令和元年度 顔の見える木材での快適空間づくり事業
上川地域水平連携協議会
事務局所在:北海道実施概要
事業計画
実施概要
実施団体の説明
北海道の中央部に位置する上川地域の森林蓄積量は約1億1千万㎥。上川地域を都道府県に見立てると全国の16位くらいに位置している。針葉樹ではトドマツが蓄積の半分以上を占めている。このような森林資源を背景に、上川地域では木材製造業、家具製造業が発達し、例えば、このふたつの製造業で働く方々は上川地域の製造業で働く方の2割近くを占めている。また、家具製造業は、「旭川家具」として全国有数の産地となっており、旭川家具工業協同組合の会員数は40社にのぼり、その出荷額は北海道の家具装備品出荷額の約3割を占めている。このような産業構造を背景として、上川地域水平連携協議会が設立された。設立のきっかけは、複数の中小製材工場などが連携して、品質・性能の確かな製品生産に取り組む体制づくりを支援する「地域材の水平連携加工システム推進事業」に手をあげたことにある。平成21年のことで、道総研林産試験場による支援を受け、採択された。協議会のメンバーは、素材生産、製材、集成材、プレカット、家具・内装材、および住宅のそれぞれの事業者となっている。協議会が目的としているのは次の2点である。
- 1.トドマツを活用した製品開発
- 2.トドマツを使った住宅づくりの普及
事業の目的
都市部では建築物の外壁に対する規制が厳しく、外装材として木材を使用するには、実大の外壁に対する防耐火試験を行った上で、国土交通大臣の認定を取得する必要がある。外壁が備えるべき防耐火性能は、
- ①火災時の熱を遮る、
- ②屋内側に燃え抜けない、
- ③壊れない、
・木材に難燃薬剤を添加して防火性能を高める、
・無機材料外壁の表面に木材を化粧材として重ね張りする、
といった方法が用いられてきた。しかし、いずれの方法もコスト増を招くとともに、難燃薬剤を添加する方法は経年変化によって性能が低下する問題が近年特に指摘されている。
これは、都市部での木質化には防耐火性能の向上が必須であること、しかし、外装木材の薬剤処理には課題が残されていることを示している。また、当協議会が(一社)日本ショッピングセンター協会主催のビジネスフェアに出展した際にも、防耐火性能が担保された木質材料による商業施設の木質化の要望が寄せられている
今回、外壁の防耐火性能の向上を図る新たな方法として、木材の厚さを厚くすることが考えられた。この考え方は柱や梁の燃え代(しろ)設計技術として実用化されているものである。
(地独)北海道立総合研究機構森林研究本部林産試験場(以下、道総研林産試験場)では、木材の厚さと外壁の防耐火性能の関係について一連の試験を進め、例えば厚さ30~40mmの厚板を外装材に用いることで30分以上の防耐火性能を発揮させることができることを明らかにしている。すなわち、大径のA材丸太から得られる板厚で幅広な製材を外壁の外装材に用いることで、難燃薬剤や無機材料を用いずに、都市部の建築物に求められる防耐火性能を満たすことができる。
また、外壁に防耐火性能を付与し、省令準耐火構造*の基準を満たすと、火災保険料率が一般木造の半分適度に軽減される制度があり、建築コスト削減のメリットが得られる。
そこで本事業では、都心部での防耐火規制に対応する「トドマツ厚板張り防耐火構造外壁」の普及を目的とする。
事業内容・結果
①防耐火構造外壁の性能実証
外壁の防耐火性能のひとつである遮熱性は木材の厚さとともに大きくなる。そこで、外装材にトドマツ厚板を用いた充填断熱木造軸組工法外壁の遮熱性能について検討した。検討方法および結果は次のとおりである。- ・試験体:目地形状の異なる4体(材料構成を「試験体の横断面」に示す)
- ・加熱試験:大きさ1×1mの壁用加熱試験装置で45分間加熱
- ・評価方法:試験体裏面温度をK熱電対で測定
- ・評価結果:試験体の最高温度上昇値は180K以下で、遮熱性の評価基準を満たす
試験体の横断面 | 試験体裏面の最高温度上昇値 |
②首都圏での情報発信
みなとモデル二酸化炭素固定認証制度木材製品展示会みなとモデル二酸化炭素固定認証制度とは、建築物等への国産木材の使用を推進する東京都港区で実施されている制度である。「みなとモデル二酸化炭素固定認証制度木材製品展示会」は、不動産・設計・建設等の関係者を対象に、制度に登録している事業者の木材製品(建材・家具等)の紹介および展示を行うものである。
1)展示会概要
主催:東京都港区環境リサイクル支援部環境課
日時:2019年9月18日 11時~17時
場所:東京都港区エコプラザ(港区浜松町1-13-1)
出展者:46団体
2)展示内容
製造者 | 製品名 | |
登録製品 | 下川町森林組合 | 燻煙処理材(外装羽目板) |
三津橋農産(株) | 羽柄製材S4S | |
(参考) | 上川地域水平連携協議会 | フローリング、外装羽目板 |
下川フォレストファミリー(株) | 羽目板、フローリング |
3)来訪者
全体:約200名程度(2018年実績)(2019年実績は未発表)
「上川地域水平連携協議会」展示への来訪者:おおよそ50名
展示会用パンフレット配布数 30部
カタログ等配布数 25部
4)まとめ
比較的小規模な展示会ではあったが、首都圏の建築関係者や「地域材利用」を考えている大手コーヒーチェーンの出店担当者等にトドマツ外装材を一定程度PRできた。
WOODコレクション(モクコレ)
「WOODコレクション(モクコレ)」は、日本各地の国産材を活用した建材や家具などの木材製品展示会である。
名称 | WOODコレクション(モクコレ)令和元年 |
テーマ | JAPANWOOD.JAPANPRIDE. 日本の木材日本の誇り |
会期 | 令和元年 12月10日(10:00〜17:30)12月11日(10:00〜16:30) |
会場 | 東京ビッグサイト南3・4ホール |
主催 | 東京都 |
運営 | WOODコレクション(モクコレ)実行委員会 |
上川地域水平連携協議会は、北海道ブースの一員として展示を行った。
上川地域水平連携協議会の展示品は次のとおりである。
- ・展示パネル 5枚
- ・外壁構造モデル 4体
- ・トドマツ材(厚さ30mm、長さ20cm)
- ・トドマツ防耐火外装ハンドブック
- ・上川地域水平連携協議会 10年の取り組み
- ・「トドマツ」外装材・内装材・床材カタログ
アンケート結果の抜粋を示す。
質問項目 | 回答数 | 質問項目 | 回答数 |
5 トドマツの見た目について抱いた印象を教えて下さい(いくつでも) | |||
①白い | 88 | ⑤親しみやすい | 30 |
②明るい | 59 | ⑥のっぺりとしている | 4 |
③落ち着く | 21 | ⑦特にない | 3 |
④高級感がある | 16 | ⑧その他 | 6 |
7 トドマツを外装材として利用する上で必要と感じる項目を3つ選んで下さい | |||
①防耐火性が高い | 53 | ⑤供給が安定している | 42 |
②耐久性が高い | 63 | ⑥製品のバリエーションが豊富 | 3 |
③狂いにくい | 53 | ⑦価格が手頃である | 49 |
④施工が簡便である | 23 | ⑧その他 | 1 |
(数字は実数)
アンケートのおおまかな傾向は次のようにまとめられる。
- ・トドマツの印象は良好であった。
- ・トドマツの用途として、内装材利用が最も支持された。
- ・外装材としての利用には、狂いを含めた耐久性に対する危惧が大きく、ついで防耐火性であった。
③ 技術資料の作成
トドマツ厚板張り防耐火構造外壁を普及するに際しては、必要な情報として下記3項目が想定された。- ①建築物にかけられている防耐火規制の概要
- ②北海道以外の地域では生育していない「トドマツ」という樹種・木材の特徴
- ③トドマツの利用例
木造公共建築物に関する全体講習会・情報交換会
主催:(一社)北海道建築技術協会、日にち:2020年2月17日、場所:札幌市
- ・(一社)北海道林産技術普及協会会員 約150部
- ・WOODコレクション(モクコレ) 約150部
- ・道総研林産試験場(経由) 約100部
- ・顔の見える木材での快適空間づくり事業報告会
主催:(一社)全国木材組合連合会、日にち:2020年2月10日、場所:東京都江東区 - ・[令和元年度(2019年度)木造公共建築物の企画・設計支援事業]
木造公共建築物に関する全体講習会・情報交換会
主催:(一社)北海道建築技術協会、日にち:2020年2月17日、場所:札幌市
技術資料 目次 | 頁数 |
トドマツ人工林材の増産と利用拡大への期待 | 1 |
1.防耐火性能を知る | |
1.1 防耐火規制の概要 | 2 |
1.2 防耐火構造の認定制度 | 2 |
1.3 板材の燃焼特性 | 2 |
1.4 厚板外装材の防耐火性能 | 4 |
1.5 厚板外壁の防耐火性能 | 2 |
1.6 断熱工法外壁の防耐火性能 | 4 |
1.7 外装木材のメンテナンス | 4 |
2.トドマツを知る | |
2.1 資源 | 2 |
2.2 需給 | 2 |
2.3 材質 | 2 |
2.4 強度 | 2 |
林産試験場の建材開発成果 | |
製材・CLT・圧縮木材・内装材 | 2 |
防火木材・サッシ | 2 |
事業実施により得られた効果
本事業の実施により、下記の成果・効果が得られた。①木材および建築の専門家の手による技術資料を発行することで、雑な防耐火法規制への対応策が明示された。
②トドマツ厚板を張った外壁のモデル構造物を作製したことで、具体的な活用イメージを示すことができるようになった。
③これらを用いた展示会出展を通じ、少数ではあるが、建築予定物件への利用要望が建築サイドから得られた。
④当協議会と同様に厚板を外装材として用いる取り組みを進めている他団体と、普及の相乗効果を期待した連携・協力の方向性が得られた。
今後の課題と次年度以降の計画
2020年1月、日刊木材新聞(1月22日)、木材建材ウィクリー(1月27日)で「トドマツ厚板張り準耐火構造」が取り上げられた。建築物の外装に木材を使用するに際しては、防耐火規制が大きな障壁となっていること、その技術的解決策が関心事となっていることのひとつの証左であろう。防火規制をクリアする技術が求められていることは、モクコレにおける設計事務所との対応においても感じられたことである。また、厚板外装材(スギ、ヒノキ)による防耐火外壁の普及に取り組んでいる岐阜県JAS製材品等供給・利用推進組合との打合せにおいて、下記の意見をいただいた。
- ・問合せは、東京・関東圏からが約5割、近畿・中部からが3割。
- ・問合せは、建築士からが多い。
- ・外装板張り準耐火構造(防火構造)が十分に知られている状況にはない。
- ・水平連携の取り組みで相乗効果が発揮され、周知および利用が進む可能性が期待できる。
今後、引き続き両機関との連携を深めながら、「トドマツ厚板による防耐火構造外壁」の普及に取り組んでいくこととしたい。