◆木材を鉄筋でつなぐAKジョイントの特長
今,ご紹介頂きました,市浦都市開発建築コンサルタンツの東京事務所に勤務している溝渕と申します。私共の会社は,東京,大阪,福岡と,全国に3事務所ございまして,街づくり,都市計画から設計,そして今後の住宅がどうあるべきかというコンサルタントも含めて,住宅を専門に取り扱っています。前回の神戸のシンポジウムでは,新しい技術を使った木造の団地を紹介しました。本日は第2回ということで,少し視点を変えて,新しい木造の接合技術を用いて古い民家の再生を試みた事例を紹介させて頂きます。
本日ご紹介したいのは,AKジョイントという,新しく開発した木材の接合技術です。このAKジョイントは,木材に鉄筋(異型鉄筋)を挿入するための横長の欠き込みを施し,鉄筋を挿入し,この鉄筋を介して木材と木材を接合し,最後に木栓で蓋をして,接着剤を注入し,鉄筋と木材の間の空隙を接着剤で充填するという方法をとっています(写真1)。
弊社では従来も鉄筋を挿入する木材の接合方法を開発していましたが,それは接合する木材の双方に鉄筋を挿入する深い縦長の穴を開け,その穴に異形鉄筋を挿入して,空隙を接着剤で固めて,木材を接着させるという方法でした。これに対して,AKジョイントは,横長の欠き込みをあけて,横から鉄筋を入れて,その部分に木栓を入れるという接合方法になっているため,難しい穴あけ技術も不要,施工精度も施工性も良くなっています。このような新しい接合方法を開発したことによって,これからご紹介する民家の再生が実現しました。
従来の方法では,片側の材に挿入した鉄筋が必ず材軸方向に出ているので,横から材を入れることができず,必ず材軸の方向から別の材を挿入していくしかありませんでした。しかし,民家の改修,補修の際には,柱の一部の傷んでいる部分を切り取って,新しい材を横から入れる技術が要求されることになりますので,従来の材軸方向から入れるかたちでは柱が入りません。それが,AKジョイントならば,横から材を挿入できます。この技術により,構造材の傷んだ部分のみを取替えるという民家の補修が可能になりました。
AKジョイントの大きな特長は,3つあります。
第1に,鉄筋を介して接着剤で接合しますので,非常に高い接合強度が出ます。柱と土台の引き抜き試験結果では,在来技術による接合部の強度が2.8トンであったのに対して,AKジョイントでは8.2トンでした。柱と胴差しの剪断試験結果でも,AKジョイントは在来技術による接合部の倍位の9.9トンという数値を示しました。
第2の特長は,施工が簡単だということです。先ほど申し上げましたように,横長に穴を開けて鉄筋を入れて接着剤を注入するだけですので,接着剤に関する基本的な知識は要求されますが,技巧的な難しさが要求されません。
第3は,横から挿入するという形式ですので部材の交換が容易で,幅広い用途に使えます。これからご紹介する民家は代表的な改修事例です。
◆民家再生の具体的な手法
本日ご紹介する事例は,岡山県にある大正時代に建てられた築後80年の住宅です。当初,施主はすべて取り壊して改築することを望んでいました。いくつかの大きな地震を受けて,建物の一部は傾いている状態でしたが,とてもよい木材をふんだんに使っている見事な民家でしたので,傷みが激しくやむを得ない部分は,民家の一部を壊して建て直すが,残せる部分はAKジョイントを使って,傷んだ部分のみ,横から材を滑り込ませるかたちで補修し,民家を再生させることになりました。今日は,この再生の部分を中心にご説明したいと思います。
この民家の母屋に関して,柱の老朽度をチェックしたところ,土台から下50cm位のところまでは腐れが発生していましたが,柱の上の方や梁との取合い部に関しては全く問題がありませんでした。せっかく80年も建っている民家なので,使える部分は極力残し,劣化している柱の部分のみ取り替えようという方針を立て,先ほど申し上げたように,劣化した部分の柱を取り除き,補修する部分の柱を横から挿入して,部材の補修を行いました。
また,耐震補強も兼ねて,新しく耐力壁を入れて建物全体の耐震性を高める計画をつくりました。
土台に関しては,まだ使えるところ,腐ってるところなどいろいろありましたので,腐っている部分の土台は全部取り除いて,横から新しい土台の材を挿入するかたちで補強しました。なお,上部の柱がそのまま使える部分については,柱は動かさずに新しい土台の材を横から入れました。
柱の中には,まれに土台の部分から上まで全部取り替える必要があるものもありました。その場合は土台と桁をそのまま使い,その間に120mm角の新しい柱を横から滑り込ませて,AKジョイントでつなげる方法をとりました。
もう少し具体的にご紹介しましょう。写真2は,既存の土台を取り除いて,新しい土台と柱を設置したところです。基本的に,新しい土台に鉄筋を立てておき,鉄筋に合うように横から滑り込ませるかたちで柱を入れています。もともとの柱は105mm角でしたが,今回は耐震性を高めるために,120mm角の柱を使いました。したがって,新たな柱の部分が太くなっています。それが写真3です。
見てわかりますように,下の部分と上の部分を比べますと,下の方が少し太くなっています。これは,上の部分の柱をそのまま生かして,下に新しい柱を入れたからです。写真4は,鉄筋が入ったところです。下の方は木栓で塞がれているので鉄筋が見えませんが,上の方はまだ蓋をしていないので鉄筋が見えます。そのまわりに見えているのは型枠材で,施工が終わったら取りはずします。
写真5は,穴開けをしているところです。専用のジグとルータを使って,既存の柱の健全な部分に鉄筋の横入れ穴を開けています。写真6は,柱をすべて交換した部分で,古い材に新しい柱が取り付いてる状態です。新しい柱はスギ材を使い,横入れして,上の桁の部分まで全部取り替えました。まだ木栓をしていませんので,穴が開いた状態がわかります。
写真7は,ジョイント部分に接着剤を注入しているところです。接着剤はエポキシ樹脂系のものを使っています。スギ材は含水率が高いために,これまでエポキシ系の接着剤がうまく硬化するかどうかに大変な注意が必要であったのですが,この補修を行う際に,含水率が高くても高い性能を発揮するというエポキシ樹脂系接着剤が開発されたので,スギ材を使っても含水率を気にしないで工事ができました。なお,接着剤は,エポキシ樹脂の2液混合型を使っています。2液がうまく混ざらないと接着性能を発揮しないので,接着剤の中に色素を入れて,うまく混ざったことを色で確認する方法をとりました。
耐震補強のために新しくつくった耐力壁が,写真8です。古い民家ですので,土間や台所部分などの実際のフレームを生かしたかたちで,耐力壁をつくりました。
写真9は,AKジョイントを使って,一部既存の母屋を取り壊して改築をした部分です。各接合部が鉄筋を包含したかたちになっていますので,外からは金物が全く見えません。積み木細工の様に金物が全く見えないということは,意匠的にも美しいので,なるべく木材のフレーム部分を外に出して意匠的なセールスポイントにすることを考えています。また,金物の錆とか腐食が問題になる海に近い地域などでは,このように鉄筋を包含することで,耐久性の高い木造住宅をつくることができるというメリットもあります。
写真10は,今申しましたように,木造のフレーム部分をなるべく表に出し,それをあえて強調した意匠設計を行った改築部分の民家の完成写真です。ここまで説明してきたように,柱を補強して耐震性を高めて再生した部分と,建て替え部分が,同じ木造にしたことによって調和しています。
この民家は,これまでに幾度か大地震に遭遇しています。最近では平成7年の阪神・淡路大震災や平成12年の鳥取県西部地震を経験しています。私共が初めて現場に行った時には目視でもわかる位の傾きがあり,人が入って作業をするのでさえ,危険な部分がありましたが,こうして危険な部分は取り壊し,生かせる部分は補修するということで,立派に再生させることができました。
ちなみに,写真11は,補強をする際に取り除いた古い材です。シロアリの害と腐れとによって,ボロボロになっていたことがおわかりいただけると思います。
◆鹿児島市郊外でも木造団地を建築
以上で民家再生の事例紹介は終わりますが,もう1つ,鹿児島県でAKジョイントを利用した木造団地をつくっていますので,簡単にご紹介したいと思います。
ここは,全部で10棟の木造団地です。県営住宅と町営住宅が混在する木造団地で,このうち,3号棟をAKジョイントを使って建築しています。場所は,鹿児島市の郊外で,周辺には緑が多く,RC造の住宅では,とても周囲の景観に合わないこと,鹿児島県はスギの産地であり,地元産のスギをなるべく活用したいということ,さらに高齢者がたくさん住むことが予想されるので,高齢者にも優しい住宅にするということで木造の団地をつくることになりました。郊外で土地はゆとりがありますので,積層の2階建て木造住宅を計画しました。
私共は,これまでも木造の団地に取り組んできました。特にこの10年位は,各地の団地計画にあたって,「ぜひ人に優しい木造で」とアピールし続けてきましたが,最近ようやく「木造のよさとは何か」,「RC造と比べてどこが優れていてどういう特徴があるのか」ということが,行政の方にも浸透してきたという実感を持っています。これまでの,やみくもに「とにかく木造で」とアピールしてきた段階から,少しステージが上がったように感じています。「ここはこういう理由で木造がいいのではないか」,「ここはやはりRC造の方がいいのではないか」と,適材適所の使い方を提案できるようになってきたように感じています。
今,世の中全体が循環型社会を目指しており,中古住宅のストックを活用する時代になってきています。本日ご紹介した民家は1軒だけでしたが,私共としては今後も中古住宅のストック再生に取り組んでいきたいと考えています。「木造の住宅は古くなっても再生すればまた使える」ということをアピールし続け,民家の再生も含めた幅広い木造の技術を展開していきたいと思っています。
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