NPO法人木育・木づかいネット 優良教材株式会社

令和4年度 顔の見える木材での快適空間づくり事業

NPO法人木育・木づかいネット 優良教材株式会社

事務局所在:東京都出材地:東京都

事業計画

事業計画(pdfで表示されます)
 

実施概要

実施団体の説明
① NPO法人木育・木づかいネット 
木育、木材利用についての普及啓発、調査研究、製品開発等を進める。埼玉県内の事業者との連携をはじめ、全国の実践者、生産者と多くの連携実績を持つ。本事業においては事務、進行管理、教材検討及び試行などを担当する。
② 優良教材株式会社
中学校技術・家庭科、図工などの教材開発、販売を手がける。木育、SDGsに積極的で、本事業においては、教材のパッケージ、流通、販売方法の検討、既存の教材に関する情報分析、販売戦略等について検討を行う。

【事業の目的】
 合板、MDF、外国産材などで構成されることの多い「学校用教材」で学ぶ子どもたちに、地域材とその良さを伝える「教材」の開発について、次のような目標、内容によって事業を進めました。
目標 : 東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の首都エリアの学校で活用できる教材を開発し、その利用と効果の検証、価格や流通などの課題分析と解決方法の模索、森林から木材利用までの環境理解、持続可能性の学びを高めるパッケージ開発などを行う。
実施方法: 各地域の生産者、関係者とともに検討委員会を構成し、次のことについて検討し、目指すSDGs教材の開発を進める。
1)既存の学校用教材(小学校、中学校)の分析と問題点の抽出
2)地域材を利用した教材の開発と材料供給、加工、コストの検討
3)SDGsなど学びの付加価値を高める副教材の開発
4)教材の効果検証に向けた調査の実施
5)教材の効果分析のための試行実践とその評価

【事業内容・結果】
1)事業検討委員会の開催
事業検討委員会
8月 第1回事業検討委員会の開催 ―課題、目標の確認
教材についての勉強会・視察(優良教材)
9月 既存の教材の分析と整理
各地の森林、木材に関する情報収集と副教材の構成検討
第2回事業検討委員会の開催 ―開発する教材の方針決定
10月 教材の試作、副教材の開発、まとめ
第3回事業検討委員会の開催 ―試作教材の確認、改善
11月 現職教員、専門家による教材の評価・検討、課題抽出
教材の再試作、課題の解決
12月 学校での教材を使った試行実践
販促に向けた課題の整理、実践の成果分析
1月 第4回事業検討委員会の開催 ―事業の成果まとめ
報告書の作成

2)既存の学校用教材(小学校、中学校)の分析と問題点の抽出
 現在学校で使用されている木材を使った教材(主として図画工作に関するもの)について、カタログ等の分析、学校へのヒアリング、アンケート調査などを実施し、価格、素材、パッケージ構成などについて分析しました。その結果、現状の市販教材が、ファルカータ材のような低密度な材料、あるいはMDFなどが持ちいられていること、画一的で、300円/1人程度の安価なパッケージとなっていることが明らかになりました。また教員側も「公平性」や家庭の負担の観点から、こうした教材の活用を肯定的に捉えている状況を明らかにしました。


2)木材を使った教材費として妥当な金額はいくらくらいでしょうか(N=46)
 


3)地域材を利用した教材の開発と材料供給、加工、コストの検討
 首都エリア4地域(東京、神奈川、埼玉、千葉)において活用可能な材料、樹種、形状、寸法等について、事業検討委員会において、その生産、加工、コストを検討しました。まず、市販教材と同等、あるいは同じ構成で地域材を利用した教材について検討した結果、原材料費の段階で、市販教材の2〜3倍のコストが必要となることが明らかとなりました。また、ロット数(対象とする学校数)が増加する場合、生産・供給体制の整備や原材料の確保に課題があることがわかりました

表 市販教材と試作品の価格比較
  題材 A社 B社 試作品
小学校3年生 釘打ち学習 330 340 850
小学校4年生 のこぎり学習 340 340 1000
小学校5年生 糸のこ学習 330 360 1000
注:A社B社の価格は上代、試作品は下代として設定

 一方で、画一的な教材ではなく、材料の形状、数量等に自由度を持たせることで、たとえば工場等の廃材との利用、あるいは組み合わせが可能であることから、地域材の教材化の一例として検討し、具体化に取り組みました。結果的にコストダウンにもつながり、現在の市販教材との価格差も少ない教材パッケージ群を開発することができました。
 

4)SDGsなど学びの付加価値を高める副教材の開発
 国産材、地域材を利用することで価格的な競争力が低下することを補い、付加価値の高い教材として構成するために、できる限り対象となる学校のエリアに関わる学習情報を収集し、SDGsの観点と関係付けながら構成していくことを検討しました。今年度は千葉県、埼玉県の資料について作成し、主教材としての地域材教材のパッケージ化を図りました。
 資料は、共通部分と地域部分によって構成し、共通部分では、国産材、地域材の利用が環境問題やSDGsとの関連を理解できるよう構成しました。また、地域部分については、地域の森林の状況、木材産業の状況について俯瞰し、関心を持てるように構成しました。

共通部分

地域部分
 
5)教材の効果検証に向けた調査の実施
 発した教材の効果を明らかにし、学校への販売促進ツールとして活用することを検討するために、現職教員に対するヒアリング、アンケートを実施するとともに、学校における思考実践とその効果分析をおこないました。対象は千葉県流山市、埼玉県さいたま市、戸田市の3地域の小学校教員に、今回開発した教材および資料を提示し、その課題や期待される効果について対面でのヒアリング、およびWebアンケート調査をおこないました。その結果、廃材等を組み合わせた地域材教材については、コスト、構成、副教材の添付については高く評価されました。一方で、形状や数量にばらつきのある今回の教材が、指導する側に若干の負担やストレスを与える可能性が示唆されました。またSDGsと関連づけたパッケージについては、その効果や新たな教育活動への期待から、肯定的に評価され、利用についてのニーズが確認できたと考えます。なお、10点を「とても薦めたい」、0点を「全く薦められない」とします。


 
6)学校における試行実践と効果分析
 開発した教材、副教材について、千葉県流山市立N小学校で試行的な実践を行った。児童・生徒向けのアンケート調査、教員に対するアンケート、ヒアリング調査を実施し、教材パッケージの有効性及び課題を明らかにしました。
 児童に対しては、地域材に対する親しみ、学習意欲、木や森に対する学習の積極性、木材利用に対する積極性の高まりが明らかになりました。また、NPS分析によって国産材、地域材に対する推奨度(ロイヤルティ)について分析した結果、国産材利用よりも地域材利用に対するロイヤルティが高まっていることがうかがえました。またテキストマイニングによる自由記述分析により、匂いや加工性の良さが実感できたこと、もったいない、楽しいなど情感的な効果、居住地域とその森林に対する関心の高まりが確認されました。
 指導した教員からは、SDGsと関連させた学習活動の意義、児童の個性に応じた多様なものづくり活動の実現などについて評価された一方で、材料の形状から指導困難な場面が生じうることが指摘され、今後の教材改善の課題としました。
 
 

7)実践の成果
 本事業では、地域材を使った魅力的な教材を開発するというだけでなく、その効果について実践を通して検証しました。大きな課題は既存の外国産材を使った教材との間にあるコスト差であると考えられますが、その差を埋められるよう副教材の充実や、教育学の専門家からの指導、助言を受けることによって教育効果を明確にし、付加価値を高めていけると考えられます。また、伐採から木材加工に至る教材開発、生産における生産コストを見直し、教材の訴求力、競争力について、地域の林業、木材産業関係者と協議できたことは、学校で外国産材で学ぶ子どもたちに、国産材、地域材を届ける一歩につながったと考えます。
 現在の教材の採択は、学校単位、あるいは各学校の担当者の判断によって実施されていますが、この場合予算の上限の問題からコスト負担には限界があることを明らかにしました。今後、地域材教材を普及するにあたっては、教育委員会等、予算管理者に対して本事業の成果をPRし、学校の実践に対する教材費負担をお願いしていくことが必要かと思います。今回の実践そしてその評価の結果をまとめることで、本事業で開発した教材を活用してもらうなどの働きかけにつなげられると考えられます。また、本教材は全国各地で同様に取り組みができるものであり、他地域にもさまざまな効果を与えることが期待されます。
 

今後の課題と次年度以降の計画

 本事業で開発した教材は、児童・生徒が使用する教材で、1つ1つのパッケージで使用する木材使用量はやや小さいものになります。しかしながら、1校あたりの児童・生徒数は、1学年としても数十〜数百人と規模が大きく、マーケットとしては有望であると考えられます。また、児童・生徒の学習において、SDGsが注目されている現在、こうした教材に地域特有の木材を利用することは、大きな意義があり、また新たな教育活動を促す契機となることも期待されます。
 その一方、対応する学校数によっては、材料の供給や生産体制においては取扱数が増加する場合に十分対応できない状況やコストへのネガティブな影響が生じる可能性があります。今回の教材では、工場内残廃材や林地内の自然物等も含め、多様性を持った構成を検討したが、そうしたものと地域材を組み合わせることによって、合理化を図っていくことは大きな課題であると考えられます。
 加えて、木材について学習する機会に、地域材、国産材の香り、手触りなどを効果的に伝える機会としても、学校教材には大きな魅力があり、その製品化は将来を担う教育事業としても有意義と思われます。次年度以降については、SDGsに関する副教材の充実、幅広い学年に対する教材の開発を積極的に進めるとともに、その有効性の検討についても取り組んでいきたいと考えています。また、市販教材とのコスト競争ではなく、付加価値の高い、新たな教材として、学校の理解、自治体等の支援を求めながら、事業として継続できる形態を模索していきたいと思います。