平成27年度 地域材利用の木材関係者等への支援対策事業
一般社団法人宮城県建築士事務所協会
実施概要
実施団体の説明
本協会は建築士法に基づく建築士事務所の開設者を会員とする、会員367の建築士事務所で組織する一般社団法人である。本補助事業の実施にあたっては本協会が事務局を担当する「川上の原木供給の森林組合・木材加工生産の製材事業者並びに川下の建築設計・工務店等の木造住宅生産事業者による78グループのべ1241社で構成する「宮城県地域型復興住宅推進協議会」が推進組織である。事業の目的
本補助事業において、地域における林業の成長産業化と地方創生に寄与する「復興住宅建設と地域木材の利用促進」「住宅復興及びその先を見据えた地域木材の需要拡大」「雇用の創出」を目的としている。事業内容、実施結果
①住宅復興とその先を見据えた、建築士事務所および工務店の技術者の育成
■実施期間 | 10月6日 場所:東京大学大学院農学部「木質構造科学専修センター」 参加者数:30名 東京大学農学部弥生講堂アネックス、一条ホール、西北ギャラリー等を見学。 同施設において、安藤直人東大名誉教授の講義による座学を行った。 |
■目的 | 本研修会は、LVL等の木構法の実際を見学し、また講義の受講によって木造建築に取り組む意欲の増進を期待して行った。 |
■効果 | 参加者は、LVLやCLT等の新しい木質材料の効果的な使い方に接して、木造建築に新たな意欲が沸き上がった等の感想を語っていた。今後も建築士や工務店技術者が住宅及び地方都市の民間非住宅の木造化に意欲的に取り組むための支援として、同様の技術研修会を継続して実施し、地域木材の利用拡大に寄与したい。 |
②地域型グリーン化事業等連携の習熟勉強会・セミナーの開催
■実施期間 | 5月9日 場所:宮城県建築設計会館 参加者数:63名 |
■目的 | 木造住宅建築に対する、国の支援制度の理解は不可欠であることから、地域型住宅生産のグループ代表者を対象に、制度理解の習熟を図ることと地域材利用拡大に寄与するテーマで開催した。セミナーでは、木造住宅の耐震性能・環境負担の低減を図る省エネルギー性能に優れた住宅や三世代同居住宅の取り組み方について、(一社)木と住まい研究 協会の小池透氏を講師として招聘、地域型グリーン化事業及び木材生産の動向、地域型住宅生産に対する国の支援制度等についてセミナーを行った。 |
■効果 | 特に地域型グリーン化事業における申請方法や取り組み方では具体的な説明があり、参加者から毎年度開催の要望が出るなど好評であった。 |
③木造住宅劣化対策・耐久性向上のポイント講習会
■実施期間 | 8月5日 場所:パレスへいあん 参加者数:178名 |
■目的 | 木造住宅の安全で快適に「木と暮らす」長寿命住宅のため、耐久性を向上させる維持保全の劣化対策技術について、関東学院大学 建築環境学部教授 中島正夫氏を迎え、講習会を開催した。本講習会は、断熱施工や耐震性確保に加え、「木造住宅の劣化対策・耐久性向上」は、住宅価値の損失を防止し消費者利益に寄与すること、合わせて工務店等の資質向上に資することから開催した。 |
■効果 | 適切な劣化対策と維持保全は、木造住宅の質と信頼の向上を図るうえで欠かすことが出来ない。木造住宅の快適な暮らしと価値を損なわない努力を建築主のためにすべきことを学んだ等、作り手の信頼の高揚、消費者保護に資する講習会となった。 |
④「熊本地震から考える木造住宅等の課題と展望」の講演会
■実施期間 | 9月13日 場所:パレスへいあん 参加者数:142名 |
■目的 | 熊本地震が木造住宅に与えた映像報道は、木造住宅が地震に対して脆弱との印象を与え、その風評が木造住宅復興の障害になるとの印象から、急きょ企業経営者向け「非住宅木造建築」講演会の計画を「熊本地震から考える木造住宅等の課題と展望」のテーマに変えて、京都大学 生存圏研究所 生活圏構造機能分野 教授 五十田博氏と東北大学大学院工学部 教授 前田匡樹氏の二氏を講師迎えて講演会を開催した。 |
■効果 | 講演会では、地震に負けない木造建築は、剛性としなやかさ、柱・壁の直下率など、設計者及び施工者の技術的な配慮によって可能である等、木造住宅再建に取り組む工務店等に一層の奮起を促す結果を得ることが出来た。 |
⑤展示会の出展「木と住まいの大博覧会」
■実施期間 | 7月9日~10日 場所:夢メッセ宮城 来場者数:19,077名 |
■目的 | 木と住まいの博覧会への出展は、地域材、特に優良みやぎ材「杉」の普及拡大を目的に出展した。展示会には優良みやぎ材使用の躯体の実物大模型や木造住宅事例パネルを展示し、木造住宅の事例集・杉の木のうちわ等を配布して、みやぎ県産木材のPR。合わせて木造住宅の耐震性能・省エネ性能、経済性、維持保全などについてセミナーを行った。 また親子木工教室を併設し、カンナかけの実演、木遊具遊び、スマホ台作りなど木育について木材協同組合と協力を得て実施した。会場では事例集4,000部、杉のうちわ4,000枚を配布した。 |
■効果 | 展示会では、木工教室に1日約100組の親子が参加し、カンナ掛けの実演、木遊具の展示、スマホ台の製作など、木に親しみ、さらに配布した木現しの事例集に感動していた。 また展示方法が評価されて主催者側から展示特別賞を受賞した。 |
⑥意匠性の高い地域材を使用した「現し」の優良住宅事例集の作成及び配布
■実施期間 | 5月~6月 |
■目的 | 復興住宅建設における地域材利用拡大を目的の、「木とともに暮らす、木のぬくもりを暮らしに」を意図した消費者にPRする事例集5,000部を作成した。事例集は東北工業大学教授大沼正寛氏の協力監修を得て、設計事務所6社、工務店6社の木材を「表し」にした力作を掲載した。事例集は地域住宅生産者グループの各工務店・設計事務所等に配布また県内のコンビニ210店でフリーペーパーとして、また展示会で配布した。 |
■効果 | 事例集は、住宅のテーマ、特徴、こだわりなど、各社の木材に対する取組が語り手風に説明されており、読み手の消費者に好感を持たれた。さらに「木と住まいの大博覧会」では、優良みやぎ材を使用した木の香る実物大躯体模型の中での「木現し住宅」の実例集配布は効果的で、来場者からは県産材の価格や、どの地区の木材なのか等多くの質問が出るなど、県産材に対しての関心が強く県産木材の需要拡大への繋がりに期待できた。 |
⑦「非住宅木造建築見学研修会の開催
■実施期間 | 9月9日 場所:山形県南陽市 参加者数:22名 |
■目的 | 非住宅・中大規模建築物の取り組みを喚起する目的で、設計事務所およびゼネコン設計者を対象に「南陽市文化会館、置賜文化ホール、米沢市上杉博物館などの大規模木造建築物を見学。空気浮上方式によってステージに移動する能舞台、特に南陽文化会館の大規模木造建築は、多雪地帯に対応した堆雪型屋根や開放的な空間構成の現代建築の中に深い庇、和風大屋根など感性豊かなデザインの木造建築・機能性について研修した。 |
■効果 | 参加者は大規模木造建築の計画、デザイン・構造設計・防火対策、維持管理などを研修。木造建築の取り組みに意欲を示し、今後の取り組みに期待できる成果となった。 |
⑧森林バスツアー「地球環境にやさしい住宅セミナー・見学会」
■実施期間 | 8月20日 場所:南三陸町 参加者数:51名 |
■目的 | 一般消費者を対象に県産材を使用した地球環境に優しい住宅や、県産木材の特性を学ぶ目的に、南三陸町にて見学ツアーを開催した。南三陸町山林や丸平木材㈱製材工場を見学の後、県産材を活用したモデルハウスで、木造住宅の良さ、地域の気候・風土を知る地域木材、住宅整備補助金の説明セミナーを行った。当初の計画を上回る人数の申込があり、地域材に対する注目度が伺えた。 |
■効果 | 参加者のアンケートでは製材所の見学は大変貴重な機会だった、工夫して良い家を建てる情熱を感じた等うれしい意見や、もっと見学時間がほしかった、家づくりに特化したセミナーは各工法まで説明してほしい等、今後の課題についての要望もあった。 被災地沿岸部ではこれから住宅を建てる方も多く、見学会・セミナーの継続開催が県産材の普及拡大に繋がることを確信した。 |
⑨木のいえ・木のまち作品展(みやぎ建築未来賞)
■実施期間 | 4月~10月 場所:アエル 仙台 来場者数:1611名 |
■目的 | 建築専攻の専門学校生、工業高校生を対象に「地域材を活用した建築」を考える「県産木材を活用した水辺の空間」をテーマに建築作品競技及び作品展を、木育の一環として開催した。 |
■効果 | 学生たちは作品制作の取り組みを通じて、「地域木材の活用」は循環型地域形成に大きな役割を果たすことに理解を深め、木育の成果を得ることができた。 作品展での来場者を前にした学生たちのプレゼンテーションは「木材の活用」「木の建築」の夢を語って木材利用拡大のPRに貢献し展示会は大変盛況であった。 |
事業実施により得られた効果
建築士事務所及び工務店等の技術者を対象とした研修会やセミナー・講演会は、復興住宅の取り組みと、その先を見据えた木造住宅建築や木造非住宅建築の取り組みに期待した成果があった。木構造の技術向上と地域材利用拡大は密接な関係にあり、参加者の多くは意欲的に取り組むべきとの反応があった。また消費者を対象の展示会や森林・木材見学バスツアーは、自然とともに呼吸する木の暮らしに感動していたことから、その成果は充分な手ごたえを感じている。
今後の課題と次年度以降の計画
建築主・消費者と直接向き合う建築士事務所や工務店技術者の技術的資質の向上と木に対する知識の醸成と知見の共有は、今後の木材利用拡大に欠かすことのできないテーマである。また地域木材を活用した地域の工務店による建築の推進は、住民参加の地域経済の活力を生み、林業の成長産業化、健康長寿社会の形成に寄与することである。
次年度も建築士及び工務店技術者等を対象の「一般流通木材活用の木構法」や「CLTやLVL等の新しい木材を活用した住宅・非住宅の木構法」及び「デザイン、防火」に関する座学研修会をシリーズで開催したい。また木材生造・プレカット加工、CLT等の製造過程の見学研修会、中大規模木造建築見学会等の実施によって、一層の木材活用の取り組みに向けて覚醒を図りたい。
林業の成長産業化は、住まい手(使い手)と作り手の協働によることから、森林バスツアー、住
宅見学会、「木育」に関すること、工務店支援、さらに木造非住宅に関するPRを実施したい。