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事例3 「木POINT」拠点に流通改革,消費者対応進める
東濃地域木材流通センター理事長 金子 一弘

   

地元の材を地元で買える,新しい木材流通に挑戦
 ただいまご紹介をいただきました,金子です。

 私共は,平成7年に林野庁の国産材産地体制整備事業を受けて,岐阜県の恵那市,いわゆる東濃地域と呼ばれるところに「木(KEY)POINT」という施設をつくりました。正式名称は,「東濃地域木材流通センター」というのですが,皆さんからは,「キーポイント」と通称で呼んでいただいています。

 私共の地域から奥の木曾谷では,昔から木1本首1つという話があるように,留山などの木を守り育ててきた歴史がありました。そうした歴史の流れをくんだ人工林から生産された木材が,昭和40年代から「東濃ヒノキ」というブランドで全国に流通するようになりました。しかし,地元で見ていますと,地元で生産された材が商品として地元で消費されるという流れにはなっていませんでした。

 最近では,全国各地で「東濃ヒノキ」という名前で流通するようになっています。けれども,私共が「キーポイント」をつくるまでは,地元には「東濃ヒノキ」を生産する製材工場はたくさんあるけれども,それらの工場で生産された「東濃ヒノキ」は大消費地の市場へ1回出ていき,そこからまた地元へ戻ってくるという流れになっていました。

 ヒノキの3m×4寸角の乾燥材(KD,四面モルダー仕上げ)は,現在,m3当たり9万円前後で流通しています。話をわかりやすくするためにm3当たり10万円としまして,この10万円で流通する木材が地元の製材工場で生産されると,従来は名古屋の市場へ持ち込まれていました。東濃から名古屋までの距離は70〜100q位ありますので,運賃がm3当たり2,500円位かかります。

 名古屋の市場で,この木材を市売りというかたちで10万円で売りますと,だいたい手数料を8%取られます。この8%の手数料の内訳は,次のようになっています。市場には,本社という市場を開いている会社と,木材を実際に集荷してきて販売する問屋さん(浜問屋と言います)が何軒も入っていて,従来ですと2%の手数料を本社が取り,6%を問屋さんが取るというかたちでした。しかし,1つの市場の売上げが150億円とか160億円あった10年前と,60億円を切れるような現在も,同じ2%・6%の手数料でやってると市場がつぶれてしまうので,現在ではいろいろな仕組みが取り入れられています。荷物の整理賃ですとか,支払いは市があってから60日の手形が原則ですが,生産者に現金を支払う際,その分の金利を差し引くようになっています。この荷物の整理賃と利息で,だいたい3.5%〜4.5%位の手数料を取られます。つまり,名古屋の市場で木材を売ると,全部で11.5%とか12.5%の手数料がかかるわけです。

 そして,名古屋の市場で私共東濃の業者が木材を仕入れると,名古屋から東濃までの運賃がまた2,500円かかります。東濃で生産された木材を名古屋の市場で売るときに手数料をとられ,さらに名古屋で仕入れて東濃に持ってくると,102,500円の仕入原価になってしまうわけです。

 この102,500円の木材を大工さんや工務店さんに販売する時には,だいたい115,000円〜125,000円の小売価格になります。小売業者の利ざやは15%〜25%位というのが従来の木材流通でした。

 このように,東濃ヒノキの産地であるにもかかわらず,1回名古屋の市場まで持っていかないと木材の価格が決まらず,このためによけいなコストがかかるという状態が,「木POINT」をつくるまではあったのです。

 それでは,地元の大工さんが近所の製材工場へ行って,木材を買ったら安くなるのではないかと思われるでしょうが,これがなかなか難しい。実際に大工さんが知り合いの製材工場へ行って,あれが欲しい,これが欲しいと言っても,販売価格は小売価格になりますので,安くはなりません。名古屋の小売価格はこんなものだからそれと同じという価格の決まり方になります。やっぱり木材の値段を決める機能はどこかで必要だということで,旧来の木材流通がずっと続いてきました。

 しかし,何とか地元のものを地元で集めて販売する方法がないかと考えていたところ,先ほど申し上げた林野庁の補助事業を受けることができ,平成7年7月に「木POINT」をオープンすることができたわけです。

配達なし,現金決済,従来にないルールが定着
 「木POINT」では,現在,年間1万m3位の木材を扱っており,売上げは8億5千万円位となっています。しかし,事業を始めた年は,阪神・淡路大震災のあったときで,本当に売れませんでした。

 余談ですが,阪神・淡路大震災は,平成7年1月17日午前5時46分に起きました。あれがもし朝の9時とか10時でしたら,通勤・通学の時間帯と重なり,新幹線などでも重大な事故が起きていたのではないかと思います。たまたま朝の早い時間で,自宅で亡くなられた方が多く,木造住宅が悪者にされて住宅着工戸数が一時的に減ったという年でした。

 この年にスタートした「木POINT」は,6人のスタッフでやっていましたが,朝から電話もかかってこない,お客さんもこない,製品も入ってこないという状況が半年位続きました。そうした中で,私達は,毎日毎日,工務店さんや大工さんを1軒1軒回りまして,地元の材を地元の皆さんにお値打ちな価格で使って頂く仕組みをつくりたい,消費者の皆様に少しでも安価に地元の木材を使った家に住んで頂きたいという趣旨を説明し,協力をお願いし続けました。そして,半年位経ちましたら,少しずつ木材が動き始めるようになりました。

 私共は,キャッシュ・アンド・キャリーというかたちで事業を始めました。配達は一切しません。手形での取引も一切しません。支払いは全部現金でお願いします,ということにしました。また,取引を始めて頂く際にも,印鑑証明書と保証人を付けて契約書を交わして下さいなど,それまでにはないルールを決めて始めたものですから,最初の半年位は相手にもされず,本当に悲惨な状態でした。来る日も来る日も,スタッフが,朝の7時から夜の11時,1時,2時まで,どうしたら私達の考えをお客様に理解してもらえるのだろうかと悩みながら,めげずにお客様のところを回るという日々が続きました。

 ところが,雪だるまが大きくなるのと一緒で,ご契約を頂くお客様が50件を超えた頃から,様子が変わってきました。実際にお買い上げいただいたお客様にしてみると,一番近い地元の生産者から直接新しい材料が従来よりも安く手に入る。各製材工場から出品していただいた材料を比較しながら,自分の気に入ったものを気に入っただけ買える。1つ1つは小さな梱包ですけれども,それぞれお値打ちの価格で買えることがわかって頂くようになり,口コミでお客様が増えていきました。最近では,かなり遠方の客様にも来ていただけるようになりました。

 例えば,一昨年は,北海道・釧路のお寺の和尚さんがやって来られました。この方を最初に事務所で見たとき,図体の大きい,頭丸坊主の,ちょっと人相の恐いおじさんが机の上に現金をたくさん積み上げているので,一体何だろうとびっくりした思い出があります。話を聞くと,「木POINT」の近くの美濃加茂市に臨済宗のお寺があり,そこで修行しておられた和尚さんということでした。北海道で庫裏をつくるのに,どうしてもヒノキでつくりたいという思いがあり,地元の工務店さんに見積もりをお願いしたら,材料代と予算が全然合わない。なんとか少しでもお値打ちに材料が調達できないかと,人づてに尋ねて,「木POINT」に来られたようでした。檀家の方から千円札のお布施をたくさん集めてこられて,現金を机の上に300万円とか350万円とか山ほど積み上げて,それを皆で数えていた光景を見て,本当にびっくりさせられました。結局,大阪へ行っている保冷車,冷凍の蟹を運ぶトラックをチャーターして,その帰り便に東濃ヒノキの柱,通し柱,鴨居,敷居などを積んで帰られました。

 最近では千葉とか東京とか,神奈川の工務店さんが,「木POINT」で製品をアッセンブルして,東濃にあるプレカット工場で加工してから現地へ届けるという流れもできています。地元の住宅着工は伸び悩んでいますし,大手ハウスメーカーも入ってきていますので楽な状況ではありませんが,遠隔地のお客様の需要がかなり増えていることもあって,今年度の決算でも売上げが対前年度比19.8%アップと伸びました。この不景気のときに売上げが伸びたと言うと,まわりから叱られるからあんまり言うなと注意されているのですが,このような状況で,新しいやり方,仕組みづくりに一生懸命取り組んでいます。

消費者に近づいた考え方が不可欠
写真1 「木POINT」では,毎月第1と第3土曜日に市をやっています。
写真1は,市売りの風景です。現在,300件以上の工務店さんと取引き契約を結ばせていただいています。市の日にはこのように競りを行いながら,大工さん,工務店さんが材料の品定めをして,値段と品質を比較してからお買い上げいただいています。なかには家を建てられる個人のお客さんも市をのぞかれて,実際に品物を見て帰るということもあります。

 木材にはいろいろな流れがありますが,多くの皆さんには,いくらで売っているか,どこで売っているかという,木材に関する基本的なことがわからないんですね。木材というのは何か特殊なものであり,特殊な流通形態をとっていると消費者や工務店さんには見えていると思います。

 そこで私達は,木材流通をわかりやすくするために,すべての木材にバーコードを付けて商品管理をしています。価格もすべて生産者の希望価格(指値)を表示しています。市での取引価格が,希望価格どおりに決まるわけではありませんが,価格を表示することにしています。

 この価格表示だけでも,最初の頃には抵抗がありました。工務店さんに,「こんな値段をお客さんが見たら,俺達が困るからやめてくれ」と言われたこともありました。しかし,こうした姿勢が木材の価格をおかしくしているのではないかということで,本当のお客様は誰かをめぐってスタッフと半年位いろいろな議論をしました。結論は,本当のお客さまは長い住宅ローンを抱えているお施主さんであるということでした。

 こんなこともありました。お施主さんがテレビ番組か何かを見て「木POINT」に来られて,木材を見積もってくれということなので見積りました。すると,工務店さんの見積りよりも100万円近く安かったのです。それで,お施主さんが工務店さんに「おたくはこれだけ高い」と話したようで,その工務店さんがうちへきて怒るのです。「なんでお前のところはそういうことをするんだ,業界のやり方に反する」とも言われました。私は,「おたくには1円も買ってもらっていない。お客さんではないので関係ない」と言い返しました。そうしたことがあったので,その工務店さんはもう来ないのではないかと思っていましたら,最近になって続けて来られるようになって,いいお客様になっていただいています。やはり,わかりやすいものの流れをつくることが大事だと思います。

 最近では,ホームセンターでも国産材が販売されるようになりました。けれども,北欧やアメリカの木材は1枚1枚ラッピングされて商品として展示されていますが,国産材はなかなかそこまで商品化されていません。もう少し消費者に近づいたものの流れや考え方をつくらなければならないと思います。

プロダクト・アウトの発想から脱し,賢い消費者をつくる
 私はずっとプロダクト・アウトからマーケット・インへということを言い続けています。つくってものを置いておけば売れる時代は終わり,これからは消費者の立場でものをつくったり考えたりしなければなりません。

 戦後の日本の住宅着工戸数は,昭和43年頃から年平均150万戸位で推移してきました。それが現在は,120万戸,将来は100万戸になると言われています。150万戸の頃は,大工さん,工務店さんが中心の仕事が続いていました。私が24年前に東京から岐阜に引っ越してきた頃は,建前になると大工さんと一緒にお施主さんにごちそうしていただいて,帰りにはご祝儀までいただいていました。このような慣行は,他の商売からは考えられないと思います。私共の業界は,30数年間そういう状態が続いてきましたから,今1つプロダクト・アウトの発想から抜けきれないのだと思います。

 現在,住宅着工戸数が120万戸を切っているのに,180万戸位供給できる体制ができています。この60万戸分のギャップは,業界が淘汰されないと成り立たないという状況です。そうした状況の中で自分達の仕事を考えていったときに,地域の中で家をつくる人達と材料とか技術者とかをつなぐ仕掛けをつくっていかなければならないと考えました。「木POINT」という名前は,木で地域でつないでいく鍵の役割の役割を果たすということでネーミングをしました。お客様と材料(東濃ヒノキなど木材),それと住宅をつくる工務店さん,その3者をつなぐ鍵としての役割を,私たちは果たさなければならないというコンセプトです。

 私共では,木材の流通合理化とともに,賢い消費者をつくろうという取り組みもしています。

 私共の施設は3つに分かれていて,2棟が木材の製品流通のための倉庫,もう1棟は木造住宅についての展示棟で約900uあります。この展示棟に,住宅建築に使われる部品,いろいろな建材などを陳列して,説明できるようになっています。また年に2回,「総合住宅展」というイベントを開催して,工務店さんや家を建てられる方,税理士,設計士など,いろいろな方にお集まり頂き,住宅建築の相談会を春と秋に1回ずつ開催しています。

 また,「平成住まい塾」という勉強会を開催しています。これは,半年間にわたって家づくりのための勉強をするもので,税金や資金調達の話,建築基準法の勉強,インテリアコーディネーターの話などいろいろなことをやります。毎回夜の7時から9時までやるのですが,授業の前に私か担当の者が,日本の山についての話や,木の話――スギの50年生の木21本で大人が1年間に呼吸する酸素量が供給できる,日本の山では毎年8,000万m3の木が生長しているので,たくさん伐っても問題ない――といった話をし,その後で,地域の工務店さんに,地域の材料を使って地域の家をつくろうという話をしてもらっています。

 「平成住まい塾」は,半年間で10回の講座があり,そのうち1回は休日を使って地域の製材工場やプレカット工場,木造住宅の工事現場,あるいは実際に建てて住んでいる家を訪問するなど,地域材住宅の見学・研修も実施しています。

 授業料は,1家族21,000円です。家族で何人連れてきてもかまいません。無料にすると2回目から欠席率が高くなるので,少しお金をいただいています。最近の出席率は,85〜90%位をキープしています。「平成住まい塾」には,これまでに100人以上の卒業者がいます。こうした取り組みにより,地域の工務店さんに頼んで家を建てるという流れが少しずつできています。今後,私共としては,受講生の人数をもっと増やす方法を考えなければならないと思っています。

「性能の時代」にマッチした家づくりを,技能者養成にも挑戦
写真2 「平成住まい塾」のなかで最近よくお話することは,これからの住宅は性能の時代だということです。
 写真2は,高断熱高気密住宅の気密度測定をしているところです。私共は,全室暖房をするような住宅をつくってみてはどうかという提案をしています。というのは,つい先日も「総合住宅展」の準備をしていて,私共の地域の温度分布を調べてみましたら,隣の山岡町の冬の最低気温は,北海道の小樽よりも寒いことがわかりました。また,私が住んでいる恵那市は,東北の仙台より冬の最低気温が3度も4度も低いことにも気がつきました。こうしたことが解ると,冬の寒さを何とかするだけでも住宅の快適性は随分違う,だから住宅の性能を上げようという提案をしています。

写真3 写真3は,岐阜県の森林アカデミーから借りてきた赤外線カメラで,冬の夕方の家を撮ったものですが,建物から熱がどんどん逃げているのが解ります。また,床暖房が30度以上にもなっていることがはっきり解ります。スウェーデンでは,床暖房の温度が27度以上ではいけないということです。私は,この話を聞いてびっくりしたのですが,現在の住宅では,30度以上でなければ寒くて暖房にならない。それはなぜかと言うと,建物の気密・断熱性能が悪いからです。

 私達の地域でも,Q値(熱損失係数)――これは建物から熱がどれ位外に逃げるかを数字で表したものです――が2W/m2Kを切るような住宅をつくってみると,全室暖房をしても非常に少ないエネルギーで快適な温度を保てます。暖房を切っていて,明け方に外の温度がマイナス4〜5度に下がった時でも,室内温度は14〜15度位を保てるような家ができる。こうした取り組みをしていて気づいたことは,やはり木造の家でなければ駄目だということでした。例えば,金物を使うと,そこのところで結露してしまうなどいろいろな問題があって,建物の寿命が短くなってしまいます。実際に施工精度をきちんと上げていこうとすると,木材はこんなにいい材料なのかと実感します。

 先頃カナダを訪れたのですが,いい住宅の窓はすべて木製でした。日本でも,木材のよさ,木造住宅の素晴らしさをきちんと地域で提案していけば,本当にいい住宅がつくれると思います。

 そのためには,技能者を養成しなければなりません。私共の地域では,岐阜県立高等技能専門校が行政機構改革で廃校になるというので,業界主体で「木匠塾」という学校をつくって運営を始めることにしました。2001年の4月から,廃校になった施設を利用して,地域の大工さんの経験者,あるいは現場監督の経験者,設計事務所の方々に生徒,あるいは先生として入っていただいて勉強会を始めています。木材のことをよく理解している設計士の方,木材の使い方をよく知っている大工・現場監督が必要な時代になってきています。そうした人材を養成することが大切です。お金の負担とか,時間の調整とか,いろいろ苦労しながら進めていますが,頑張って一生懸命取り組んでいるところです。

●協同組合東濃地域木材流通センターの連絡先
 〒509-720 岐阜県恵那市長島町正家石田613−10 TEL0573-25-6788 FAX 0573-25-6766

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