〔文責:企画部指導課・細貝〕
「検証 日本のベンチャー」(国民金融公庫セミナー・H11)
パネリスト 相川直之 朝日信用金庫常務理事(間接金融の代表として、また、新しい時代の
ベンチャー企業の育成にどのような役割を果たすか、これまで様々な企業をみてきた経験を含めての発言。)
生田昌弘 潟Lノトロープ代表取締役(INET関連のベンチャー企業の経営者
として参加。)
浜田輝男 北海道国際航空椛纒\取締役副社長(ベンチ―企業の経営者として参
加。規制が厳しかった時代に立ち上げた。)
堀 義人 エイバックス・グロービス・パートナーズ椛纒\取締役社長(自身で
ベンチャー企業を立ち上げ、ベンチャーキャピタルとしての立場で参加。)
コーディネータ 高橋徳行 国民金融公庫総合研究所主任研究員
注:→以下は全木連企画部指導課コメント
概要
1.自己紹介
住友商事という商社にいて大企業のキャリアを目指そうと思っていた。89〜91年にハーバードに留学し、その際、ハーバードの皆が起業家(アントレプレナー)になりたいとの夢があり、それに感化され、そもそもベンチャーや起業家とは何なのかということに興味を持った。当時、日本のソニーのコロンビア買収等ジャパン・アズ・ナンバーワンといわれた時代だった。
その際に思ったのは、日本とアメリカの経済環境が違うのではないかということで、日本では知識集約型産業のソニー、トヨタ、本田といった、オールドエコノミーの会社が優勢を持っていたが、米国はそういった産業ではなく、知識集約型産業のベンチャー的な起業家精神とクリエイティブティをもった企業が創っている環境があった。インフラの部分が米国の場合、ビジネススクールやベンチャーキャピタル、知識を提供するコンサルティングなどがあり、会社を起そうとする人間がいた場合、直ぐに立ち上がる環境があった。
インフラの部分を創ることを日本で事業化できないかを考え、具体的には人と金を創る環境、簡単に言うと、ハーバードビジネススクールを日本に創ることで、多くの起業家が育つ環境を作ることを考えた。一方、ベンチャーキャピタルをつくり、リスクマネーを投入する事業ができないか。知恵の部分を提供できる事業を行うため、92年に資本金80万円で事務所の自宅のアパートでアシスタントと二人で会社を始めた。その後、ビジネススクールは年間4千人の受講生がいる。また、東京、大阪で通信教育を含めMBAの機関となっている。企業内研修部門は大手企業を中心に200社のクライアントがいる。また、出版部門があり、MBAマネージメントブックといった本を出版しており、現在、15冊でトータル100万部以上売れている。一方で、96年からグロービスファンドとして5億円の投資をしていたが、今回、別会社を作り、200億円(海外が6割以上)のファンドを集め、ほぼ募集が完了しつつあり、日本で投資を行うこととし、第1号の投資案件も決まった。
社名のドゥの意味は、やるぞという前向きな動詞の意味と北海道をかけたもので、エア・ドゥという愛称で飛んでいる。北海道国際航空のそもそもの切っ掛けは、北海道中小企業家同友会の異業種交流の3分スピーチからスタートした。北海道経済の長期低迷、北海道の自立とか、産業経済の活性化について長い間議論されていた。地域の活性化とか、地域の自立を考えた場合、最終的にはその土地に行きやすいかどうかという交通アクセスの利便性が大事な要素ではないかということがあった。北海道と首都圏・全国主要都市との交通アクセスの利便性が高いかどうかということが問われる。飛行機に乗ると空路65分で、時間は問題ではなく、何が問題かというと往復5万円という経済的な距離が21世紀の北海道にとってハンディキャプとしてある。かといって、北海道に新幹線が来るのは未だ先であり、航空機で行き来をすることになる。この経済的距離をどう縮めるか、それが北海道にとって大事なことだということになった。最初から航空会社をやろうということではなく、地域の活性化を論議している中で最終的に行き着いたのが、航空機による利便性の向上のために運賃を下げることであった。そもそもの切っ掛けは、平成8年6月に航空運賃が原価積上げ方式だったものが、上下25%の幅で自由に決めることができる幅運賃がスタートした。期待したが高いレベルで決まり、航空3社の運賃差額は300円で、往復割引がなくなり、実質的には6千円位の値上げとなった。この問題を異業種交流の三分スピーチで話したのが切っ掛けである。北海道でのこの種の話しは3段階消滅の定義があり、@面白い、Aできたらよい、B誰かやってくれたらよい ということで、自分達で手を出さずに終るものであった。たまたまその年の9月に、羽田の発着枠が40便増えることがあった。また、拓銀の破綻で北海道の経済は最悪の事態になった。拓銀は北海道では日本銀行のような位置づけがあり、大事件であった。最終的には国と道が何かするとの北海道独特の体質があったが、自分達で何かしなければという事態に立ち至った。当初は、30名の関係者で資本金1,430万円という世界の航空会社の中で、信じられない資本金でスタートした。現在、50万円以上の正規の株主は、3500人、5万円以上の持ち株会の会員は3200人と7千名近い株主が応援してくれている。52億円という資本金になり、平成10年の12月20日に運行した。作った書類は、小型トラック1台分に相当し、大変な道程だった。札幌〜東京間を一日3往復し、6月20日で初運行から6ヵ月となる。問題は、先発3社が、当社の便の前後1時間の便の運賃を16,000円としたため、苦戦している。しかし、そもそもの目的は、北海道と全国を結ぶ運賃を下げようということでスタートしたので、ある意味ではシナリオどおりになってきたともいえる。ここは何とか皆さんの支援をいただいて搭乗率を維持して頑張りたい。
コーディネータコメント:国を頼らず、自分達で何とかしなければならないという起業家精神の原点をみるようである。
平成5年からINETコンテンツの作成とプロバイダー事業を展開。何をやっているか聞かれると困る仕事をやっている。自分達ではINET・テンツ・プロバイダーと呼んでいる。コンテンツをつくるということは、雑誌を作る、ものを作る、中身を作るというように考えてもらってよい。噛み砕いて言うと、ホームページを作ることであるが、誤解を呼ぶことがあるので自分ではホームページを作るという表現は使わなし、ホームページの作成は儲からない。INETは表に出てくるWWWだけでなく、企業自体のCIや根本的な改善が要求される。今やっているのはそれの小型のものやイントラネットであったり、最終的に表に出るグラッフィクのデザインであったり、それをトータルで考えないとウエッブサイトを成功させる商売にはならない。
ネットワークはスピーディで良いが、我々が仕事を頼まれる会社はピラミッド型の体制で部長から課長に紙が渡るシステムを残したままのところである。そこにINETのようなフラットな仕組みが入ると、一番下の社員は逆に困ったとの話しが出る。つまり、ブラウザーやコンピュータ上で入力したものも増え、今までどおりの紙の書類も増え、何も変わらないどころか作業が増えた。これが日本のINETの状態ではないか。根本的に会社の体制が変らなければINETを利用する一番良い部分が利用できない。ウエッブサイトだけつくれば良いと思っている方が多いがそれはありえない。逆に会社の体制が変れば、ウエッブサイトでやることやるべきことが分かる。
イントラネットの関係では、600の支店がある企業で、各支店のタイムカードの回収をウエッブでやることを手がけたが、本社の総務でデータ化、給与データがリアルタイムに把握でき、月末の段階で給与の金額が決まるというようなことをビジネスでやっている。
朝日信用金庫は台東区を中心に、11区、35店舗、1出張所を置いている。預金量1兆2,450億円、貸出9,900億円で、役職員数が1,570人。特徴は中小企業にこだわり、中小企業に特化している共同組織の金融機関といえる。中小企業と苦楽を共にしている。
足を持っている金融機関である。足を持っているということは、最近はINETなどがあるが、ハイタッチ、ヒューマンタッチは企業を知る上や企業が何等かの形でネットワークを広げる上でも重要ものがある。それを効率だけで、なくしてよいものではないので、ハイタッチの部分を残した運営をしている。
仕事は間接金融なので、顧客はハイテク企業だけでなく、中テク、ローテクいずれも大切なお客である。ハイテクベンチャーだけでは商売にならない。業務内容は預金面、貸出を含め取引先を増やすこと、それをサポートすること、さらには経営全体のコンピュータの仕組みを考えていくこと、その他、中小企業家同友会、TKCとのつながりを深めている。
今、多くの中小企業が苦戦しており、特にキャリアのある企業が苦戦している。中小企業においてもパラダイム問題、仕組み問題に遭遇しているからであり、それをどう克服するか、それにどれだけ力を貸せるかということが、当金融機関の最大のテーマであり、沢山の企業がでてくることはよいが、今までの企業がつぶれてよいとは思えない。この部分のイノベーションをする必要がある。
ベンチャー企業や新しい企業を考える時に、国際競争力やハイテクだとかが問題になり、それに注目が集まっているが、地域から発想する。地域の活性化を中心にして企業が出て来ることが日本の経済の活性化につながるのではないか。その視点が少ないことが心配。
急成長企業の破綻の原因は、ベンチャー企業に限らず経営が成り立つためには、技術力、商品開発力が重要であるが、同時にマネージメント力が非常に重要である。ところがそのマネージメント力の重要さを言うと、ベンチャーも世間もそれほど強い関心を示さない。その点を強く認識しなければならない。急成長した企業のほとんどが自分のマネージメント力と企業の拡大のギャップを埋められず、商品が当たる、技術が当たるから急成長するわけであるが、当たったことに感心し、評価を高め、おだてられるわけである。その結果、自分を見失い、自分のマネージメント力(資金調達力、人材の集積等)を超えて経営してしまう。そこに、経済は生き物であるから、貸し渋りなどがあるとたちまちのうちにつぶれてしまう。
これまで、ベンチャーブームが何回かあったが同じパターンで破綻している。このギャップを埋めることが重要。急成長すると概して信用金庫の手を離れ、いろいろな金融機関や証券会社が来るが、次のステップに移る際に、それをサポートする機関の存在がないと、ベンチャーがうまく行かないのではないか。その仕組みを考えないとならないのではないか。
→過去の急成長ベンチャーの破綻の例では、岐阜の大日機工(工業用ロボットで急成長。ワンマン、金庫番が弱かった、成長のスピードに人がついていけなかったなど。)、平成10年のカンキョー(技術力・商品開発力は大手企業以上に独創性があり、特許も多く取得、在庫を多く抱え、キャッシュフローのマネージメントに失敗など)が記憶に残る。
2.企業を育てることに関与すれば、マネー
ジメントの失敗による挫折は防げるか
自分で会社を立ち上げた経験と自分が投資するという経験をした。自分が会社を立ち上げた経験については、現在、当社は年率50%の成長をしているが、一番助かっているのは社外取締役の存在である。つまり、自分自身がゼロから立ち上げても経営が100%分かっているわけではないし、やったことが成功すると、その時に多角化や過剰投資をしてしまう例がある。当社の場合、自分以外は外部取締役であり、自分がやりたくても社外取締役がNOといえばできない。過去に3回NOと言われた経験があり、今思うと、それが助かった。自分を客観的にコーポレート・ガバナンスとして外部からアドバイスしてくれる人を自ら選んでやっているがそれがうまく行っている。自分で自社株を50%持っているので基本的には全てをコントロールできるのであるが、外部の人たちの意見を聞くために実践している。ベンチャー企業10社に投資をしたが、ほとんどの会社が同じ様な仕組みを作っている。社外の人間がいることにより、マジョリティ(多数派)が支配してしまう。そうすると否応無しに経営者がやろうということに対し、当社のお金を投資しているので、取締役としての責任があるので、NOと言わざるを得ない時がある。大概NOと言う時は、多角化とか過剰投資をする時である。成長時には思いっきり伸ばす必要があり、そのための資金の調達や人の紹介(経営陣、経営戦略などを同じパートナーとしてやっていける。)等が重要でそれが米国の経済でも重要だった。一方、ベンチャーキャピタルの限界もある。起業家が全て創っていって、それに対して、外部からサポートしていくのがベンチャーキャピタルの役割ではないかと考えている。
米国の企業で2カ月間社員として、投資活動から始まり、いろいろみてきたが、その時の印象として残っているのが、社外取締役がものすごく発言する。日本の取締役会は社長が偉く、それに対して皆従うが、外部取締役が何でも質問し、それに応える必要がある。その後、経営会議は最後は社長も席を外し、外部取締役があの社長は駄目かな、替えようかとか方向を判断する。そうなると社長としても頑張らなければならなくなる。そこまで行くと日本では行き過ぎになるが、日本のベンチャーはスピードが遅い。例えていえば、ガタガタな滑走路にセスナ機でやっと飛んでいくようなもので、米国の場合は、ジェット機でそこにシュミレーションを受けたパイロットが乗って、シューンと飛んでいくような違いがある。お金を投資しながらきちっと環境を作っていくという部分についても違いは大きく、もっと資金も投入され、成長し、そのまま株式を公開してしまうというようなことができるのではないかと思われる。そのような環境がそのうちくるのではないかと思われる。今回、200億円集まったので1社当たりの投資が3〜5億円なので相当な投資ができるのではないかと思っている。
中小企業はよいところも多くあるが、だいたいはワンマンで人の言うことを聞かない経営者が多い。そういう人に今のようなことをどう学んでもらうかが重要なことである。しかし、中小企業の経営者は数字に弱いという点がある。経営というものにどのように運営していくか社外重役も結構だし、その前の研修についてもお金と時間を割いてやることをしていかないと、企業が脱皮をしていくこと、飛躍していくことについてなかなか進まないのではないかと思われる。
3.ベンチャーキャピタルが期待していることとのギャップについて
ベンチャーキャピタルに当社を尋ねて来た理由を聞くと、日経新聞等に載ったからとかあるが、それで来られても困る。当社や作っているものをみて、お金を入れたいとのことであれば話しを聞くこともできるが、新聞に載ったからとか、業務を説明してくれと言われる。それくらいは、事前に調べてくるべきである。そのようなものが余りなかった。最近、やっと数社が事前に調べてきて、このような形でサポートしたいという提案があり、最近はベンチャーキャピタルについて前向きに考えている。INETで当社の情報は公開しているので、来る前に自分で調べるべきである。
当社は設備産業ではなく、ものは造っているがそれほど大量の投資は必要がない。町工場の頑固な親父たちという、こうと決められたルールがある中で、システムインテグレーション(情報システムの企画・開発・運用・保守まで一貫して行う)は2年掛かるとか3年掛かるとか言われているが、そんなスパンでシステムを構築していれば立ち上げた時点で終っている。2年前の企画が2年後に通用するかどうかはわからない。3ヵ月くらいで立ち上げないと何の役にも立たなくなる可能性がある。ある仕事を決めたら、3ヶ月後に動いていなければならない。今までは、金額が決まらないあいまいな関係で受注するということがあり、終って、振込まれないと金額が分からないという仕事もあった。INETの場合、そのよう形でビジネスをやると顧客とうまく行かず、失敗する。
4.リスクマネーの供給について
平成8年の11月のスターと時は、29名の発起人で1,430万円の資本金であった。発起人会を開催した際、誰も社長をやろうとする人が出てこなかったので、その後増資しているが、投資ではなく夢を買っているような面があり、第5次の増資までは、キャピタルゲインは求めず、地域のためとか、せっかく北海道で立ち上がったプロジェクトなので、協力してとかの寄付金的な意味合い強かったのではないか。航空事業は30数年間新規参入がなく、現在まで、52億円の資金が集まったが、キャピタルゲインを求めていないと思われるが、配当をしていかなければならないと思っている。
この手のプロジェクトは、最低限、三つの条件が必要ではないかと思われる。一つは核になる資本があること(航空事業の場合、一般的にはバックに数百億円以上の資本がなければならない。)、二つ目は、核になる人材がいるということ、三つ目は、これからの航空産業はこうあるべきといった戦略、新しいノウハウだとかやり方が必要であるが、当社はそのいずれもなかった。
核になる資本どころか、最初は一人50万円づつ持ち寄ったり、核になる人材がいたかというと、紙飛行機しか飛ばしたことがない連中だけで、新しいノウハウや技術もまったくなかった。何があったかというと、地域の方々がこれが実現したらよいなとか、運賃が半分になれば北海道はよいところになるとか、不満が解消されること、地域に本当に必要なものであれば、地域に支持が得られ、お金も人も集まって来る。当社に最初に来た人は、雇ってくれという人も多かったが、参加したいという人が多かった。北海道出身の人が自分は30年間このような仕事をしてきた。この経験が生かせれば、飛んでからではなく、リスクのある立ち上げの段階から給料が半分、1/3になってもよいから参加したいという人がいた。地域から発想すれば、お金も人も集まって来ると思っている。
本業は養鶏業であり、当初から航空会社をやろうとは思っていなかったし、新会社を立ち上げ、成り行きで社長になり、先般、代って、副社長となったが、全て成り行きでここまで来た。地域の経営者どうしで、北海道の21世紀をどうするのだと言う議論をしていた中で、アクセスの問題から航空会社の話しになり、たまたま規制緩和の大きなうねりの中で運輸省が方針を打出した。本来は誰かやってくれればよいなということで終ってしまうプロジェクトだった。とにかく、準備会社までつくって皆で頑張ってみようというところまで話しが進んだ。自分では、言い出した手前、準備会社までは責任があるのかなと思っていた。準備会社ができたときも誰も手を上げなかったので、社長が見つかるまでやろうということで、社長になった。社長が見つかり、これで本業に戻れるやれやれと思っていた。ところが、離陸するまで二人三脚でやってもらうことが条件で社長になるとの話しから今まで来た。
自分ではこの航空会社で一儲けしょうとか、一旗上げようとかは思ってはいかなかった。
5.ベンチャーキャピタルとしての投資先
投資対象は、ミッションとか使命は大切にしたいが、投資家からお金の運用を任されているので、投資家が期待するリターンを生ませる必要がある。リターンのために年率3%で返せるのかとか運営をまかされているので、責任がある。ある意味では、訴訟問題になることも有り得る。その中において、投資先を選んでいくことになる。一方でリスクマネーといわれるように100になる可能性もあるし、0になる可能性もあるので、それに対して、相当な評価をし、選定していく必要がある。また、投資先が伸びるだけでなく、その会社の株を売って初めてリターンが生まれる。短期間にどれだけ多くのリターンを生み出せるかが勝負になって来るビジネスである。
投資先対象として選ぶポイントは、
一つは成長産業かどうか(@IT=情報技術、ソフト関係、Aテレコミュニケーション=移動体通信、データコミュニケーション等の通信関係、Bメディア、出版、教育等の知識集約型のコンテンツ事業関係、Cオフィスデボ等のかなり特化した流通やサービス(アウトソーシングを含めて)関係、Dヘルスケア分野)ということで、日本経済が収縮し、マイナス3%になろうが基本的にサグメント(産業)単位でみた場合、その分野は10%とか20%伸びている。
二つ目は、その伸びている分野において重要なのは、マネージメントを理解しているかが重要である。商品か人かということになると人が生み出す価値がものすごく大きなものがある。最近は優秀な若い世代がベンチャーに入ってきて、そのような人たちにお金を預けると大きな価値を生み出すのではないかというくらいの人たちが集まってきており、頼もしい限りである。
三つ目は、いかにユニークであるかということが重要で、差別化できないと負けてしまい、負けてしまうとリターンが返せなくなる。
そういうことを投資対象として選んでいくことが重要である。その中において、会社単位で考えた場合、成長することが重要で、30%とか50%成長していくことができることが必要である。
成長させるために必要なのは、投資を比較的大きくやりながらその分野において、NO1になる戦略を取ることが重要である。
その発想で展開する会社は今後とも伸びていくと思われる。そのような会社に投資していきたい。投資の世界は冷血であり、勝たなければならないのでドライにならなければならない。
良い投資先の確保については、一つは目立たなければならない(良いイメージの目立ち方)、グロービスはビジネススクールを経営しているので、将来のマネージメントの予備軍が集まって来る環境にあり、その人たちが将来事業を起そうとしたり、その人が働いている会社が将来新規事業に資金を必要とするとか、そのような情報が比較的集まってきやすい環境にある。このようなネットワークをふんだんに使う。そのためには色々な会合に参加したり、自分でMBAを持っているのでMBAのネットワークを使うとか多くのネットワークを創っていくことが重要である。後は、専門的なチーム(弁護士、公認会計士、銀行、投資銀行等)の方にこのような人を紹介してほしいと頼んでおくと、数多くの蓄積ができ、数多くの案件が出て来る。その中から100件に1つとかに投資をすることになる。
6.企業のアールステージの段階で踏み込んだ融資の状況
経営には運がある。好い担当者に会える、良い支店長に会えるということは、経営者の大きな力でもある。もう一つ、信用金庫の職員は技術のことはほとんどわからない。ベンチャーというのは人のやらないことをやるので、お手本がないので、難しい面があるが、人間は感性があるので、「この人は面白いことをやっているのではないか」「センスがよいのではないか」といったようなエネルギーが何となく伝わって来るものである。そういう人たちに、限度ぎりぎりまで金融機関は掛ける。信用金庫はそのようなことをやってきた。問題は、その限度が何千万ということになると相当替わってきている。信用金庫もこの不景気の中で相当の償却をしてきた。そういう意味では内部留保が減ってきている。リスクを取るという取り方を慎重にならざるを得なく、支店長のハラが減ってきていることが言える。しかし、もっと大きな問題は、金融検査マニュアルにあるように赤字の企業は直ぐに引当てしようとする。これから7月以降の検査ではそれがもっとはっきりして来ると思われる。赤字の企業であるとか、欠損の企業はなおのこと、数字にみえない安全上の問題は金融機関の責任なので引当てを積めとか、償却を考えろとかいうことが、金融監督庁の検査で一般化すると思われる。
ベンチャー企業だけでなく、企業はある意味で海のものとも山のものともわからないから、考えなら貸している。数字上絶対大丈夫だというところにはどこも貸す。競争になる。分からないから頭を悩ます。そういうことを考えると、数字が出てきた結果、赤字だから駄目と単純に、勿論、定性的要因を見るとかいってもまゆつばであり、そんなに甘いものではない。従って、どうしても金融機関はリスクが取り難くなっている。足を持っているとか、ハイタッチが重要だというのは、そのような部分でうったえかけてくるものが絶対にある。数字に現れないものもあるので、それは頻繁に通う結果として得られて来るもので、そのいうものは信用金庫には残っている。
→平成11年6月24日のテレビ東京の番組で元気な信用金庫(窓口業務等を含め立ってやることにより38人から25人に効率化、又、空いたスペース(座っていると背後にスペースが必要)をコーヒーショップやパソコン教室に貸す。稚内の信用金庫では自己資本比率25%を超えるところがあり、そこでは足で顧客を精力的に回り、顧客の健康状態までチェック、無理な融資は行わないので、不良債権はほとんどない。500万円までは、年利9%でスピード融資。年利1.38%の住宅ローンを開発等)の紹介があったが、既成概念にとらわれないこと、ヒューマンタッチの顧客管理など、業種は違えても学ぶ物が多い。
7.既存の産業分野でベンチャーが生まれるか
規制緩和と言われているが、現実には、許認可にいたるまでの手法だとか、提出する書類の量は代っていないように感じる。本当の意味の規制緩和はこれからではないか。
航空事業に参入し、たった一機で東京と札幌の間を3往復しているが、東京〜札幌間は世界一の路線であり、座席供給量ではたかだか5%でしかなく、その5%の参入に対して、既存3社が前後1時間の便ではなるが、通常期25,000円の運賃が16,000円まで下がってきたわけで。これは大変なことで、今まではまったく競争がなく、平成8年9月までは原価積上げ方式で運賃が決まってしまうわけで、今時原価を認めてもらえる商売はなく、競争が発生したから運賃が下がったと思われる。
卵という商売を30年間やってきたが、卵は戦後値段が上がらない代表選手のようなもので、むしろ下がっている面があり、相場が始まったのは今から44年前の昭和29年で、当時1kg(個数で15〜16個)217円だった。今日現在、190円〜195円で、最近1年間の平均でも200円〜205円と44年間掛かってむしろ下がっている。これは何かというと、熾烈な競争である。同業者の数がこの28年間の間に1/20〜1/25になった。年に1度の総会は20年前は100人位集まり、結構にぎやかだったが、最近は集まって来る生産者の数は7名とか8名と多くの仲間の脱落があった。
競争がコストを下げるというのは、長い間の信念であり、コストダウンの世界は終着駅がなく、もうよいだろうと6ヶ月間何もしないでいると、その更に上をやる人が出て来る。そういう意味では競争が発生したということで価格が下がってきた。そういうことから言うと、平成10年12月20日までは離陸をするということが最大の目標であった。今、エア・ドゥの役割はこの業界に存在し続けること、生き続けることと思っている。そのためには、かなり思い切ったコストダウンをしていかなければならない。コストに一番影響して来るのは搭乗率であり、企業というものは例えば、10年20年やっているとプラスの財産としてのノウハウ、技術、信用力が蓄積されてくる。一方で、負の財産というか過去から引きずってきた本当は要らないもの(例えば、あの支店は要らなかったとか、あれをやるべきではなかった等)もたまって来るものである。そういうものをどういうふうに切り捨てて行けるかということがある。
当社は、ノウハウや技術、信用はなく、これから積み上げていかなければならないが、一つだけ既存3社にないものがある。それは、過去から引きずってきた財産がない、この部分を大事にして、これからそのようなものが貯まらないようにしていくことが大事だと思っている。
→木材価格が物価上昇に比べ低いとの話しがよく聞かれるが、養鶏業のレベルはこれを遥かに越えたレベルで、終りなきコストダウンの世界はキャリアのある業界の宿命のように感じる。
8.既存産業からのリアクションについて
規制の中で起床することは難しく、経営の自由度がなく、クリエイティブな起業家精神は生まれてこない。規制されている業界は保護されているので競争に弱い。ということは、規制が緩和された段階で、競争の自由度が高まって来るので、規制されてる業界に規制緩和された段階で参入するということは、圧倒的に強い立場になれる可能性がある。
自分のポリシーがあり、それは、官庁の数だけ、ビックインダストリーが眠っていると感じている。例えば、大蔵省の廻りにはファイナンスやサービスが眠っている。厚生省の廻りには、ヘルスケアインダストリーが、文部省の廻りには教育インダストリートとか、郵政省の廻りにはテレコミュニケーシヨンがというように。規制により保護された競争の中で戦っている人たちがいるわけであるが、規制緩和された時点でビックビジネスが生まれて来る可能性がある。
その中で、面白いのは、規制されている業界と規制されていない業界が紙一重というとことが結構多いということである。具体的には、ヤマト運輸と郵便で、どこが守られ、どこが違うのか良く分からない。規制の枠組が外れたところにおいて同じ様な競争を行えるようになると、多くの価値を生む。つまり、自由度が高いので、もっと多くのコンテンツや教育が提供でき、自由度も高いものができるようになると、明らかに消費者からすると選択肢が増えるわけで、そういうことを歓迎するので、規制廻りはチャンスがあるのではないかと思われる。
9.金融機関の規制緩和による競争について
規制の世界で生きてきて、今でも規制は多くあり、規制の中で存在していて強い企業とそうでない企業との間で色々な問題がある。例えば、NTTは通信電話の世界では非常に強いといわれている。しかし、あれは国の資金を投入した財産を持っている。民間から立ち上げてきた企業は自分の手でみんなやってきている。それが自由な同じ条件で競争しろというのはフェアなのかということは絶対に言えない。
例えば、国の関連の会社が創ったようなものに権利を与え、飛ばしていたところに、参入してきたものに、同じ時間帯だけ同じ料金でぶつけて来ることはフェアかというとフェアではない。→スカイマークやエア・ドゥと既存3社の航空運賃をさしている。既存3社が全便同じ様な運賃体系でなく、新会社の便を狙い撃ちにして運賃を下げているのは、いわゆる「伸びる杭を打つ」というパターンで、公正な競争とは言えない。
信用金庫も金融機関であるが、株式会社の金融機関もある。どのような違いがあるかというと、早期健全化法というのは、国の資金が投入されることになっているが、優先出資か劣後債でやることになっているが、信用金庫は法律上、優先出資も劣後債も発行できない。国の資金は投入できない。つぶす時は、管財人を派遣する様なことでいろいろとできるが、生かそうと思った時の仕組みを考えていない。これで金融検査マニュアルは同じで、金融機関は自由だといわれて果たしてフェアなのかというとフェアではない。鉄道の面にも通信の面でもある。八幡製鉄は国が創った会社であり、そのような歴史を持っているところで、強いところと弱いところと同じ土俵で自由だというのは正しい自由化ではないのではないか。
規制緩和は大賛成である。規制緩和が行われる中で、公正な競争について公正取引委員会が明確に取締まる必要がある。エア・ドゥの話しを聞いて、憤慨するがこれはフェアではない。これは規制緩和の問題ではなく、公正な取引が行われているかの問題で、監視機能の問題である。
10.日本型ベンチャーを考えるうえで、そこ
で働いている人の活力のマインド
当社で働いている人間は、当社で働いていること、もしくは、仕事の流れとか、環境だとか、置かれている立場だとかに満足していて、そこで仕事をしたいと思っているのではないか。生田の下で働きたいという人はいない。生田が提供する環境の下で働きたいということだと思う。
元々タイムカードも何もなく、全員が自由な時間に自由に出社する方式だったが、さすがに全員の労働時間を見ることができなくなり、社員の中には3日も4日も会社にいるものがいて管理ができないことがあったので、働きすぎを確認するためタイムカードを導入した。
以前、日曜日ロックアウト事件ということがあった。土日も社員が出社するので、日曜日は事務所の鍵を全部閉め、入れないようにした。
新しい航空会社を立ち上げて、就航しようとするという平成10年12月20日という全社的な大きな結集軸というか目標があった。当社は、既存の航空会社を定年退職された方、証券会社や銀行にいた方等色々な方の集まりで、就航という大きな目標があり、それが人を集め、一つの仕事をするという総合力という面では非常に機能した。就航した現在、社内に次の目標が必要で、絶えず、新しい目標に向かって結集できるようなことが必要である。
使命感は会社を立ち上げる時は大きなパワーになるが、それから先を持続させていくにはそれだけではできない。
人を燃やさせると言うか仕事をさせるには、お金があったり、楽しさがあったり、キャリアにプラスになるとか、使命感等いろいろとあると思うが、国が違ってくると代ってくる。米国の場合、ストックオプションとか、年俸がかなり大きくなるとかが人を引っ張っていくので、そのようなことが求められる。日本の場合は、使命感の方が大きいが、一概には言えない。米国でも使命感がある人もいる。
大切なことは、自分がやっていることの意義を再認識させることで、当社では何度もコミュニケーンしている。これだけやることによって地域に貢献するとか、価値があるとかを言えば、やりがいをもって望める。それ以外にもストックオプションとか年俸制、キャリアパスとなどを考えるが日本の場合は、その部分が重要ではないかと思われる。
11.日本でベンチャー企業が育つために必要なもの、不足するもの
ベンチャー支援などは大々的にやってほしいが、一番重要なのは起業家精神であり、人と同じ事をやらないというクリエイティビティも大切である。
自分にはできないと思っているかもしれないが、恐らく、全員が起業家的なスピリットやクリエイティブティを持っていると思われる。その部分を自分で再認識するプロセスがあるとよいのではないかと思われる。
当社の今飛んでいる飛行機は、ボーイングの767ダッシュ300という286人乗りであるが、その機体に「試される大地北海道」その下に「一歩前へでる勇気があればきっと何かが始まる」ということが書いてある。これは北海道がはじめたイメージアップキャンペーンであるが、これがエア・ドゥの原点であった。人間は弱いもので、壁にぶち当たった時に、できない理由をいくつも並べ立てるのはできるが、ひたすらどうすればできるかということを考えることが重要ではないか。当社の3年間をみると、多くの方の支援があり、途中から「どうすればできるか」ということをひたすら考えてきた。
→為せば成る 為さねばならぬ……のように、時がかかっても、為せば成果は必ず出る。成果が出ないのはやり方が悪かったり、当初の目論見が時代に合わなくなったからで、合うまで何度も修正していけば必ず成果はでるもの。
元々デジタルではなくアナログ的な人間なので、エア・ドゥの話しを聞くと、当社にできることはないかと考える、
今、元気の良い企業は若い企業が多い、つまり、条件がある。新しい分野に気がつくし、若い人たちは相対的に人件費が安いし、しがらみもないということで元気な企業が多いが、やはり、それなりの企業でも、あるいは年配の経営者でも元気を出すとか、工夫をして困難を突破する。そのためには起業家精神もそうであるが、マネージメントということに関心を持ち、時には我々(信用金庫、金融機関)のところに、相談してもらいたい。悪くなってからでは打つ手がないので、早い時期であれば、手を打てることがある。
コーディネータまとめ
日本型ベンチャーは、これから創り上げていかなければならないもので、過去の歴史の教訓に学ぶ必要がある。好きな言葉に「大きいものが常に大きいものではない。小さいものが常に小さいものではない」という世界で一番最初にビタミンを発見した鈴木梅太郎博士が弟子たちに残した言葉である。脚気の原因となるビタミンB1を世界に先駆けて発見され、日本では10年間黙殺され、その間に、何人かの人が脚気でなくなってしまった。小さなものが生んだ価値を大きなものが認めようとしないとか、抑圧してしまう。それによって社会の進歩が遅れてしまった例はたくさんある。そろそろ歴史の教訓に真剣に学ぶ必要があるのではないか。