平成28年度 工務店等と林業・木材加工業の連携による住宅づくり等への支援事業
彩の木の家ネットワーク・グリーンエア工法推進グループ
実施概要
グリーンエア工法の開発と普及促進活動
■彩の木の家ネットワークの活動
彩の木の家ネットワークは地域型住宅グリーン化事業(国土交通省)の実施団体として平成25年度に設立。奥武蔵の森の木を使って武蔵野地域で木の家づくりを推進している。■グリーンエア工法開発のねらい
「森の息吹(グリーンエア)を住いに」を理念に自然素材のよさを徹底的に追求した「健康な住い」を消費者に訴求し、付加価値の高い家づくりによって森の循環利用が可能な仕組みをつくることをねらいとしてる。■コンセプトは「健康な木の家」
健康な木の家の2本柱は、「人が健康に暮らせる家」と「家自体が健康を保てる家」■5つの要素技術
1) 構造用合板を使用しない耐震工法2) 防湿気密シートに頼らない防露工法
3) 品質管理された低温乾燥木材の使用
4) 床下の夏型結露を防ぐ基礎断熱工法
5) ICTを活用した室内健康管理
■これまでの取り組み(H25~27年度)
○構造用合板を使用しない耐震工法床及び屋根の斜め張り工法を開発、平成28年度より使用開始
床倍率2.7倍、屋根倍率1.6倍
○防湿気密シートを使用しない防露工法
平成26年3月に竣工した木の家で計測データを収集し、実際の効果を検証済み
斜め張り 床倍率2.7倍 H26 |
■平成28年度事業の工法開発課題
木の持つ良さを最大限に引き出す木材の乾燥方法として低温養生庫(35℃)による試験乾燥を実施し、品質管理された低温乾燥木材による木の家づくりのトータルシステムを開発する。その具体的課題は以下のとおり。1) 低温乾燥木材の乾燥方法の検証
2) 低温乾燥木材の環境性能の調査
3) 品質管理基準(含水率、ヤング率、目視)の設定と品質検査方法の構築
4) 乾燥期間を確保するための設計段階の木材調達調整方法の構築
低温養生庫(協同組合彩の森とき川) | 丸太のヤング率計測の様子H28 |
■平成28年度の工法開発の成果
○低温乾燥木材の乾燥方法の検証スギ平角材(120×180×4000)40本を35℃の低温養生庫で8週間、試験乾燥した。
・ヤング率は全てE70以上
・含水率は平均20.5%、含水率30%を超えるものは5.0%
・使用留保:木口の貫通割れ原因1本、節の位置と数原因3本
・表面割れは多数発生したが構造的に問題とするものは無かった。ただし、亀裂の幅が大きいものがあり、乾燥期間の温湿度の計測結果から乾燥時の湿度管理が課題として明らかとなった。
○低温乾燥木材の環境性能の調査
乾燥方法による違いを比較検討するため、高温セット乾燥材(市場流通)、中温乾燥材、低温乾燥材、天然乾燥材の調湿性能試験、匂い吸着性能試験、走査型電子顕微鏡(SEM)による表面構造の調査を実施した。
・調湿性能については、低温乾燥材は天然乾燥材とほぼ同程度の最も高い性能を発揮した。
・匂い吸着性能は乾燥方法による違いは見られなかった。
・SEMによる表面構造の調査では、低温乾燥材が他の試験体と比較して比較的きれいな表面構造が確認された。
○品質管理基準の設定と品質検査方法構築
石栗太氏(宇都宮大学農学部准教授)、山辺豊彦氏(木構造専門家)を講師に、品質検査研修会を開催した。また、木材の品質管理基準及び検査方法に関する課題の共有と方針案の作成を実施した。
○設計段階の木材調達調整手法の構築
乾燥期間を確保するため設計段階に木材調達調整をして構造材を先行発注する方法は、先行事例調査から、設計変更が発生した場合の対処方法、工事請負契約の方法、乾燥程度のバラつきの問題等が浮かび上がった。
○低温乾燥木材による工法の提案
今回の事業の検討結果として、以下のような工法提案をとりまとめた。
1) 消費者への訴求ポイントは何か?
2) 低温乾燥木材の品質基準と検査方法
3) 設計段階における木材調達調整方法
■研究会活動
松留眞一郎(職業能力開発大学校教授)、前川秀幸(同左准教授)、定成政憲(同左准教授)、中島裕輔(工学院大学教授)、山辺豊彦(㈲山辺構造設計事務所代表取締役)各氏の指導のもと、木材生産3名、施工8名、設計8名、コーディネーター2名の計26名で構成。計3回の研究会を実施した。
吸放湿試験結果 H28
低温乾燥材高温セット乾燥材 走査型電子顕微鏡(SEM)写真 H28
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■一般消費者向け見学会の開催
○乾燥施設・伐採見学会日時:2016年11月27日 10:00~12:00
場所:協同組合彩の森とき川(埼玉県ときがわ町)、参加者26名
協同組合彩の森とき川と連携して、伐採見学会を行った。伐採の見学、貯木場の見学と共に、希望者には住まいの無料相談を受け付けた。また、お昼には地元の秋の恵み・きのこ汁がふるまわれた。
○TM邸構造見学会
日時:2016年7月30日13:00~15:00
場所:埼玉県所沢市
参加者:12名
斜め張り工法で建築中の現場の構造見学会を実施した。
○TM邸完成見学会
日時:2016年11月23日10:30~15:00
場所:埼玉県所沢市
参加者:43名
斜め張り工法で建築した木の家の完成見学会を実施した。
○TK邸完成見学会
日時:2016年11月26日10:30~15:00
場所:東京都石練馬区
参加者:6名
斜め張り工法で建築した木の家の完成見学会を実施した。
伐採見学会H28.11.27 | TM邸構造見学会 H28.7.30 | TM邸完成見学会の様子H28.11.23 |
■工務店・設計者向け研修会の開催
○含水率・ヤング率計測実習日時:2016年12月6日13:00~16:00
場所:協同組合彩の森とき川(埼玉県)
講師:石栗太(宇都宮大学農学部森林科学科准教授)
参加者:20名
セミナー:木材の乾燥と品質管理
実習:設計者・工務店のための含水率とヤング率の正しい計り方実習
○構造材品質検査(節・割れ)研修会
日時:2016年12月9日14:00~17:00
場所:協同組合彩の森とき川(埼玉県)
講師:山辺豊彦(㈱山辺構造設計事務所)
参加者:21名
セミナー:構造的に見た木材の割れ・節の判定方法
実習:出荷時の木材の割れ・節の判定方法
事業実施により得られた効果
○短期的効果目標 | H28成果 | |
工法登録法人数 | 15社 | 18社 |
年間ホームページ訪問回数 | 8,000件 | 12,077件*1 |
年間資料請求・メルマガ登録者数 | 24人 | 40人 |
年間相談・見学会参加者数 | 10組 (15人) |
87人 |
年間建築(中)件数 | 4件 | 5件 |
○長期的効果
1)木材の品質に関する継続的な改善活動の動機付けができた。
2)彩の木の家ネットワークの研究開発力の体制整備のかたちが見えてきた
3)グリーンエア工法の仕組みの広域への波及の可能性が見えてきた
今後の課題と次年度以降の計画
○低温乾燥木材の開発に関する課題低温乾燥木材の含水率、ヤング率等の品質に関しては目標の達成が可能であることが
分かった。ただし、含水率についてはバラつきもあるため、乾燥前の原木または一次製材の選別など含水率の平準化をどう図るかが今後の課題となる。
表面割れについては構造的には問題がないが、消費者眼線から考えると縮小が課題となる。定成政憲氏(乾燥の専門家)からは、「低温養生時の湿度管理を行うことで縮小することが可能である」との助言を受けた。
○運用体制の整備
構造用合板を使用せずに長期優良認定を取りたいという要望は少なくなく、特に広報していないにも関わらず、各地の工務店、設計事務所、消費者から問い合わせが来るようになった。グループ内でクローズにするのではなく、オープンな工法として運用し、実際の施工現場での知見を蓄積して工法の改善を図るため、今後は工法事例の蓄積、評価、改善を継続的に進める運用体制の整備が課題である。
○その他の要素技術の開発
床下の夏型結露を防止するための「基礎断熱工法の改善」、「ITCを活用した住いの健康管理システムの開発」の2つの要素技術の開発は今後の重要課題となる。
平成29年度については、引続き「低温乾燥材の乾燥方法の改善」と「グリーンエア工法の普及啓発活動」を2本の柱として活動を展開する。
低温乾燥材の改善のテーマとしては、特に乾燥時の湿度管理方法の検討、乾燥前製材・原木の選別による乾燥品質のばらつきの縮小、低温養生庫を効率的に運用するための受発注の方法の検討に取り組みたい。
ヤング率・含水率の計測実習 H28.12.6 |
目視による品質検査の実習H28.12.9 |