木材流通における転換促進支援事業
令和5年度実施報告

一般社団法人 木と住まい研究協会

1.実施概要

実施団体の説明

 (一社)木と住まい研究協会は、木造建築および木材関連諸団体等と連携して、住宅等の建築物への積極的な木材活用の推進を図り、循環型社会の形成、将来にわたる住生活産業、住生活の向上・発展に寄与するような役割を果たすために、2012年5月に設立された。
 会員は、木材や木造建築物に関わる社団法人や企業で構成され、業界の利益団体ではなく、地域の木造住宅や木材の振興のために、互いに連携して業界横断的に支援していく組織である。

事業の目的

 当事業では実際に建設された物件に対して、横架材等に使われた輸入材を国産材(スギ材等)に代替えして構造シミュレーション(梁せいチェック)を行い、国産材特にスギ材が十分に使えることを実証し技術的な知見を提供して、その材を供給できるシステムを構築することを目的としている。
 2025年の建築基準法改正により構造基準が強化(必要壁量の増加、積載荷重・自重の増加による応力の増大)されるが、その壁量基準により構造シミュレーション(梁せいチェック)を実施し、せん断力やたわみ、曲げについて検証する。その結果として、国産材(特にスギ材)に代替えする場合に、どのような対応が必要であるかを提案する。
 当事業では、上記の課題を解決して、住宅や小規模建築物の構造材を国産材に転換できる供給体制の構築することを目指するものである。

 

事業内容・結果

 木材製品流通事業者や工務店・ビルダー等の構造材利用のステークホルダーに対して、建築用木材に関して国産材を利用するために必要な技術的知識を習得するための講習会を実施し、住宅の構造材の標準仕様に国産材をスペックインするように働きかけ、採用された構造材の安定供給するシステムを提案する事業である。
 具体的には、住宅の構造材(特に横架材)を輸入材から国産材(製材・集成材)に転換するために、実物件での検証(構造シミュレーション)を実施し、その成果をテキスト化して講習会やWEBにより情報発信した。また、選定した国産構造材を工務店・ビルダーが採用し易い仕様とし、コストパフォーマンスの高い具体的な仕様を提案した。

Ⅰ.外国材から国産材に代替えした場合の構造シミュレーション(梁せいチェック)
 実物件を用いて、横架材を外国産のベイマツやRW集成から国産スギ製材やスギ集成材に置き換えた場合に、構造的な問題が発生するかを検証し、その場合にどのような対応が必要であるかを検証する。具体的には、プレカットCADに連動した構造計算システム(ストラデザイン)を用いて、横架材の仕様を変更して、構造検討(梁せいチェック)を実施した。
 その際に必要壁量は、2025年の建築基準法改正による強化された基準案(必要壁量の増加、積載荷重・自重の増加による応力の増大)により、梁せいチェックを実施し、せん断力やたわみ、曲げについて検証する。その結果として、国産材(特にスギ材)に代替えする場合にどのような対応が必要であるか、また最適な樹種・梁せいの提案をする。
 3階建てについては、今回仕様規定での基準の変更がないため、許容応力度計算により実物件での検証を実施した。2階建てと同様に最適な樹種・梁せいの提案をする。
  
【建築基準法改正案による必要壁量の算定】(2階建て)
建築基準法改正による建築物の荷重の実態に応じた仕様で、計算ツールにより必要壁量を算定すると、必要壁量は、1階では33㎝/㎡⇒49㎝/㎡、2階では21㎝/㎡⇒30㎝/㎡に増加した。現行の建築基準法レベルと比較すると約1.5倍となった。これは、現行の性能表示の耐震等級3に相当する壁量である。

【検証結果】(2階建て、3階建て))
改正建築基準法の必要壁量で、耐力壁を設定(耐震等級3相当)

■検討に使用した実物件プラン



■実物件の横架材仕様(外国産材)
■代替えする横架材仕様(国産材)



【2階建ての検証結果】
<CASE-1>
外国産材(ベイマツ、RW集成材)から スギ材(製材 無等級)に代替した場合
端部仕口断面不足により5箇所NG発生
            
<CASE-2>
さらに、外国産材(ベイマツ、ベイマツ集成材、ハイブリット)から
スギ材(製材240 ㎜以下、集成材270㎜以上)に代替した場合
端部仕口断面不足により2箇所NG発生


【結 論】
  • 梁せい270㎜以上の梁を集成材にすることで、せん断基準強度はスギが2.7N/㎜2、カラマツが3.6N/㎜2になるので、端部仕口断面不足が解消される。
  • 梁せい240㎜以下は、スギの製材または集成材、
    梁せい270㎜以上は、カラマツ・ヒノキ集成材(E95-F270)であれば問題がない。

【3階建ての検証結果】
3階建ては、仕様規定の改正はないので、今まで通り許容応力度計算による構造計算
■検証に使用した実物件(3階建て) (耐震等級2相当)

■ 実物件の横架材の仕様
■代替えする横架材仕様(国産材)


<CASE-1> 外国産材(ベイマツ、ベイマツ集成材等)から スギ製材に変更した場合


検証結果
「せん断 端部仕口」NGが2箇所、
「せん断 中央部」NGが4箇所、
「曲げ強度 たわみ」NGが2箇所、
「めりこみ」NGが3か所、発生
<CASE-2> NG箇所をカラマツ・ヒノキ集成材(240㎜以上)に変更した場合

検証結果
・梁せい240㎜以上は、カラマツ・ヒノキ集成材(E95-F270)に変更でNG解消
 1か所は、E105-F300で対応
・一部、スギ製材で梁せいUPでNG解消

【結 論】
  • 国産材に代替えする場合、3階建ては2階建てに比べて応力が大きく、大きな応力を負担する部材(梁せい240㎜以上) については、スギ製材への代替えでは対応できない
    また、スギの集成材でも対応は難しい。
  • 梁せい210㎜以下は、スギの製材または集成材で対応、
    梁せい240㎣以上は、ほぼカラマツ・ヒノキ集成材(E95-F270)で対応できる。


Ⅱ.適材適所に利用できる国産構造材・集成材の選定
製材と集成材の特徴を生かし、品質・供給量・価格のバランスが取れた構造材を部位別に選定する。
コストパフォーマンスが高く工務店・ビルダーが採用し易い仕様とし、国産材のパッケージとして提案する。
全国の製材メーカー、集成材メーカーと連携して、その地域や工務店・ビルダーの特性に合わせた具体的な仕様を提案する。

国産材仕様例



Ⅲ.解説テキストの作成
テキストの作成は、協力団体のアドバイスを受けて、実務者が分かりやすく使いやすいものにするように心掛けた。2025年建築基準法改正に適合した条件で検証を実施し、2階建て、3階建ての建築物に対応できる構造材の提案をした。また工務店が喫緊に対応する必要のある、4号特例の縮小の対応について記載した。木構造や構造材について、正しい基本知識を習得して、国産材を使用できるよう、分かり易い用語解説を付加した。
内容は、下記の項目で28ページの冊子として作成した。
Ⅰ.用語解説 (構造材、構造計算等に必要な用語の解説)
Ⅱ.4号建築物の特例とは
Ⅲ.4号建築物の特例の縮小の概要
Ⅳ.改正基準法内容 (壁量、柱の小径等)必要壁量、柱の小径の算定方法の設計支援ツール
Ⅴ.建築基準法改正への対応策
Ⅵ.梁せいチェック(新基準による検証、2階建て・3階建て)
Ⅶ.国産材(製材・集成材)の仕様例
Ⅷ.製材工場、集成材工場(JAS認定)
 
解説テキスト


Ⅳ.講習会の実施
ステークホルダー(木材流通業者、工務店・ビルダー、設計事務所、プレカット工場等)に対して普及活動のセミナーを実施した。
セミナーは、連携団体に協力いただき、2023年11月30日~12月1日に木と暮らしの博覧会のセミナー会場にて、2回開催し延べ200名が聴講した。講師は、Ⅿs構造設計の佐藤実氏が担当した。
また、WEB方式でのセミナーを実施し、Ⅿs構造設計の佐藤実氏と当社団の宮代専務理事が担当した。WEB方式で幅広く多くのステークホルダーの方々が聴講できるように、今後も当社団のHP上でURLを公開した。
当社HP:http://www.mjkk.or.jp/
視聴URL:
https://api01-platform.stream.co.jp/apiservice/plt3/NDU5%23MTE0NQ%3d%3d%23280%23168%230%233FE420D9C400%23OzEwOzEwOzEw%23

〈セミナーの内容〉
・2025年建築基準法改正に伴う、4号特例の縮小の対応について
・構造材を輸入材から国産材への転換の際に、留意すべき点について(特に、横架材)

木と暮らしの博覧会でのセミナー開催

セミナー開催チラシ

 
 

WEBセミナー(宮代講師)

WEBセミナー(佐藤講師)

2.得られた効果

  • 実物件を使用して、輸入材から国産材への転換の構造シミュレーション(梁せいチェック)により、国産構造材(特にスギ製材)が使用できることを、工務店・ビルダーや設計事務所が理解できた。
    その結果、国産の構造材を構造上適切な木材として提案できるツールとして利用されることを期待する。
  • 国産材特に大径材を利用できる横架材への利用により、国内森林資源の循環利用が促進されることを理解していただけた。
  • 当事業の期間内に於いてはサプライチェーンの出口である工務店・ビルダーが自社の仕様で国産の構造材を標準仕様とすることが促進されることが期待され、それがきっかけとなり、木材流通業者やプレカット工場は、その需要にこたえるためのストックを確保し、国産材の安定供給体制のベースが構築できると考える。

3.今後の課題と次年度以降の計画

  • セミナーについては、今後も木と住まい研究協会のHPにて視聴できるようにしておくことにより、ステークホルダーの方々の学びの機会を提供していく。
  • 今回作成した解説テキストを希望者に広く配布し、工務店が国産JAS構造材を標準仕様とするために梁せいチェックと製材メーカーと標準仕様と標準在庫の仕組みづくりを、ステークホルダーである工務店・ビルダー、プレカット工場、木材流通業者に提案していくツールとして活用してもらうように働きかける。
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