令和5年度 顔の見える木材供給体制構築事業
国産材安定供給体制構築に向けた小委員会
事業計画
事業計画
実施団体名:国産材安定供給体制構築に向けた小委員会テーマ
横架材流通を中心とした広域SCMシステムの構築実証~川上と川下がウィンウィンの関係になるために~
背景と目的
◇背景高齢級林分の増加に伴う大径材利用という課題
山元への利益還元による持続的な林業経営が必要
◇目的
「需要がなければ供給できない(川上)」 VS 「使いたいが安定的な供給が望めない(川下)」というジレンマの解決
実施体制・連携グループ
【コーディネーター】 信州大学農学部 教授 植木達人【事務局】 名古屋木材組合
【実施主体】(20者を予定)
①中部地区需給情報連絡協議会の構成員のうち小委員会への参画意向者
((一社)愛知県木材組合連合会・岐阜県木材協同組合連合会・
長野県山林種苗協働組合・㈱東海木材相互市場・昭典木材㈱ほか)
②問題解決に積極的な地域の事業体
【連携・助言指導】 中部森林管理局、愛知県ほか行政機関
事業内容(利用拡大に向けた具体的な実施項目)
①高齢級林分の賦存状況の推定等情報収集各県別・樹種別のデータ収集と分析
②生産・加工・流通・消費に関する実態把握と課題整理
事業体へのヒアリング調査
課題の解決に向けた検討会の開催(3回)、現地調査の実施(1回)
③広域サプライチェーンのモデル実証(1モデル)
約50km圏域における川上~川下までの需給連携体制のシミュレーション
④成果発表会の開催(1回)
調査・研究成果の公表と今後の取組を議論
実証イメージ
- 川上(生産から加工)と川下(流通から建築)の2グループに分けて検証
- 流通のシミュレーションにより適正な生産対価の検証
- 将来的に、大ロットではなく一定の量が常時安定的に流通するサプライチェーンの複数創出を目指す
スケジュール
8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 1月 |
検討会● | 検討会● | ●現地検討会 検討会● |
←現地実証→ | 検討会● (成果発表会) |
取りまとめ |
実施概要
取組の経緯
林野庁主催「国産材の安定供給体制の構築に向けた需給情報連絡協議会」においては、様々な分野からなる構成員により、国産材の需給について幅広く情報交換を行っている。令和4年度の中部地区の協議会において信州大学農学部の植木座長から、大きく3つの課題について小委員会を作ってその解決に向けた具体的な検討を進めていこうと提案があり、今回の取組に繋がっている。
【3つの課題】
①皆伐推進に向けた山側の課題
②高齢級林分の増加に伴う大径材利用の課題
③①と②の解決に向けた広域流通によるサプライチェーンの構築
小委員会構成メンバー
コーディネーター/信州大学農学部 植木達人素材生産・木材流通/愛知県森林組合連合会、岐阜県森林組合連合会
木材流通/ 株式会社東海木材相互市場、一般社団法人愛知県木材組合連合会、岐阜県木材協同組合連合会
製材加工/昭典木材株式会社
その他/長野県山林種苗協同組合、大王製紙株式会社
行政/中部森林管理局、愛知県農林基盤局、長野県林務部、富山県農林水産部、石川県農林水産部
学識経験者/信州大学農学部 末定拓時、林材ライター 赤堀楠雄
協力/愛知県森林・林業技術センター
事務局/名古屋木材組合
取組の内容
課題が広範囲に亘り時間的制約もあることから、今回は、実証を通じて「流通の核となる価格の問題」、「大径材利用の1つとして梁・桁の流通の可能性」、「サプライチェーンモデルによる流通の検証」に取り組むこととした。実証の方向性
①大径の丸太から製品の生産、マーケットへの提供という実証を通じ、その一連の過程を検証・検討することでSCMの可能性を探ることとした。②大径材の小割は歩止まりが悪くなることから、出来るだけ無垢のまま使うこととした。
主力商品あってのサプライチェーンであり、売れるものを開発するために一般住宅用の部材3.5角の柱を対象とした梁・桁をターゲットにした。
③今回は、末口30㎝上の丸太を大径材として定義した。このサイズの丸太からは市場ニーズのある6寸、7寸、8寸の平角が採材可能となる。また原木は50km圏内で入手することとし、スギ30~40㎝、ヒノキ28~32㎝を入手することとした。
実証の内容
①原木は愛知県産のスギを直送ルート、岐阜県産のヒノキを市場ルートで手配した。②製材はスギ、ヒノキともに心去りの二丁取りを基本とし、丸太径の小さいものは心持ちで挽き、心去り材との比較に用いた。
③乾燥は高温と中温で実施のうえ、強度試験を行って平角製品のサンプルを作製した。
実証の結果
実施期間 令和5年10月下旬から12月中旬実施場所 昭典木材㈱ 本社工場(製材)・竹ノ輪工場(乾燥)
①原木の調達
調達先 | 調達方法 | 産 地 | サイズ・量 | |
---|---|---|---|---|
ス ギ | HOLZ三河 | 直送 | 愛知県 | 4m材 30-42㎝ 39本 18.3㎥ |
ヒノキ | ㈱東海木材相互市場 | 市場 | 岐阜県 | 4m材 32-40㎝ 15本 6.4㎥ |
②製材結果(スギ材の一部)
【製材時間】
心去り20分
心持ち15分
・歩留り等
心持製材 30-32㎝ |
心去製材 34-40㎝ |
計 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
材積 ㎥ |
製品 ㎥ |
歩留り % |
材積 ㎥ |
製品 ㎥ |
歩留り % |
材積 ㎥ |
製品 ㎥ |
歩留り % |
|
ス ギ | 4.98 13本 |
2.69 | 54.0 | 13.28 26本 |
7.14 | 53.8 | 18.26 39本 |
9.83 | 53.8 |
ヒノキ | 2.16 6本 |
1.16 | 53.7 | 4.19 9本 |
2.23 | 53.2 | 6.35 15本 |
3.39 | 53.3 |
・実施状況
ヒノキの原木(岐阜県産)
|
スギの原木(愛知県産)
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製材の状況
|
心去り材の反り抜き
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丸太一本から平角二丁とコアの板材 | 丸太の径により様々なサイズの製品 |
検討会等
①第1回小委員会
日時 令和5年9月20日(水) 午後2時から場所 ㈱東海木材相互市場 本社会議室
検討事項
(1)プロジェクトと取組内容について
(2)「顔の見える木材供給体制構築事業」の活用について
(3)実証事業等の役割分担について
(4)今後のスケジュールについて
主な検討結果
- 大径材(30㎝上)の小割は歩止まりが悪い ⇒無垢材・平角
- 非住宅は対象にしない ⇒住宅でスギ・ヒノキをどう使うか考える
- 木材の価格は市場が決める ⇒実際は木材屋が決めている
- 山から木が出ない原因は山主?事業体? ⇒特に大径材は出てこない
- 現状は10%がスギの梁桁/スギの指定は少ない ⇒強度の検証?
- 川上~川下の各段階の価格に触れるのはパンドラの箱を開けること
第1回小委員会
②第2回小委員会
日時 令和5年10月5日(木) 午後2時から場所 ポートメッセなごや 第1展示館2階201会議室
検討事項
(1)丸太の適正価格について
(2)実証内容について
(3)実証の進め方について
(4)今後のスケジュールについて
主な検討結果
- 適正価格はウッドショックの時の価格
- ヒノキの原木1㎥が3万円を超えた/適正価格は2万円超
- 大径材から構造用の梁・桁を作る/一般住宅用の部材で3.5角の柱用を対象
- 原木は50km圏内で入手/スギ30~40㎝、ヒノキ28~32㎝
③現地検討会
日時 令和5年10月30日(月) 午後1時から場所 昭典木材㈱ 本社製材工場
検討事項
(1)製材工場の概要について
(2)横架材の製材実証ついて
(3)今後のスケジュールについて
主な検討結果
- 原木の調達状況を確認 ⇒大径材の直送は入手が困難
- ヒノキは市場経由の岐阜県産/スギは直送の愛知県産
- 大径材から平角を出来るだけ歩止まり良く採る ⇒径級ごとの木取り
- 心去りの二丁取りに挑戦 ⇒反り抜きが必要
- 乾燥は高温と中温の2手法で実施 ⇒高温は内部割れ
- 強度測定の実施 ⇒破壊試験?
④実大強度試験
日時 令和5年12月12日(火) 午前10時30分から午後16時まで令和5年12月13日(水) 午前10時30分から午後16時まで
場所 愛知県森林・林業技術センター
検討事項
愛知県の協力により、オープンラボを使用した強度試験を実施
実施概要
・試験体について
樹 種 | 製材方法 | 乾燥方法 | 備 考 |
---|---|---|---|
ス ギ 12本 |
心去り | 高温 | 3本 |
中温 | 6本 | ||
心持ち | 高温 | 3本 | |
中温 | 0本 | ||
ヒノキ 12本 |
心去り | 高温 | 3本 |
中温 | 5本 | ||
心持ち | 高温 | 3本 | |
中温 | 1本 |
- 今回の曲げ強度試験は、(公財) 日本住宅・木材技術センター(2011 年3 月発行)の「構造用木材の強度試験マニュアル」に基づき実施。
- 試験体及び載荷方法は、各寸法をスパン L=14d、荷重-支点間距離 a=4.5d、S=6dとし、厚さ300㎜のスギ材については、材長が不足したため270㎜のスパンをそのまま使用。
- スパン中央部での全体たわみを測定し、曲げ強さ、曲げヤング係数を算出。スパン等の調整による曲げヤング係数の補正値E/Gはスギ 16、ヒノキ 25を使用。
実施結果
- グレーディングマシンと破壊試験によるヤング係数には相関関係がみられる。⇒概ね同じ強度
- 節の位置によって割れ方に違いがある。⇒目視等級の考え方の妥当性
- ヒノキ材は破壊のタイミングが一気。スギ材はじわじわと粘る。⇒ヒノキは硬くて強い材料
- 高温乾燥の特徴は、前触れなく割れる。⇒材の性質が変化している
- サンプルが少ないため、心去りと心持ちの差は顕著にでなかった⇒スギの心去りはE50、心持ちでE50はなかった
【試験体】 1-2段目6本 ス ギ 中温乾燥 3-4段目6本 ヒノキ 中温乾燥 5-6段目6本 ヒノキ 高温乾燥 7-8段目6本 ス ギ 高温乾燥 |
破壊試験機
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測定機器
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試験状況
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荷重-変位曲線
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⑤第3回小委員会
日時 令和5年12月20日(水) 午後1時から場所 名古屋木材会館 2階会議室
検討事項
(1)事業の中間報告について
(2)実施状況について
(3)今後の取組について
(4)実証の分析・結果取りまとめについて
主な検討結果
- 市場はニーズに合わせたサイズを用意するのが仕事
- 製材の立場は径40㎝が境目で、上か下かで採る商品が変わってくる
- 強度試験の結果について、信州大の末定先生に分析・コメントを依頼
- 設計士が例えばスギでE70の含水率15%のように、E値や含水率を指定してくると調達に困る ⇒含水率は20%で十分では/JASの問題
- 価格検証について、山元立木価格はサンプル数が少なくあくまでも参考データ 製材原価についてはかなり精度はいいが、川下の実証が途中であり製品価格を想定していないため、これも一旦参考データ扱い ⇒今回は外に示さない
その他
石川県から、県も関わり「かが森林組合」が実施した、森林所有者向けアンケート調査結果(令和4年度実施)について資料提供があった。主伐で求める収入についての設問では、主伐した収入から、再造林及びその後10年程度の保育経費を差し引いた収入が「マイナスにならない程度」でよいと答えた方が最も多く、約5割で、仮に100万円/haもらえるなら、9割近くの森林所有者が、主伐・再造林事業に賛成するということであった。その他、調査結果には今後のSCM検討に当たって参考になる事項が散見された。また、富山県からは富山県農林水産総合技術センター木材研究所が監修した「富山県産スギ大径材の構造利用技術」(令和4年1月 富山県森林・木材研究所振興協議会発行の)提供があり、大径材活用に関する幅広い知見が大変参考となった。
かが森林組合アンケート(石川県)
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大径材利用技術(富山県)
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事業実施により得られた効果
(1)木材の価格が相場で決まるのが大前提の中、流通各分野の価格検証について、まず原木調達のコスト、製材加工にかかるコストの検証を試みた。しかし、現状では製品評価を踏まえた販売価格の設定が困難なことから、山元への還元額の試算にまで至っていない。(2)直送で一定の太さの丸太をタイムリーに調達するのは困難だった。ただし、製材実証では、大径材、特にスギを無駄なく使うために、芯去りの二丁取りの有効性が検証できた。
横架材の強度試験についての分析・コメント(信州大学農学部 末定拓時助教による)
以下、「3 試験結果と考察」から「まとめ」の抜粋。
- スギとヒノキとで破壊性状と応力-ひずみ曲線に差が見られ、スギがヒノキよりも粘り強い挙動となる傾向が見られた。
- スギとヒノキともに高温乾燥の心去り材で曲げ強度が低い傾向が見られた。
- 本試験で得られた曲げヤング係数と曲げ強さの関係から、スギの高温乾燥が中温 乾燥に比べて強度が低下する傾向が見られ、試験体の半数以上が機械等級区分構造用製材の基準強度を下回った。ヒノキは乾燥方法の違いによる強度の差はみられなかった。本試験では、特にスギにおいて、試験体の含水率が高く曲げ強度が低くなったと考えられる。
以上、今回の実証では、各分野の関係者が一体となって取り組んだことで、サプライチェーンのモデルらしきものが見えたことが成果の一つとして大きい。
今後の課題と次年度以降の計画
川上(生産から加工)と川下(流通から建築)の2グループに分けて検証する中で、川下の十分な検討に至らなかった。現在、実証により作製した無垢平角材サンプルはプレカット工場2社に搬送されており、今後、製品の評価及び価格設定を行っていく。また建築分野へサンプルとして提供し、材料に対する意見聴取、施主のアンケート等を実施予定である。
本事業を離れても調査・検証を継続し、機会を見つけて報告したい。
(右)非住宅分野での活用による評価/市場「木裏と木表の含水率に10%差」、大工さん「全く問題なし」、材木店「市場にあれば利用したい」等
今後の取組であるが、取組結果及び抽出された課題をベースに、山側へのアプローチを含めた次のステップを目指して、取り組んでいきたいと考えている。
具体的には、まずは素材生産者の先にある山主の意向・考えをしっかり把握し、今回言及できなかった、「適正な立木価格」についての議論を深めていきたい。併せて、持続的な林業経営のため、サプライチェーン全体を通した山元への還元額について試算する予定である。
また、今回大径材として扱ったサイズは30㎝上(市場ニーズのある6寸・7寸・8寸の平角が採材可能なサイズ)であったが、この径級は現在一般に流通しているサイズである。第3回の小委員会で議論されたが、製材においては径40㎝を境目として採る商品が大きく変わってくるとのことである。今後は、本来の大径材40㎝上(45㎝・50㎝上)の使い方をどうするかも視野に入れた検討をしていきたい。