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インドネシア調査概要
(1)違法伐採問題の要因
違法伐採・違法輸出の実態は様々であり、地域によっても異なると言われている。そして、違法伐採・違法輸出の要因も多様であり、また様々な要因が複雑に絡み合っている。これらの要因の整理の仕方には様々な方法があろうが、本報告では、まず、大きく、直接要因(違法伐採・違法輸出へのインセンティブ増大)と間接要因(違法伐採・違法輸出の助長,抑止力の低下,直接要因が生じた背景)とがあることを認識した上で、それらを違法伐採・違法輸出に関わるファクター(地域住民、木材産業、政府・行政)ごとに整理する。直接要因としては、木材加工工場・林業企業が、不足気味の丸太、しかも安価な違法材を獲得しようとしていること、また地域住民が、手軽な現金獲得手段として違法伐採・違法輸出作業や違法材の販売を行おうとしていることが挙げられる。間接要因のうち違法伐採・違法輸出の助長や抑止力の低下としては、政府・行政の法強制力の低下、森林行政の混乱などがあげられる。以下、ファクターごとの整理を試みる。
インセンティブの増大には、まず、先述のように、失業者の増大や収入の減少、天災による農業生産基盤の劣化・喪失により手軽な現金獲得手段としての違法伐採・違法輸出作業や違法材の販売従事へのインセンティブが増大したことが挙げられる。また、その一方で、政府・行政の法強制力の低下、森林行政の混乱に乗じて利益を上げようとする動きもある。 そうしたインセンティブ増大の背景(間接要因)として、失業者の増大,収入の減少については、深刻な経済不況、社会混乱による伐採事業や工場の操業停止や伐採事業の終了(事業権の期限切れ)などが挙げられる。 資源利用面における地域主義(地域エゴ)の増大につては、まず、急速な地方分権化・民主化により、その具体的内容に関して解釈が混乱し、中には自分たちの欲することを何でも主張し実践できるとの身勝手な解釈が広がったことが挙げられる。地方の政治家が選挙の公約として、票とりのためにこのような地域エゴをあおる場合もあった。こうした急速な地方分権化・民主化が行われた背景には、中央政府の側では資金融資を得るためにIMF勧告へ早急に対応する必要があったこと、一方地方の側では、スハルト開発独裁体制の反動、これまでのジャワ中心主義や地域にあまり恩恵をもたらさなかった森林開発政策への反発などがある。また、IMF勧告による伐採事業権発給制度の改革により、地域住民も小規模伐採事業権(HPHH)(*)が取得可能にとなり、これが場合によっては住民に資源利用面における過剰な地域主義(地域エゴ)を抱かせ、事業権取得競争が生じ、更には法強制力の弱化に乗じて無許可のエリアまでも伐採する者も現れている。不安定な森林行政方針と弱化した法強制力も、「先に利用したもの勝ち」とする風潮を加速させている。 違法入植の際に農地開墾の一環として行われる違法伐採も増加している。違法入植が増加している背景としては、深刻な経済不況による失業者の増大や収入の減少、天災による農業生産基盤の劣化・喪失、急速な地方分権化・民主化による解釈の混乱と法強制力の弱化が挙げられる。
* 伐採事業権の種類 ・ 森林事業権(HPH):大規模な伐採事業権。1州あたりの最大面積上限10万 ha、インドネシア全国での合計上限40万ha。伐採企業あるいは組合が取得。 ・ 林産物採取権(HPHH):最大100ha。地域住民が取得。 ・ 木材利用権(IPK):大規模造林やプランテーション開発の際に行われる整地 の一環としての伐採が対象。企業が取得する。
安価な違法材獲得へのインセンティブ増大の背景には、アジア通貨危機の影響を被り、深刻な経済不況、多額の債務返済に苦しむ企業の原木調達コスト切り下げへの需要などが高まっている中、IMF勧告による丸太輸出解禁に伴い丸太価格が増高したことなどが挙げられる。 丸太の不足に関しては、林産業育成政策により工場キャパシティの著しい拡大の一方で、産業造林事業などの供給サイドでの延びが伴わず、年間許容伐採量の数倍におよぶ木材加工キャパシティを抱える中へ、IMF勧告により丸太輸出が解禁され、国内流通丸太量が更に減少し、その調達問題が深刻化している。不足分を海外から輸入している工場もあるが、違法材に頼る工場も少なくない。 更に、マレーシアや中国は国内の資源不足から、インドネシアからも丸太を輸入しているが、かなりの量を違法に輸入していると見られている。そうした違法輸出に回される材の大半は違法伐採により供給されていると言われている。
B政府・行政サイド 政府・行政サイドにおける、法強制力の著しい低下、急速な地方分権化・民主化による森林行政の混乱は、違法伐採・違法輸出の抑止力の低下と助長をもたらしている。
前者の場合、一説には、軍や地方の有力者、林業省役人、国会議員等もが加わり、そのことが、問題解決を困難にしているとも言われている。また、大規模違法伐採の場合、大人数で武装することもあるため、違法伐採や違法輸出の現場を目撃しても、役人が数人いる程度では取り締まりは不可能である。地域住民が行う場合、周辺の先住民が日常生活に必要な材を採取する伝統的なタイプから、経済不況下で失職した者や天災により生産基盤を失った者が行うタイプ、民主化・地方分権化の混乱に乗じようとする者が行うタイプ、地元住民が他地域からの流入者・集団に伐採されるくらいであれば自分達で伐採を行おうとする対抗的なタイプまで様々な形態がある。また、中には慣習法に従い、慣習法の長の許可を得て行うこともある(慣習法的には合法な伐採)。 違法伐採の行われ方には、伐採事業権を持たない集団や個人がウリン、ラミンなどの有用木が残る国立公園などに侵入して伐採を行うケース、合法的な伐採(択伐)が行われた後に林道を伝って侵入して伐採するケースが多いとされている。前述のように違法入植の一環として行われる違法伐採もある。伐採事業権を有する企業・個人に関しては、年間許容伐採量を越えて過剰伐採を行うケース、河川沿いや急傾斜地などの禁伐エリアを伐採するケース、事業対象地外を伐採するケース、など様々な形態がある。これらの伐採は、意図的な侵害もあれば、地図の未整備からくる誤伐も含まれている。また、年間許容伐採量内ではあるが、税金などを逃れるために伐採量を過小申告するケース(公式に記録されない伐採)もある。その他、企業が地元住民等に違法伐採を代行させるケース、違法伐採を黙認して知らぬ顔をして彼らから原木を調達するケースもあると言われている。
以下、2001年10月時点で、現地で議論されている対策(案)を紹介する。 また政治面では、違法伐採・違法輸出に対するインドネシア政府の責任感を高める事が重視されている。国家的なキャンペーンの実施などで国内外に断固とした姿勢を示すことが求められている。インドネシア政府も、外国援助機関に対する公約という形で、外圧を利用しながら対策を実施している。しかし、あまり厳しすぎる外圧は、抵抗勢力を利することになりかねない。 取締機関の強化として、担当機関(中央・州・県の各レベル)や権限を明確にし、予算・人員を確保すること、担当機関と司法・企業・マスコミ・NGO等との強力な連携の構築、違法伐採に取り組むNGOへの強力な支援、業務の透明性の確保(独立した第三者機関の設置と権限の付与、現地派遣、NGOとの共同取り締まりの義務化など)などが検討されている。 木材生産の停止が地元経済および国家経済に大きな痛手をもたらす点に激しい批判が寄せられているが、NGO側は長期的に見るならば、資源の持続可能な利用を可能とし、ひいては地域経済・国家経済に利益をもたらすと判断している。また、モラトリアムを実施すれば、政府・産業界は対策の考案に全力を注がざるを得ず、短期間により良い政策が策定できることも期待される。 外部からの出稼ぎ労働者による違法伐採・違法輸出や地元の住民がそれに対抗的に行う違法伐採・違法輸出を減少させるために、また、行政能力の不足を補うためにも、地域住民にlocal securityとして協力して貰うことも議論されている。そのためには、違法伐採が地域にもたらす悪影響についての普及を行うと共に、土地の所有権や森林を利用・管理する権利を与えるなどの何らかの経済的なインセンティブを提供する必要もあろう。所有権や利用管理権は、取り締まりの際の法的根拠ともなる。また、現行では違法とされている、地域住民による伝統的な木材採取や慣習権に従って「慣習法的には合法」に行われている木材伐採を認定することも提案されている。 こうした認定は、秩序の安定・回復に貢献すると期待される。しかし、所有権付与や慣習権の認定に関しては、インドネシア全体の土地政策に関わる大きな問題であることと、国の管理が及ばなくなることで非持続的な利用が加速することを恐れ、インドネシア政府は慎重な態度をとっている。一方、森林利用・管理権の付与は林業省単独で対応できるため、比較的に実施可能性は高いと考えられている(限定的に慣習権の一部を認める形になると思われる)。 政府間の話し合いの場合、内政干渉の問題や省庁間の調整の問題から合意に時間がかかるが、こうした民間セクターでの自主的な取り組みであれば動きは早いと考えられている。 この中でも、とりわけ議論が集中しているのが丸太輸出の暫定的な再禁止(Export Ban)である。林業省は、違法輸出(違法伐採)の取り締まりを強化するために、「丸太輸出の暫定的な再禁止」案を主張している。これは丸太輸出を禁止することで、国境を越える原木を全て違法輸出として取り締まることができ、違法伐採も減少すると考えているからである。また国境において断固たる措置を取ることによって、国内はもとよりIMFを始めとする国際社会への強いメッセージとなることも期待している。しかし一方、経済学者やNGOなどは、政府の取り締まり能力を疑問視しており、また丸太が製品となって密輸されるだけとの予測から、違法輸出・違法伐採撲滅への効果が薄く、むしろ国際マーケットから切り離されることで国内丸太価格が下落し結果として違法輸出・違法伐採へのインセンティブを高めてしまう恐れがあると反対している。また、地域によっても地理的条件、経済的条件等が異なり丸太輸出禁止のメリット・デメリットに大きな差が見られることが議論を難航させ、賛否が二分している。 こうしたなか、2001年4月、林業大臣令第127号が制定されてラミン材(各種家具の主要原材料)の伐採及び国内外での取引が一切禁止された。さらに2001年10月8日には林業大臣と産業大臣とが署名して、半年間の丸太輸出禁止が決められた、現在実施中である。
(7)対策策定・実施の留意点
C森林資源の劣化・減少 現在も森林の劣化・減少が続いており、このまま進めば、7〜10年内に貴重な低地熱帯林が消滅するという予測もある。スマトラでは2005年までに、カリマンタンでは2010年までに低湿地林が消滅するという推計もある。違法伐採/違法輸出対策を巡っては、木材産業の影響力の大きさから、慎重な議論が必要とはいえ、残された時間は少ない。 議論を尽くすよりも行動をおこすことが重要であり、「今幾ばくかの損失を被るほうが、後ですべてを失うよりもましである。」という意見もある。また、理想としては全ての森を保全したいところだが、現実には困難であり、一部の重要な森林を守るしかないという意見もある。 (8)日本に期待される協力 違法伐採問題において「木材需要」は一つの重要な要因と考えられており、一大木材輸入国である日本のマーケットサイドへの関心は高い。日本のマーケットサイドが違法伐採・違法輸出問題に関心を持ち始めたことで、違法伐採・違法輸出の議論が新しいステージを迎えたと評価する向きもある。しかし、一部では既にこの数年の間、違法伐採・違法貿易に関する議論がかなり活発に行われてきたことを考えると、彼らと対等に議論するには相当の情報の蓄積と協調の精神が必要である。
日本は、インドネシアに対する最大の援助国であると共に、主要な木材製品輸入国である。そのため、インドネシア政府及びインドネシアの林産業界に対する発言力は大きいはずだ。そこで、日本政府が、インドネシア政府に対して、内政干渉にならない範囲で断固とした違法伐採/違法輸出を取り締まるよう要求することが期待されている。この場合日本国内の木材業界、消費者の強い意志表明が前提になる。
b)マーケット・キャンペーン 日本の消費者が、違法材拒否の姿勢を強く示すことが期待されている。ヨーロッパで広がった非持続的に生産された熱帯林材の不買運動へのマレーシア(サラワク州)の対応(1992年)、カナダ産原生的温帯林材の不買運動へのカナダ(ブリティッシュ・コンロンビア州)の対応(2001年)などの例からも、消費者の不買運動は効果が大きいことが伺える。 しかし、現在のところ日本の消費者のこの問題に関する関心はうすい。日本の消費者に対し、彼らには目にすることはない遠い外国の森林の劣化やそこから生産された木材に関心を持ち続けさせるためには、この問題が地球環境問題と密接にかかわっており、間接的にはやがて我々の生活にも大きな影響が出てくるということ十分に理解してもらう必要がある。今後とも消費者に対し積極的に情報公開をし、世論形成に貢献しなければならない。 さらに消費者運動の展開にあたって国際協調の重要性は否定できないので、関係国の消費者運動についてもその動向を見極める必要がある。
c)違法性の判断 問題は違法材かどうかの判定方法である。これを間違えば、いたずらに木材貿易を混乱させ、木材需給の安定を損ない、輸出国、輸入国双方の国益に合致しないことになるので慎重な検討が必要である。また、木材業界にしろ消費者にしろ違法性が明確な木材を排除することに異論はないはずであり、むしろ違法性を明確にするための実行可能な手段の確立やその国際的合意のほうが先決であるという意見もある。 そこで、例えばLEI("Lembaga Ekolabel Indonesia"、インドネシアエコラベル協会:FSCと共同認証を実施中)などによる認証が一つの基準として考えられるが、現在のところ、認証取得企業はまだ少ないく実効性に疑問がある。近い将来には有る程度の参加企業が増えることも考えられるがまだ緒についてばかりである。 いずれにしろ、こうした取組みは、日本一国で取り組むのではなく、関係国全体で同時に取り組まなければ効果がうすい(抜け穴ができる。)が、この問題への関心は国によって大きな開きがあり、統一的取組みは容易ではない。
d)日本の木材業界 現時点では木材業界で違法伐採問題に関心を持っているのは少数であり、それも知識としては理解しているが、具体的に説明できる者は多くはないと考えられる。そのため業界内部からインドネシアの違法伐採問題への積極的な発言は聞かれない。 先にも述べたとおり、情報量のギャップを埋め、業界内部の認識レベルを上げるため、まず情報収集に全力を注ぐとともに現地の深刻な状況を公開し、最終消費者を含む木材需要者の関心を高めるよう取組むべきである。そして、なるべく早い段階で、業界のはたすべき役割を明確にし、内外に向かって業界自らのスタンス/ポリシーを表明すべきであろう。 Aインドネシア国内の活動への支援 インドネシア国内においては、違法伐採問題の議論は既にかなり活発に行われていることもあり、様々なNGOの活動が報告されている。違法伐採のモニタリングを行っている団体、Tracking Systemを提唱している団体等様々である。今さら日本がこの分野で独自の行動をとることは効果的ではない。むしろ、インドネシアの主権を侵さない範囲で、現地で実際に活動しているこうした組織をどう支援するかを検討することが望まれる。 既にこれまで我が国始め多くの国際機関を通じて森林・林業に関する国際協力が実施されて来ているが、従前から行われている森林造成、森林保護、木材利用等の分野の協力に加えて、違法伐採・違法貿易の阻止に対する協力も新たな協力分野として積極的に実施すべきである。また、我が国からの二国間協力についても同様に支援対象を広げると共に、協力の相手方として現場を熟知したNGO組織を活用することも検討すべきである。 なお、これらを含めた支援策は、国際協調のもとでとの支援国と歩調を合わせて実施されなければ効果が十分に発揮され無であろう。
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