〜

 

日 時 平成12年2月24日

場 所 虎ノ門パストラル

講 師 鈴木総業株式会社 中西幹育 取締役副社長 

概要

〔中小企業の技術開発と新規事業化戦略〕

鈴木総業は、静岡県清水市に本社を置く、異業種分社経営の開発型中小企業です。市場が求める商品や技術開発を行い、新規事業の立ち上げにより、年商約120億円の高付加価値経営を実践しています。

しかし、鈴木総業も、約20年前までは、日立製作所という大手企業の下請中小企業でしたが、ハイブリッドテクノロジー(技術の複合・融合)とプロダクト・プロセスイノベーション(製造・生産プロセスの革新)を武器に、次々に世界的な発明をし、以下のような新規事業で下請けからの脱却を試みました。

1.三次元曲面印刷「キュービックプリンテイング」

2.衝撃吸収材「αGEL」

3.エラストマー突起物特殊成型法「DSPシート」

 キュービックプリンティングでは、大手印刷企業と提携し、世界20数ヵ国でライセンス生産を行って年商約50億円、αGELも同様にして、スポーツ分野から産業用途に拡大し年商約30憶円と、2つのテーマで年間約80億円というビックビシネスを実現させてきました。さらに、第3の柱として、DSPシート事業が昨年から立ちとがっており、第4の柱、第5の柱もスタンバイしています。

 この様に、新事業化が成功した要素は、

 第1には、異業種・分社経営の特質を活かして、各社が得た様々な情報を吸い上げ、次の新規事業化に活用していることです。

 第2には、市場が持つ潜在的なニーズ=欲求の掘り起こしです。この欲求には、まったく新しい市場もあれは成熟した市場もあります。既存の市場に対しては、従来商品にない機能を付加したり、コスト・納期等でユーザーニーズの視点を変えるような革新を行います。このためには、新鮮で役立つ情報が集まる仕組みと集めた情報を活用するノウハウを持っています。

 第3には、テーマ選定において「事業のハイブリッド的発想プロセス」を持っています。第1、第2の特性は、新規事業化のためのテーマ選定に結びついて、初めて効果を発揮することができるものです。

第4には新規性・独創性を生み出すためのプロセスがあります。私は、アマがプロである専門家とパートナにもなれる」と考え、実践してきましたが、常に新規事業や開発に関係するテーマ分野の特許資料を数ヵ月掛けて、3回以上も読みこなすことによって、専門家に負けない知識を身に付けるように努力しています。

 第5には、プロダクト・プロセスイノベーションを行います。この2つのイノベーションを通じて、例えば、特許を確保することによって、「法律に守られて」大手企業とイコールパートナーとしてつき合える基盤作りをおこなっています。

 第6には、「人が仕事をする」わけで、人材づくりを重視しています。当然、仕事に関係するすべての人脈が含まれることは言うまでもありません。

 第7には、知識・経験の集約化と発想力を持った上での「即断・即決」です。テーマ選定や開発過程において生じる多くの疑問や問題点に対して、「すぐに、現場でやってみて判断する」ということを実践しています。机上では判断しない。頭の中では決めない。この現実・現場重視の姿勢と現場における失敗・成功体験が、次の発想を生み、困難な事業化へのハードルを乗り越える力を生む源泉となります。

第8には、客観的な自己評価基準です。

と、考えます。

 

1、企業が成長・発展していくために必要な戦略

@企業が成長・発展していくためには、時代背景を的確に読み、未来を予測することが不可欠だと思います。

■時代背景を的確に読むには、情報収集とその情報の本質を知ることが必要になります。

Aグローバル時代の中小企業は、(企業)経営利益の源泉を「技術開発」、「技術力」に向けていくべきだと考えています。 20数年前に独自に開発した三次元曲面への工業規模での曲面印刷やNASAも採用したαGEL振動吸収新素材や最近事業化したDSPシートは、すべて、市場(社会)が求める二一ズに対して、「技術」を活かして市場(事業)化したものです。

 また、今後、ますます激変する世界経済や産業杜会に呼応し、新規事業化を図る大手企業との競争と連携を通じて成長を図るには、技術開発力という強力な武器を持つ以外には、有効な手段はないと言えます。そして、技術開発を経営戦略の上に位置づけた経営システムの合理的な運用が同時に必要とされます。

■ 技術開発力を蓄積するには、独創性を最優先しなければなりません。

B独創的な技術開発には、「質の良い情報」収集のためのネットワークが不可欠です。

社内外の関係者から、新鮮で質の良い情報を得るためには、相互の信頼関係の確立がなければなりません。

■ 常に新鮮な情報収集→情報整理と理解一相手に対する情報提供を通じて信頼関係確立によるヒューマンネットワークの形成が求められます。

(世界の勤向/日本の現状/各社の技術開発テーマ・動向/市場動向(潜在的な欲求変化)/今後成長する分野の情報等、独創的な技術開発と事業化に必要な情報)

 経験から言えることは、「1つでも、相手に役に立ったという結果」が、情報を提供者した相手との信頼を深め、常に機能できる人脈が形成されていくということです。

 図1は、ハイブリッドテクノロジー経営に到達できる要件を示しています。まず、「必死の努力をする経営者かどうか」がまず問われるわけです。多くの中小企業経営者と出会う中で、「出来ない理由が先に来る」と感じる事が少なくありません。

 *独自技術がなければ、優秀な技術者を引き抜く等の自助努力をすべきです。

*優秀な人的素材を求めて、育てる努力が必要です。

*優秀な人的素材を求めて、育てる努力が必要です。

*「従者に英雄なしという言葉がありますが、身近に100程度の価値が眠っているのに気づかないだけです。テーマになる「問題点」を明確化し、周囲を眺めなさい。

次に、「先を読むマーケテイング感覚」を養うには、苦労に身を置くことです。さまざまな情報収集源となる現場に自ら足を運ぶことによって、独自の勘=直感力を付けていくことができます。テーマ選定には、潜在化している市場「欲求」を見出すことが不可欠です。新聞や雑誌等のオープン情報は、参考にはなっても、潜在的な欲求を掘り起こすには不十分だということができます。

 他社と共同で開発するのは嫌だという中小企業経営者もおりますが、そのすべてができればよいが、1社単独ですべてができる時代ではないと思います。共生や共創に目を向けるべきだはないだろうかと考えます。

Cいかにして情報ネットワークを作るかということと同時に、得られた情報の活用も重要です。情報活用できるカが問題になります。40年近い開発人生を通じて、以下のような教訓を得ました。

■新技術を創造して、事業化をめざす時に、開発テーマの選定の時点において50%以上が決定されます。得られた情報から時代の動きを先取りして、経営システムを「変化」に対応させ、開発テーマの選定に反映させていくことが重要です。

□いかに良い技術・商品でも、市場の欲求がそこになければ事業は成功しません。

■いかに良い技術・商品でも、欲しいときに提供できなければ事業は成功しません。

□市場が欲求している価値(機能+コスト+使いやすさ)と一致しなければなりません。

■市場が、欲しいときに、欲しいコストで、求められる機能を持つという「すべての点」を満足させなければならないのです。

 このテーマ選定においては、各分野におけるメーカーの動向が鍵となります。

 市場の動向、潜在的・顕在化した欲求変化等を分析して、テーマ選定を行いますが、この場合に、潜在的な欲求は、多くの場合、各メーカーの「困っている間題」という形を取って現れてくることが少なくありません。

D中小企業の技術開発と新規事業化における最大の障害は、多岐にわたる技術分野をすべて理解し、活用できる能力(人材・組識)を持つことです。大手企業は、組識力と優れた人材によるコーディネートによって、対応しておりますが、中小企業では、これに相当するゼネラリストを持たなければなりませんが、非常に困難なことです。

■創造的な技術開発は、開発に携わる人を見つけて教育し、その才能が発揮できる企業内環境を作ると共に、“場″を与えることです。

口商品は、多岐にわたる技術が集約されたものであり、それらの要素技術に関する情報をネットワークで見いだすことも重要です。

■市場にもっとも近いところで(現場)仕事をしている中小企業の強み(特徴)を活かして、市場からの欲求に即した商品を考え、各要素をハイフリッド化して、提供していくことができます。

Eこれからの中小企業には、異分野のプロセス導入と創造性を活かしたプロセス・プロダクトイノベーションが強力な武器になります。今後の日本経済には、バブル経済時代のような成長は見込むことは困難です。アジア諸国とのコスト競争もますます厳しくなります。また、大手企業との競合分野も増えることは間違いありません。したがって、オリジナリテイを持つ独創的な技術開発力とそれを活かす経営戦略が中小企業に明日の展望を切り開くのです。

 新規事業化に係わるキーワード

1)「はじめを創る」ことが、新事業の原点である。

2)すべては、人と人との会話から始まる.

3)市場の動向と情報は、汗を流して自分自身で確認せよ。

4)情報発信源に身を置け。そして、本質をつかめ。

5)情報を欲するなら、自らが情報発信者となれ。

6)頭の中でのみ考えるな。実践の中から新しい現象を発見しよう。

7)経営者は、個人が持っている才能・能力を充分に発揮できる環境を与えることが大切である。

8)仕事は人がする。人の活用が成功の鍵となる。

9)社会では、一夜漬けは通用しない。常に勉強せよ。

10)「出来ません」という、その結論が重要なテーマとなる。

 

2、中小企業が21世紀に生き残るために

 日本におけるベンチヤービジネスブームは、昭和40年頃から第1次ブーム、第2次フームと起こつてきましたが、その主役の多くは舞台から降りています。理由はいろいろありましたが、「一発勝負的に出現しただけの企業は、どんなに技術的に優れていても、ベンチヤービジネスに値しない。なぜならば、企業には、継続性が求められているからだ」と思います。この数年、第三次ベンチヤービジネスブームと言われるような現象が起きておりますが、「世界中で認められる価値とオリジナリテイ、市場が受け入れるコストに目を向けて欲しい」と考えます。

 べンチヤービジネスには、2つの絶対的な成功するための要件が必要です。

 第1は、高い成功意欲と強い意志を持って、新規部門への挑戦を行うことです。

 第2は、商品・新技術・サービス・経営システムのいずれかに、イノベーションを持った「独創性」と「社会性」を有することです。

 今後、中小企業が成功していくには、以下のようなことを重視して経営に当たって欲しいと考えています。

1)会勤向の変化を機敏に察知する力

2)新しい事業に挑戦する勇気と実行力

3)創造的な発見力

4)実践する力

5)経営者のり一ダーシップ

6)技術と潜在的な欲求の結合力

7)ユーザサイドからの視点を持つ力

8)本質を見極める力と現状を改革する意識

9)今までの通念・習慣・常識を打破する力

10)新しい企業理念を作る力

 

新規事業化には、さらに、3項目が求められます。

イ、その事業内容が世界的に価値を認められること。

ロ、独創性を伴って市場に受け入れられること。

ハ、コストが受け入れられること。

 

 20世紀型企業は、図5の左側に示したように、「護送船団法式」に代表される経営環境の中で成長・発展を図ってきました。しかし、21世紀企業は、これまでのような現状維持的な消極的経営では、新しい市場を開拓していくことはできません。市場ニーズを見抜き、夕一ゲットに向かって独創的な発想をぶつけていくダイナミズムが要求されてきます。そのためには、個性・異質・独創というキーワードがぶつかり合う経営システムが不可欠であり、先見性・戦略・決定のスピード化・少数精鋭と成果主義が選択されなければならないと思います。利益を生まない開発には手を染めない。その代わりに、小さくとも得意な市場を独占できる経営戦略を実践する事です。また、市場の潜在的な欲求を見つけオリジナリテイを発揮していくことで、ハイブリッドテクノロジーとイノベーションを身に付けて欲しいものです。さらに同質化の時代から、異質の時代を迎え、大手企業との共生と共創も心掛けていくことも大切だと思います。

 

3.キュービックプリンテイングにおける事例

 昭和40年代に入り、プラスチックが各方面で利用されるようになった。プラスチックの良さは、着色や形等の意匠面での自由度が大きいことであったが、成型時に色のばらつきは避けられませんでした。

 しかし、プラスチックの用途が拡大するにつれて、次のような情報が入り、得意先からも「悩み」が打ち明けられたことが世界的な発明につながったわけです。

 情報Aプラスチックに対する印刷技術では、曲面にフイツトする印刷は不可能だ。

  プラスチックに対する印刷技術では

曲面にフイツトする印刷はできないという知識持っていた

 

 しかし、プラスチックには曲面を持つ製品が多く、柄を付ける技術が欲しいという声があることを知っていた

 

1973年にNHKが「プラスチック」文明で放映

 

水面にインクを流して転写する「墨流し」技法の記事を見た

 

1973年に大手電機メーカーを訪ねた時に、電気掃除機のカラー不均一不良の悩みを聞く

 

プラスチック時代を前に、三次元曲面に印刷する方去が世界にないという関係者の情報

 

曲面印刷技術を開発すると新規事業になる可能性が大きい−発想

 

なんとか、独自技術の糸口を掴みたい一現場に身を置いた

特許・前例調査   合津塗りへ。

          中からヒラメキを感じた

 

          現場に足を運んだ

継続的な努力⇒病気

 

熊の胃を包むオプラートを見た瞬間に「発想」

 

情報B しかし、プラスチックには曲面の製品が多く、部品を組み合わせる場合には、色         違い不良が多く、歩留まりが悪い。柄付け技術が欲しい。一発想1

情報C NHKテレビで「プラスチック文明到来」を特集番組。事業になる−発想2

情報D 水面にインクを流して転写する「墨流し」技法の記事を見る。

情報E 得意先がラクビーボール型雷気掃除機を開発。同時成形法でも不良が40%近い。曲面印刷ができれば市場が掴める一発想3

過去15年にさかのぼって特許調査。競合する方法に関する先願はあるが、曲面に印刷するものは少ない。会津地方に「会津塗り」技術があることが分かり、現地調査。他に、既存技術を調べた結果、以下のような夕ーゲツトが設定できました。

イ.印刷方式では、「希望した柄、デザイン等を再現する」ことが絶対的な条件。これを欠くと、工業的な製品にはならない。したがって、再現性のない墨流しや会津塗りは、印刷技術に代賛できない。

ロ.曲面にフイツトさせるには、気体か液体を使用するしかない。しかし、印刷パ夕一ンを転写して、希望した柄、テザイン等の固定、またはプリントが国難だ。

 問題意識が明確になり、もっとも高いハードルを超えるために、問題意識を維持・持続・継続しながら悩み、解決策を考案するために集中していくうちに、胃痛となる。

 ようやく、入り口が分かりました。しかし、これからが開発の正念場。約5年間は、オブラートをフイルム原料として商品化を進めながら、量産技術の開発に入りました。

ヒントは得た。しかし、工業規模で再現性のある転写を実用化するには、さらに、多くの困難が横たわっていたわけです。その主なテーマを上げると、

転写に必要な時問保持、

 水面の動きにフイツトするゲル層の制御、

 転写に最適な薄いフイルム開発と転写条件等、

等と量産規模プラントにおいて、口に言えない苦労を重ねた。

 新規テーマに係わる開発のハードルについて、開発者に求められるのは「集中力と忍耐力」しかないと考えます。「高い璧を乗り越えることができれば、問違いなく開発コンセプトに合致したものが生まれる。ハードルは高ければ高いほど、乗り越えた時に我が物になる。技術者には、諦めないで、思い続けるという持続・継続する粘り強さが必要だ」

 約40年間の開発人生から得た教訓です。

 フイルムをグラビア印剛→インクの再ウェット化→水中転写

    出荷一表面仕上ー乾燥−フイルム除去・洗浄

こうして完成した曲面印刷「キュービックプリンテイング」は、上記のような6工程によって、三次元曲面に水に溶けるフイルムを転写させています。

 

ハイブリッドテクノロジー:技術の融合化。異分野の多種多様な技術要素を複合化・融合      化して、一見、不可能と思える技術の璧を乗り越える開発手法,

イノベーション:新規性・独創性に基づく発明を事業化するには、市場が求める機能とコスト、納期を満足させなければならない。例えば、既成商品に対して、コスト半分以下、機能を充実して、納期を短縮できる真の競争力を実現する生産技術・生産システムの革新

を言う。

 

図1ハイブリッドテクノジーに到達する要件

 

必死の努力をする経営者      必死に努力をする姿勢に多くの場合欠けている

 

                出来ない理由が先に来る・自分の責任にしない

                   うちには技術力が無い etc,

 

独自技術を持ちたい。従者に英雄なし。身近の価値に気付かない。周囲を見てテーマになる問題を明確化する。優秀な技術者を引き抜く等、自助努力をする。優秀な人的素材を求め、育てる努力をする(時間はかかる)等。

 

         先を読むマーケティング感覚

                        苦労に身をおく

         経営者の情報収集と独自の勘に頼る

                        自ら情報の現場に

        市場要求度           身を運ぶ努力をする

              テーマ選択

                       開発スタイルを

                  共 創  ゛1社単独型から

                       ゛複数社相互補充型へ

         ハイブリッドテクノロジー