平成28年度 地域材利用の木材関係者等への支援対策事業
国産材等流通促進協議会
実施概要
事業実施背景
現在、我が国では林業および木材産業を取り巻く環境が悪化し、従来国産無垢材需要の主軸であった住宅資材(A材)の需要は減少傾向にある。さらに輸入木材および集成材需要の増加が、その傾向に拍車をかけている。こうした状況を受け、一般社団法人JBN、一般社団法人日本林業経営者協会、日本木材青壮年連合会、国産材製材協会が共同で平成27年度「木材サプライチェーンの連携によるA材需要の拡大方策」において、国産無垢材におけるアンケート調査を実施し、621社の地域工務店から回答を得た。その結果、唯一梁・桁において輸入木材が圧倒的に優位であることが判明した。
梁・桁に使用される樹種(見え隠れ) |
平成28年度は、上記4団体で国産材等流通促進協議会を設立し、横架材に注目してより詳細に調査を実施した。さらに28年度は解決策の提案にも取り組み、工務店が国産無垢材を住まい手に提案するためのマニュアルも作成した。調査では、平成27年度の事業において回答があった工務店に対して再調査を行ったため、横架材においてもスギ製材品が使われている結果になった。一方で、横架材の長さや梁成による樹種選択の結果では、国産無垢材の弱みも明らかになった。また、工務店が利用する木材全般を木材販売店が扱っているケースが30%にのぼり、木材販売店が木材の情報を的確に提案・啓発することによる、国産材流通の活性化が期待されると考察できた。
当事業では木材関係者や工務店等に対し、施主と接する実現場でプロユーザーがマニュアルの内容を的確に伝えることができるように5か所でマニュアルの研修を実施する計画を立てた。さらに、当事業ではマニュアルのエッセンスを取り入れながら施主(一般)向けのパンフレットを作成した。当協議会では上述の取り組みにより、国産無垢材の需要拡大に繋げるだけでなく、地震や台風による国産木材への誤解を是正することを目的として、平成28年度地域材利用の木材関係者等への支援対策事業に取組んだ。
一般消費者向けパンフレット作製
住宅購買層のパターン分けと使用方法の検討
当協議会では、一般消費者向けのパンフレットを作製するにあたり、ターゲットとなる住宅購買層について以下の3パターンに分類した。1.木材マニア型 木材に関する知識があり、無垢木材採用を重視する。 2.意見相違型 夫婦または複数の人同士で住宅購入に際し、どこに拘るか意見が異なる。 3.設備重視型 水回りや木部以外の部分に拘りが強いが、それ以外の部分への熱量は小さい。 |
タイプ別住宅購買層と木材採用志向の強さ |
2の意見相違型は地域工務店、ホームビルダー、ハウスメーカーに関わらず一定数含まれる顧客である。平成27年度に一般社団法人JBNが主体になり行った調査では、年間の建築実績が1〜20棟の地域工務店が85%となる調査であり、国産材製材品の採用率も高い傾向が見られた。その一方で、年間着工戸数が大きくなると輸入木材を採用するケースが増えることがわかっていた。
柱に使用される樹種見え隠れ(棟数換算だと輸入集成材が増える) |
年間20棟以上手掛ける地域工務店は意見相違型の顧客に対して、国産木材に関する説明をする時間がほとんど取れない場合があったり、営業担当の木材に対する知識に差があったりすることから、国産木材採用まで至らないケースがあると考えられる。当マニュアルは意見相違型の顧客に対し、端的に無垢国産材の説明が可能になるように検討した。
3の設備重視型は、水回りなどの住宅設備に拘りはあるが、それ以外の部分には興味が薄かったり、できるだけ安くなるものを選んだりする傾向の顧客である。このタイプの顧客はプロユーザー側から木材に関する説明を行う時間を取ることがほとんど出来ない。そのため、当パンフレットは打合せ後にその他の資料と一緒に顧客に渡すという使い方を考えている。設備重視型の顧客に対して、当マニュアルは簡単に持ち運びできるようにして、顧客から国産材利用マニュアルに繋がる質問を引き出すためのツールとなる位置付けである。そのため判型は女性が持つ小さなカバンにも収まるように、A5サイズで製作した。
ページ構成
当マニュアルのページ構成は、地球や環境といった大きな事柄からメンテナンスなど身近なテーマとなるようにページ構成を行った(図2−3.)。国産材利用マニュアルのページ構成とは異なるが、マニュアル使用時にページ数を覚えていなくても、自分が知りたいページを探しやすくするために変更した。ただし、テーマ毎の内容は国産材利用マニュアルを踏襲し、より簡潔に表現した。メンテナンスに関する項目の追加
国産材利用マニュアルはプロユーザーが用いる資料として作製したが、施主が素材・建材選びで気にかけるメンテナンスに関する情報が不足していた。そのため、一般向けマニュアルについては傷や汚れ、経年変化などメンテンナス情報も取り入れた。傷や汚れについては、表面塗装の種類を浸透タイプと塗膜タイプに大きく2つに分け、それぞれの特徴について解説したメンテナンスは、どのような建材を用いても必要になってくるものである。プロユーザーは顧客にしっかりとメンテナンス情報を説明することで、無垢木材採用に際して感じる不安事項を解決し、無垢木材について納得した上で採用してもらうことが肝要であると考える。
国産材利用マニュアル研修
研修実施日と参加者
国産材利用マニュアルの研修は以下の地域で実施した。開催地 | 開催日 | 参加人数 | 参加者概要 |
高知 | 2月24日 | 46名 | 土佐林業クラブ会員およびJBNメンバー |
東京 | 3月1日 | 29名 | JBNおよび木材青壮年連合会、林業経営者協会メンバー |
三重 | 4月10日 | 44名 | 「三重の木」認証建築事業者、三重県木材組合連合会組合員 |
長野 | 5月24日 | 40名 | 国際ウッドフェア来場者のうちセミナー参加希望者 |
熊本 | 6月20日 | 30名 | JBNおよび木材青壮年連合会、林業経営者協会メンバー |
岩手 | 7月6日 | 33名 | JBNおよび木材青壮年連合会、林業経営者協会メンバー |
研修実施結果
マニュアルのみでの説明では、各社でロールプレイングなどをしながら、使用方法を研修しないと、わかり辛い様子であった。そのため長野会場からは要点などを整理したパワーポイントを作成し、研修に臨んだ。事業実施により得られた効果・今後の課題と次年度以降の計画
本事業では、国産材利用マニュアルの研修と一般向けのパンフレット作成を行い、2つのツールを用いて、木材に関する正しい情報の普及と無垢国産材の利用促進に取組んだ。住宅の購入は顧客にとって、大変大きな買い物であるため、商品や素材の選択には顧客のこだわりや想いが強く影響する。そのため、プロユーザーは正しい情報をきちんと説明できれば、国産無垢材の採用数は増えると考える。本事業では、住宅購買層を3つのパターンに分け、国産材利用マニュアルと一般向けパンフレットの使い方を下図のように想定している。プロユーザーは顧客を説得するのではなく、納得してもらうことが大切である。納得して建てた住まいには愛着が生まれ、長く住み継がれると考える。当協議会では、マニュアルとパンフレットが納得の住宅づくりの一助になることを期待している。
今後は、各地域工務店において、マニュアルおよびパンフレットを活用していただき、使用した上での意見を集約していくことを検討する。協議会では、引き続きマニュアルおよびパンフレットのブラッシュアップを行っていく予定である。更に要望のある工務店などへは、使用方法のロールプレイング研修なども実施していき、本事業の成果物の活用をフォローしていく。