令和4年 構造用製材の含水率の変化が強度に及ぼす影響の検証報告
目次 |
1.事業の目的等
構造用製材は、乾燥に伴う割れ等による接合部の耐力低下のおそれから、含水率15%以下が求められる場合があるが、含水率の変化と強度との関係については必ずしも明らかでない。本事業では、含水率20%の試験材を平衡含水率以下まで乾燥させて加カ試験等を行い、乾燥による耐力の変化を検証するとともに、接合部における耐力変化を検証するための最適な試験方法について検討することを目的とする。含水率の変化による乾燥割れと強度の変化を検証するとともに、前年度の接合部の耐力低下の試験結果と併せて、含水率と接合部強度の関係を明らかにするための評価手法を検討、標準化することにより、一般に流通している含水率20%以下の構造用製材の適用可能な範囲が明確化され、部材の調達や設計が容易となるなど、特に品質・性能の確かな部材が求められる中大規模木造建築物の普及の促進に寄与することが期待される。
2.事業実施体制
学識経験者等から構成される委員会を設置し、検討を行った。構造用製材の含水率の変化が強度に及ぼす影響の検証
検討委員会委員名簿
(順不同、敬称略)
委員長 | 河合 直人 | 工学院大学 建築学部建築学科 教授 |
委 員 | 小林 研治 | 静岡大学学術院農学領域 生物資源科学科 住環境構造学研究室 准教授 |
川井 安生 | 秋田県立大学 木材高度加工研究所 准教授 | |
藤本 登留 | 九州大学大学院農学研究院環境農学部門 サスティナブル資源 科学講座 木質材料工学研究室 准教授 | |
槌本 敬大 | 建築研究所 材料研究グループ 上席研究員 | |
中島 昌一 | 建築研究所 構造研究グループ 主任研究員 | |
原田 真樹 | 森林総合研究所 木材研究部門 構造利用研究領域 領域長 | |
井道 裕史 | 森林総合研究所 木材研究部門 構造利用研究領域 材料接合研究室 室長 | |
加藤 英雄 | 森林総合研究所 木材研究部門 構造利用研究領域 材料接合研究室 主任研究員 | |
渡辺 憲 | 森林総合研究所 木材加工・特性研究領域 木材乾燥研究室 主任研究員 | |
大橋 義德 | 北海道立総合研究機構林産試験場 技術部 生産技術グループ 研究主幹 | |
松元 浩 | 石川県農林総合研究センター林業試験場 主任研究員 | |
河崎 弥生 | 河崎技術士事務所 所長 | |
田尾 玄秀 | 一般社団法人中大規模木造プレカット技術協会理事/樅建築事務所 | |
功刀 友輔 | 一般社団法人中大規模木造プレカット技術協会理事/株式会社マルレーヴ | |
鈴木 圭 | 公益財団法人日本住宅・木材技術センター 研究技術部 研究主幹 | |
オブザーバー | 栃木県林業センター | |
長野県林業総合センター木材部 | ||
静岡県農林技術研究所森林・林業研究センター | ||
兵庫県立農林水産技術総合センター 森林林業技術センター | ||
愛媛県農林水産研究所林業研究センター | ||
熊本県林業研究・研修センター | ||
大分県農林水産研究指導センター林業研究部 | ||
宮崎県木材利用技術センター | ||
行政機関 | 林野庁 | 林政部木材産業課 |
農林水産省 | 大臣官房新事業・食品産業部食品製造課 | |
国土交通省 | 住宅局住宅生産課木造住宅振興室 住宅局参事官(建築企画担当)付 | |
事務局 | (一社)全国木材組合連合会 |
3.含水率の変化が強度に及ぼす影響の検証のための試験
3.1 試験の内容
構造用製材の含水率の変化が強度に及ぼす影響を検証するため、含水率 20%の構造用製材が平衡含水率に達するまでの過程に着目し、次の試験を実施した。(1)含水率 20%の構造用製材の効率的調達方法の検討
- 試験体の発注:JAS構造用製材(SD20)を常時生産している JAS 認証工場
- 重量選別:2条件(初期含水率 100%以上150%未満、初期含水率 150%以上)
- 判別条件:2条件(SD20適合材及び再乾燥材)
- 試験体数:合計 280 本(1条件あたり70 本×重量選別2条件×乾燥条件2条件)
- 測定項目:寸法、重量、縦振動法による1次の固有振動数、全乾法による含水率
- 対応公設試:栃木県、石川県
(2)含水率 20%のスギ心持ち正角が平衡含水率に達したときの割れおよび寸法の評価
(ア)温湿度自然条件(地域別、温湿度の繰り返しによる影響評価)
- 実施機関:栃木県、静岡県、石川県、兵庫県、愛媛県、大分県、宮崎県
- 測定対象:構造用製材の機械等級区分を想定した1水準
- 試験体数:19体
- 測定項目:設置場所の温湿度、重量、寸法、割れ、各材面の最大単独節径および最大集中節径
(イ)強制調湿(小屋裏または壁体内の環境を考慮した調湿条件)
- 最高温度50%、目標到達平衡含水率10%(調湿環境は平衡含水率8.6%)
- 実施機関:北海道、長野県、熊本県
- 測定対象:構造用製材の機械等級区分を想定した3水準
- 試験体数:57体(19体×3水準)
- 測定項目:重量、寸法、割れ、各材面の最大単独節径および最大集中節径
(3)乾燥条件の違いが縦圧縮強度に及ぼす影響
柱材を想定しているため、縦圧縮試験を実施する。含水率が 14〜18%に達した試験体を対象に縦圧縮試験を実施し、乾燥条件の影響を明らかにする。- 試験体数:合計120体(1水準 30 体×4水準)
- 対応公設試:宮崎県
(4)合板添え板くぎ一面せん断試験
- 実施機関:北海道
- 試験項目:合板添え板くぎ一面せん断試験
- 試験体数:4仕様24体
- 測定項目:上記試験における強度性能の特性値、木材表面の凹み量の測定
図1. 温湿度自然条件における桟積みの様子 |
図2. 強制調湿条件における桟積みの様子 |
図3. 割れ長さと幅の測定方法 |
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図4. 木口面と切断面の寸法測定方法 |
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図5. 凹みの測定方法の例 |
図6. 接合部試験の試験体の仕様
図7. 接合部試験の実験の様子
3.2 試験結果
(1) 割れ及び寸法の測定結果(強制調湿)
① 推定含水率の推移
全試験体の推定含水率の推移を試験機関ごとに図8に示す。含水率が20%を下回ったあたりから、低下の度合いがかなり緩やかになっており、熊本県の一部の試験体を除くほとんどの試験体は含水率10%に到達しなかった。図8 各試験機関における全試験体の推定含水率の推移 |
② 寸法変化
一部の試験体では材面割れの発生による寸法増加も見られたが、平均すると全体的に収縮した。木口面、中央、切断面の3つを比較すると、北海道、長野県、熊本県いずれも木口面の収縮量が最も少なく、切断面の収縮量が最も大きい傾向がみられた。調湿前の含水率で区分したグループ間で比較すると、調湿前の含水率が最も低いグループ1の収縮量が相対的に小さく、含水率が高くなるにつれて収縮量が増加する傾向がみられた。収縮量の大きなグループ6の切断面では、最後の測定時に2mmほどの収縮がみられた。図9. 各グループにおける測定箇所ごとの平均寸法変化量(熊本県の例) 黒線は木口面、青線は中央、オレンジ線は切断面を表す |
③ 材面割れ
調湿開始時にすでに材面割れは一定量生じていた。材面割れ総長さ、総面積ともに全体的に横ばいで推移し、調湿中に材面割れが大きく増減する傾向はみられなかった。また、材面割れの総長さ、総面積ともにグループ間で顕著な差はみられなかった。平均に対して標準誤差が相対的に大きく、材面割れの発生量は個体差が非常に大きいといえる。図10 材面割れ総長さの4面合計値の平均および標準偏差(北海道の例) |
図11 材面割れ総面積の4面合計値の平均および標準偏差(北海道の例) |
(2) 割れ及び寸法の測定結果(自然調湿)
① 推定含水率の推移
全試験体の推定含水率の推移を試験機関ごとに図12に示す。12~2月と気温が低く一年を通じて最も乾燥が進みにくい時期であったため、含水率は非常に緩やかに減少し、2月の測定時に含水率が15%まで低下した試験体はほとんどなかった。図12 各試験機関における全試験体の推定含水率の推移 |
② 寸法変化
調湿を開始した12月から2月にかけての含水率の減少量と平均寸法変化量との関係を図13に示す。プロットが特異的であった静岡県とそれ以外に色分けした。いずれも含水率の減少量と平均寸法変化量の間に直線関係がみられ、回帰直線の傾きが0.044および0.052であることから、幅105mmの正角が含水率1%減少するにつれて0.04~0.05mm程度収縮したことがわかった。なお、静岡県のデータが特異的であった原因については現在調査中である。図13 各試験機関における測定箇所ごとの平均寸法変化量 黒線は木口面、青線は中央、オレンジ線は切断面を表す |
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図14 測定開始の12月から2月の測定時にかけての含水率の減少量と平均寸法変化量との関係 |
③ 材面割れ
調湿開始時にすでに材面割れは一定量生じていた。材面割れ総長さ、総面積ともに全体的に横ばいで推移し、調湿中に材面割れが大きく増減することはなかった。また、材面割れの総長さ、総面積ともに試験機関間で顕著な差はみられなかった。平均に対して標準誤差が相対的に大きく、材面割れの発生量は個体差が非常に大きかった。図15材面割れ総長さの4面合計値の平均および標準偏差 |
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図16 材面割れ総面積の4面合計値の平均および標準偏差 |
(3) 縦圧縮試験結果
実験結果から得られた縦圧縮強度を含水率補正した累積相対度数を図17に示す。なお、含水率補正は、ASTM1990-07の方法で含水率15%となるようにした。図17 重量選別並びに判定別の含水率補正した縦圧縮強度の累積相対度数 |
(4) 接合部試験結果
各試験体について加重変位曲線を測定した。図18はJ24(未調湿)とJ24を比較したものである。グラフの形状から含水率が高いままだと荷重は上がらないが、乾燥させるとJ24のようにロープ効果が発現し、最大耐力が上昇しているように見える。
図18 J24未調湿と調湿済の比較 |
破壊性状の事例を示す。 | |
図19 J24(未調整)S213 くぎによる木材のめり込み |
図20 J24 J24(未調整)S215 くぎによる木材のめり込み、割れ |
図21 J24-n213 くぎによる木材のめり込み、割れ |
図22 J24-n215 くぎによる木材のめり込み ※節があるが非加力側 |
4. 構造用製材の含水率変化と接合部の強度の評価手法の検討
4.1 検討の内容
本検討では、構造用製材の工場出荷時の含水率の違いが、接合部の強度性能に与える影響について実験的な検証を行うため、強度性能を適切に評価できる手法を策定することを目的とした。このため、令和3年度「構造用製材の含水率の差異が接合部の耐力にもたらす影響の検証」(以下、「R3年度事業」)の結果等を踏まえて、想定する建築物を定めて、試験体部材の適切な調整方法や接合部の強度性能の評価を行うための試験方法及び評価方法等の検討を行う。
R3年度事業の接合部試験では、下記の項目について事前検討を行った上で実験を実施した。
- 試験木材の密度及び含水率の調整方法
- 試験木材の木取り方法
- 試験木材の密度と含水率の基準
- 試験に必要な接合仕様
- 標準的な試験体仕様
- 計測機器の設置方法
- 加力方法
- 試験データの評価方法
R3年度事業の試験結果を踏まえて、再度上記の項目について、検討を行い、適切な評価方法の策定を行った。
また、以上に挙げられる項目の他、評価に必要な項目と課題について適宜洗い出しを行うものとした。
検討を効率的に行うために、本委員会の下に検討部会を設置し、部会委員10名による作業部会を設置した。
検討スケジュールは下記のとおりである。
- 第1回作業部会の開催 令和4年 8月
- 第2回作業部会の開催 令和4年 12月
4.2 検討結果
SD20(JAS)材、SD15(JAS)材の製造や流通の実態について、製材業者、プレカットメーカー、構造設計者等にヒアリングを実施した。ヒアリング結果より、建築物の規模や用途から考えると、想定する接合形式は、一般住宅と同等か、少し上くらいで良いと思われる。
(1)面材くぎ接合
本事業では令46条2項ルートは扱わないので、面材くぎ接合は壁倍率5倍を想定したものとする。(2)柱頭柱脚接合(ビス止めホールダウン、ドリフトピン接合金物)
- 柱材については、105mm角、120mm角を対象とする。どちらで検証すれば安全側に判断できるかが明確であれば、安全側を選択したい。(断面が大きいほど、割れの幅が大きいか。断面が大きい方が水分傾斜が大きいか。)
- 柱材に取りつくビス止めホールダウン等(鋼板添え板ビス接合)は実施する。高耐力を狙ったドリフトピン接合は不要だが、表しで使うドリフトピン接合は余裕があれば行いたい。
(3)柱(梁)―梁接合(梁受け金物)
- 平角材のSD15(JAS)は実質的に製造できないので、柱材で横架材接合を代用できないか。
- 平角製材SD20(JAS)と梁構造用集成材(製材SD15(JAS)の代替)との比較はできないであろう。
- 平角材を想定する場合は、木材仕口+羽子板ボルト接合はあまり影響がなさそうなので、梁受け金物を想定したドリフトピン接合とする。
優先的に実施する接合部仕様の例
ア 合板添え板くぎ接合 一面せん断(繊維平行方向、繊維直角方向)の接合部(1)接合部の想定
- 耐力壁の面材くぎ接合(図24)を想定している。
- くぎの種類については、細い方が割れに対して木材への支圧が効きにくい。太い方が割裂を引き起こしやすいという違いがある。ビスとの差別化を図るため、N50を採用する。
N50 L=50.0㎜、d=2.75㎜
図23 くぎの寸法CN50 L=50.8㎜、d=2.87㎜、 CN65 L=63.5㎜、d=3.33㎜、 CN75 L=76.2㎜、d=3.76㎜ |
- 中大規模グレー本の耐力壁で想定しているくぎピッチは50㎜。
一方、AIJ規準は繊維方向加力12d(N50は33㎜)、直角方向加力10d(N50は27.5㎜)。
N50くぎでは、実際の運用を考えると前者の50㎜でよく、安全側を取るなら後者の27.5㎜。
図24 中高層グレー本のくぎピッチの考え方 |
(2)試験体仕様(図25、図26)
- 面材くぎ接合は、面材がパンチングアウトしてしまうと何の検証か分からなくなるので構造用合板24㎜の表層に鋼板t=1㎜を張り付ける(R3試験と同じ)。
- 中心に芯があると仮定した場合、材料表面から断面の中心に向けて割れが入りやすいと考えられるため、材上端部からの端距離は、せいの1/2とする。
- (1)を踏まえて1列多数本、くぎピッチを27.5mmとした。
図25 合板添え板くぎ接合 一面せん断(繊維平行方向) 試験体図
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図26 合板添え板くぎ接合 一面せん断(繊維直角方向) 試験体図
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(3)検証の優先度
建築物への使用頻度は高いこと、柱材へ一列に打たれることが多く、接合具の径が小さいことから割れの影響を受けやすい接合方法である。このため、優先的に実施する。3.9.2 鋼板添え板ビス接合一面せん断(繊維平行方向)の接合部
(1)接合部の想定
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図27 ビス止めホールダウンの例 |
(2)試験体仕様(図29)
- R3要素試験では1列2本だったが、多数本の影響としたいので5本とした。
- 使用するビスはR3要素試験と同様、図28のとおりZマーク表示金物用四角穴付きタッピンねじSTS・C65を使用する。
- ビスピッチは、(1)より35㎜とした。材端からの端距離はAIJ規準より15d=97.5㎜≑100㎜とした。
図28 Zマーク表示金物用四角穴付きタッピンねじSTS・C65 | |
図29 鋼板添え板ビス接合 一面せん断(繊維平行方向) 試験体図 |
(3)検証の優先度
建築物への使用頻度は高いこと、高い強度性能が求められることから、優先的に実施する。5. まとめ
本年度に実施した「構造用製材の含水率の変化が強度に及ぼす影響の検証」事業においては、適切な検証の方法について、検討委員会等で幅広く議論を行い、接合部等の強度に影響を及ぼす割れや寸法、形状の変化等について観測することが重要との結論となり、これらについて森林総合研究所、10道県の林業試験場等で測定、評価することとなった。試験材の調達から限られた時間の中で試験を実施することとなり、強制調湿と自然調湿の下で観測を行い、強制調湿においては、含水率が収束した試験材も得られ、割れ、寸法、収縮等の測定を行うことができ、併せて縦圧縮試験が実施できたことは、一定の成果が得られたと考える。
また自然調湿においては、調湿期間中の含水率は非常に緩やかに減少し、平衡含水率に達した試験材はなかった。その間の寸法の変化は見られず、また材面割れも大きく増減することはなかった。
建築物に使用される構造用製材においては、平衡含水率となった時点での品質・性能が重要であることから、今回の試験材については、更に今後の動態を観測していくことが重要であると考える。
また、検討部会を設けて検討した「構造用製材の含水率変化と接合部の強度の評価手法の検討」では、実務者へのヒアリング調査等を実施し、昨年度に実施した「構造用製材の含水率の差異が接合部の耐力にもたらす影響の検証」などの成果も踏まえ、接合部の試験方法と評価方法、検証に必要な接合部の仕様などが提案され、構造用製材の接合部の性能を評価するための有効な指針となるものと考える。