令和3年 構造用製材の含水率の差異が接合部の耐力にもたらす影響の検証報告

目次
  1. 事業の目的
  2. 事業実施概要
  3. 事業実施体制
  4. 試験体部材の調整
  5. 試験体仕様と試験体数
  6. 試験結果
  7. まとめ
  8. 報告書ダウンロード
 

1.事業の目的

 建築基準法施行令第46条第2項第1号イ及び告示第1898号※1第5号では、構造上主要な部分である柱及び横架材に使用する木材のうち、JASに適合する構造用製材については、原則、含水率の基準が15%以下※2であることが求められており、この理由について、「建築物の構造関係技術基準解説書」では、「含水率の高い木材を使用した場合に、乾燥に伴って収縮や割れ等が発生し、特に接合部において、予期しない耐力低下が生じるおそれがあるため」とされているが、含水率及び接合仕様と耐力低下の関係性については明確にされていない。
 
 一方で、現場などからは、「接合部の仕様によっては含水率を15%まで下げずとも、乾燥割れによる耐力が低下するおそれはなく、一般に流通している含水率20%以下の構造用製材を、一般的な接合方法で利用可能となれば、部材の調達や設計が容易となる。」という声や、「告示第1989号第5号ロでは『乾燥割れにより耐力が低下するおそれの少ない構造の接合』の場合は20%以下でよいとされているところ、本規定を適用可能な例示仕様※2が限られており、適用範囲を拡大できるのではないか。」といった声が聞かれる。こうした問題点に答えることで、中大規模の木造建築物の普及および製材の利用が促進されると考えられる。
 
 このため、告示第1898号第5号ロにおける「乾燥割れにより耐力が低下するおそれの少ない構造の接合」について、適用可能な仕様を明確化することを目的とする。
 

2.事業実施概要

 含水率20~25%の構造用製材を金物を用いて接合した構造体を平衡含水率まで乾燥させ(KD20-25試験体)、接合部の耐力等を計測する試験等を実施した。また、一方で、含水率15%以下の構造用製材を用いて接合した構造体(KD15試験体)についても、同様の試験等を実施した。

 両者のデータを比較することで、含水率の変化による乾燥割れと接合部の耐力低下の関係を検証し、乾燥割れにより耐力が低下するおそれの少ない構造の接合の仕様例等の検討を行った。
 
 

3.事業実施体制

 学識経験者等から構成される委員会を設置し、検討を行った。

構造用製材の含水率の差異が接合部の耐力にもたらす影響の検証
検討委員会委員名簿

(順不同、敬称略)
委員長 河合直人工学院大学建築学部建築学科教授
委員
  • 小林研治静岡大学学術院農学領域生物資源科学科住環境構造学研究室准教授
  • 川井安生秋田県立大学木材高度加工研究所准教授
  • 槌本敬大建築研究所材料研究グループ上席研究員
  • 中島昌一建築研究所構造研究グループ主任研究員
  • 原田真樹森林総合研究所木材研究部門構造利用研究領域領域長
  • 井道裕史森林総合研究所木材研究部門構造利用研究領域材料接合研究室室長
  • 加藤英雄森林総合研究所木材研究部門構造利用研究領域材料接合研究室主任研究員
  • 松元浩石川県農林総合研究センター林業試験場主任研究員
  • 河崎弥生岡山県農林水産総合センター森林研究所研究員
  • 田尾玄秀一般社団法人中大規模木造プレカット技術協会理事/樅建築事務所
  • 功刀友輔一般社団法人中大規模木造プレカット技術協会理事/株式会社マルレーヴ
  • 鈴木圭公益財団法人日本住宅・木材技術センター研究技術部技術主任
オブザーバー
  • 国土交通省住宅局住宅生産課木造住宅振興室
  • 林野庁林政部木材産業課
事務局 一般社団法人全国木材組合連合会(森田一行)
 

4.試験体部材の調整

 試験体木材は製材工場で測定したマイクロ波による含水率測定によって、それぞれ含水率20~25%、15%以下の3mスギ製材を調達した。試験条件をなるべく揃えるため、乾燥後の比重が同程度になるように木材の選別を行った。

 試験体施工時、試験後に絶乾法で測定した含水率と比重の関係を下図に示す。
 
KD15 :KD15試験体の試験後の含水率
D20-25b:KD20-25試験体の施工後のサンプル材の含水率
D20-25a:KD20-25試験体の試験後の含水率
   

5.試験体仕様と試験体数

 接合部の種類は、下記の7仕様とした。
  
  1. 合板添え板くぎ一面せん断接合(繊維方向)
  2. 合板添え板くぎ一面せん断接合(繊維直角方向)
  3. 鋼板添え板ビス一面せん断接合(繊維方向)
  4. 鋼板添え板ビス一面せん断接合(繊維直角方向)
  5. ビスの引き抜き接合
  6. 鋼棒挿入ドリフトピン二面せん断接合
  7. 鋼板添え板ボルト二面せん断接合
 
 更に「乾燥割れ」を再現するため、それぞれの接合仕様にスリット加工を行った試験体を用意した(右図)。
 
  1. KD15 スリット無し
  2. KD20-25 スリット無し
  3. KD15 スリット有り
  4. KD20-25 スリット有り

 以上、全7×4=28仕様、各6体、合計168体の試験を実施した。


 

6.試験結果

 試験結果の一部を紹介する。
 
 
 

7.まとめ

(1)KD15とKD20-25の比較

  • 概ね、降伏耐力及び終局耐力については有意差が無いと思われる。KD20-25/KD15を算出すると比重の割合とほぼ一致する。
  • ビスの引き抜きの降伏耐力については、KD20-25が低い値となったが、曲げ降伏型ではないので参考。
  • ボルト接合の降伏耐力及び終局耐力については、明らかにKD20-25が低い値となった。比重が0.42に対して0.36と差が大きいのでこれが要因のひとつと思われる。
  • 初期剛性については、くぎ・ビスの曲げ降伏型接合ではKD20-25の方が低い結果となった。比重の影響、応力緩和の影響が考えられる。一方でドリフトピン接合は乾燥収縮によって上昇するものと考えられる。
 
KD15とKD20-25の比較(平均値)
  Py(kN) Pu(kN) K(kN/mm) 比重
①KD15 ②KD20-25 ②/① ①KD15 ②KD20-25 ②/① ①KD15 ②KD20-25 ②/① ①KD15 ②KD20-25 ②/①
合板添え板くぎ一
面せん断
繊維平行 1.56 1.52 0.97 2.43 2.39 0.98 1.71 0.99 0.58 0.38 0.37 0.98
繊維直角 0.75 0.74 0.99 1.18 1.17 0.99 1.53 0.42 0.27 0.40 0.38 0.96
鋼板添え板ビス一
面せん断
繊維平行 7.56 6.66 0.88 12.62 11.22 0.89 7.02 7.72 1.10 0.39 0.39 0.98
繊維直角 3.63 3.34 0.92 6.14 5.85 0.95 1.85 1.46 0.79 0.41 0.36 0.89
くぎ引き抜き 4.96 3.86 0.78 6.43 6.04 0.94 11.26 12.19 1.08 0.40 0.36 0.91
鋼棒挿入ドリフト
ピン二面せん断
繊維平行 13.66 14.38 1.05 20.54 22.32 1.09 10.72 17.28 1.61 0.40 0.36 0.89
鋼板添え板ボルト
二面せん断
繊維平行 22.45 17.55 0.78 33.17 25.71 0.78 5.46 6.25 1.14 0.42 0.36 0.85
  
KD15とKD20-25の比較    (5%下限値)
  Py(kN) Pu(kN)
①KD15 ②KD20-25 ②/① ①KD15 ②KD20-25 ②/①
合板添え板くぎ一
面せん断
繊維平行 1.04 1.00 0.96 1.70 1.85 1.09
繊維直角 0.54 0.62 1.15 0.85 1.00 1.18
鋼板添え板ビス一
面せん断
繊維平行 5.29 5.77 1.09 9.08 8.57 0.94
繊維直角 2.60 2.73 1.05 4.60 4.07 0.88
くぎ引き抜き 3.62 2.57 0.71 4.62 4.98 1.08
鋼棒挿入ドリフト
ピン二面せん断
繊維平行 9.69 10.98 1.13 14.15 16.27 1.15
鋼板添え板ボルト
二面せん断
繊維平行 14.83 12.75 0.86 23.65 17.43 0.74
 

(2)スリットの有無の比較

  • 降伏耐力と終局耐力はスリット加工を施すと低下する。 ただし、ビス一面せん断の繊維直角と、ボルト接合は低下率が非常に少なく、 ほぼ変わらない結果となった。
  • 剛性についてはくぎ及びビスの一面せん断直角方向が大きく低下したが、 その他は変わらない結果となった。
  • 実設計において、含水率が20%から15%に低下した際に新しく生じた予期しな い割れを見込んで安全側に設計することが望ましいと思われる。
 
スリットの有無の比較    (平均値)
  Py(kN) Pu(kN) K(kN/mm) 比重
①スリット無 ②スリット有 ②/① ①スリット無 ②スリット有 ②/① ①スリット無 ②スリット有 ②/① ①スリット無 ②スリット有 ②/①
合板添え板くぎ一
面せん断
繊維平行 1.56 0.65 0.42 2.43 1.06 0.44 1.71 1.79 1.05 0.38 0.40 1.05
繊維直角 0.75 0.64 0.85 1.18 1.02 0.86 1.53 0.58 0.38 0.40 0.39 0.98
鋼板添え板ビス一
面せん断
繊維平行 7.56 4.64 0.61 12.62 8.07 0.64 7.02 7.72 1.10 0.39 0.39 0.98
繊維直角 3.63 3.55 0.98 6.14 5.64 0.92 1.85 1.24 0.67 0.41 0.39 0.97
くぎ引き抜き 4.96 3.45 0.70 6.43 4.97 0.77 11.26 10.97 0.97 0.40 0.39 0.98
鋼棒挿入ドリフト
ピン二面せん断
繊維平行 13.66 12.81 0.94 20.54 18.34 0.89 10.72 10.00 0.93 0.40 0.39 0.99
鋼板添え板ボルト
二面せん断
繊維平行 22.45 14.59 0.65 33.17 23.49 0.71 5.46 5.69 1.04 0.42 0.41 0.98
 
スリットの有無の比較    (5%下限値)
  Py(kN) Pu(kN)
①スリット無 ②スリット有 ②/① ①スリット無 ②スリット有 ②/①
合板添え板くぎ一
面せん断
繊維平行 1.04 0.39 0.38 1.70 0.66 0.39
繊維直角 0.54 0.49 0.91 0.85 0.83 0.98
鋼板添え板ビス一
面せん断
繊維平行 5.29 2.25 0.43 9.08 3.90 0.43
繊維直角 2.60 2.96 1.14 4.60 4.58 1.00
くぎ引き抜き 3.62 2.09 0.58 4.62 3.79 0.82
鋼棒挿入ドリフト
ピン二面せん断
繊維平行 9.69 9.13 0.94 14.15 14.78 1.04
鋼板添え板ボルト
二面せん断
繊維平行 14.83 11.21 0.76 23.65 19.05 0.81
 
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