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再生可能な省エネルギー資源である木材は、将来の低炭素社会、循環型社会の中で、重要な役割を果たすことが期待されている。他方、現下の木材業界を巡る状況は、木材の最も大きな利用分野である住宅建設分野で、人口減少・少子高齢化などの社会環境を背景に新築着工戸数が大きく減少を続け、厳しい状況となっている。
このような中で、木材業界が木材利用の拡大、活性化の道を探るためには、地球環境・住環境に優しい木材についての積極的な情報発信を図るとともに、木材業界としてもエンドユーザーの環境に関する期待、品質・性能への要求に応えていく必要がある。
長期優良住宅促進法において国産材・木材利用推進がうたわれ、また、「住宅・建築物への木材利用の一層の促進」に向け木材・建築両分野の産官学の関係者による「木のまち・木のいえ推進フォーラム」が活動を開始している。
これらの動きを受けて、木材業界のスローガンである「新たな木材利用の挑戦で木材産業の創造的再興」を実現するため、木材・建築の産・学の関係者により、新たな木材利用の課題を検討する。
三井所 清典 (みいしょきよのり) | |
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芝浦工業大学名誉教授 | |
アルセッド建築研究所代表 | |
東京建築士会会長 |
安藤 直人(あんどうなおと) | |
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東京大学大学院農業生命科学研究科 教授 | |
農林水産省林政審議会 施策部会委員 | |
木質構造研究会 会長 |
青木 宏之(あおき ひろゆき) | |
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社団法人全国中小建築工事業団体連合会 会長 | |
一般社団法人工務店サポートセンター 理事長 | |
国土交通省社会資本整備審議会 建築分科会委員 |
小野田 冨男(おのだとみお) | |
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(社)全国木材組合連合会全木連 副会長 | |
岩手県木材産業協同組合 理事長 | |
(株)オノダ代表取締役 社長 |
青山 佳世(あおやまかよ) | |
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フリーアナウンサー | |
農林水産省林政審議会 委員 | |
農林水産省「バイオマス・ニッポン総合戦略アドバイザリーグループ」 委員 |
地元の木を使って、その地域のすまいを作ろうという運動が全国に展開されています。地球の温暖化効果ガスを抑制しようとする環境問題の意識の高まりから、一般市民の間にも国産木材への関心が急速に広まっています。そして木材や木造建築に関する研究もさまざま行われるようになってきました。循環型の長期優良住宅やエコハウス建設のための国の政策も強力に推進されています。こういう木造建築の復権のきっかけは昭和60年頃から始まった林野庁によるモデル木造建築の推進でした。戦後植林したスギ、ヒノキ、カラマツなどが成長して、伐期を迎えることを考慮して、国民が木造建築の良さを再認識するための推進事業でした。はじめは、欧米で発達した大断面集成材による建築の調査から始まり、体育館やプール、コンサートホール、ミュージアムなど欧米式の設計と施工に挑戦しました。部材も輸入したベイマツ集成材が主体でしたが、次第に国産カラマツの集成材でもできるようになり、現在はスギの集成材もたくさん使われています。大断面構造による木造建築は新しい分野の建築として設計者の興味を引くようになりました。継ぎ手・仕口に欧米式のせん断ボルトを使わないでテンションボルトで接合する架構や、めり込み、復元する木の特質を活かした日本の木造建築らしい架構もできるようになりました。接合部や架構がすっきりとして美しい、日本化された木造建築が生まれているのです。集成材でつくるラミナーの幅もはじめは150mmが標準でしたが、山の木の成長によって、180mmや200mm幅もできるようになりました。特に梁部材の自由度が拡がり、架構の可能性が大きくなってきました。今では国産材を無垢材として使う木造建築も以前のように細い材でなく5寸角や6寸角などの太い柱を使い、存在感のある木造住宅もできるようになっています。
環境の時代となった今日、炭酸ガス発生抑制の観点から、我が国の森林の国産材には大きな期待がかかっています。木材を大いに使った長持ちする木造住宅には炭素をたくさんの固定することができます。そのためには伐採と植林のバランスを保つ森林管理が時代の要請であります。
昭和10年をピークに、その後急速に落ち込んだ木造建築の長い長い暗黒時代を漸く抜け出し、技術的にも空間的にも日本らしい木造住宅や木造建築を推進し、日本らしい、まちなみや住環境をつくることのできる時代になってきたと実感しています。
木材は古くて新しい材料である。構造材として、あるいは造作材としてその利用方法は様々であり、「環境」という視点から木材はスーパースターになる可能性すら感じられる昨今である。最近では、国土交通省・林野庁が支援する「木のまち・木のいえリレーフォーラム」が各地で開催され大きな反響を呼んでいる。「木の文化」「木の技術」「木の業界」の課題の抽出、見直し、情報発信、建築と木材サイドの連携、住宅の性能向上等々である。その中で注目されるのは国産材利用に対する期待が益々高まっていること。そして地域性が重視されるようになったことである。そして、今後は住宅の長寿命化とセットで、メンテナンスやリフォーム市場の充実も望まれている。一般論ではなく、各地のマーケットを分析し対応すること、また、都市部(大消費地)に対する国産材の供給体制整備が望まれるところである。ところで、住宅は木造で、内装も木材でとアピールすることは長年にわたって繰り返されてきた。しかし、住宅・非住宅を問わず設計見積段階ではカタログから木質系建材や非木質系材料が選択され、見積書には品番と数量、単価が明記されるのが通例である。材工一式、坪単価といった商習慣が大きく変わってきており、木材を商うことの姿勢が問われている。「木材」をどう使えば効果的なのか?どこで相談できるのか?どこで買えるのか?それはいつでも買えるのか?これらは一般ユーザーは勿論のこと、設計に携わる建築士の方々にもあまり知られてはいない。また、信頼しているはずの建築士が木材に対する知識がないということも一般ユーザーは知らない。施工は容易なのか?手間はどれだけかかるのか?結果的に建築費はいくらか掛かるのか?要するに使うこと、使われること、そのためには「木材」が選ばれることをアピールすることが重要である。
「木材に対する価値観」を変えること、そして木材が活用される意味を問い直しながら「環境の時代」に対応することが望まれているわけで、IT産業より木材産業での貢献、グリーンビジネスへの夢をはせる人材の育成が最終的には大きな課題とも言えよう。
わが国では住宅着工の大幅減少による木材需要が減少、一方で世界的には需要増の傾向といった中で、充実してきている国内森林資源を背景に国産材の利用拡大方途の道を探ることが必要と考えます。長期優良住宅の建築促進が進められており、その中には地域の材料・技術を使った風土に合った住宅づくりなども多くみられています。地域の森林機能保全とその資源活用を前提に木材業界の取組み課題等について若干の所見を提供します。