NPO法人木づかい子育てネットワーク

令和2年度 顔の見える木材での快適空間づくり事業

NPO法人木づかい子育てネットワーク

事務局所在:東京都

実施概要

事業計画

実施概要

実施団体について
①NPO法人木づかい子育てネットワーク
木育、木材利用についての普及啓発、調査研究、製品開発等を進める。埼玉県内の事業者との連携をはじめ、全国の実践者、生産者と多くの連携実績を持つ。事務、進行を統括する。
②株式会社サカモト(製品試作、デザイン開発を担当)
西川材をはじめとする埼玉県飯能市の森林認証材利用に向けて積極的な製品開発を進める。埼玉県森林認証協議会会員。本事業においては研修会の実施のほか、製品試作、デザイン開発を担当する。
 
事業の目的
ここ数年、木育に対する認識は大きく高まり、木育ひろば、おもちゃ美術館などが各地に建設されるなど、教育や保育の中で木材を積極的に活用しようとする動きが増えています。安全や安心、そして製品の質が重視される教育、保育の世界にあって、「木育ツール」「木育空間」の開発、提供は、高い付加価値を持った国産材利用の形態、そして新たなマーケット形成につながるものと考えられます。
私たちが今回の事業の中でとりあげた、「木育デザイン」という分野は、木育や保育、そしてこどもについての理解を持ち、よりよく子どもを育てる様々な取り組みを支えるものであり、質の高い木材利用の一翼を担うものと考えられます。この木育空間デザインの課題は、木育を理解し、保育や教育の現場を知り、デザインとして提供できる人づくりであり、よりよいデザインを普及させていくことにあり、私たちは昨年度に引き続き、その解決に向けた取り組みとして、「木育デザイン研修会 虎の穴」を実施しました。
今年度は、教育、保育で求められる「木育ツール」「木育空間」のデザインについて、木育、保育、そしてこどもの発達についての基礎を学ぶ「ビギナーコース(Bコース)」と、そうした基礎を学び、それを活かし具体化する実践としての「アドバンスコース(Aコース)」と2つの研修プログラムを用意し、①木育の理解、②保育・保育環境の理解、③木育空間づくりの理解をもつ、優れた木育空間デザイナーの養成を、4か月にわたり進めました。
 
事業内容・結果
研修会プログラムについて
本事業では、幼児教育の事業者を木材利用の新たなマーケットと捉え、A材丸太による質の高い木育ツール(施設、空間、遊具、玩具等)のデザインとその実現を担う人材養成を目標に掲げ、事業を進めました。
研修プログラムは、アクティブラーニング型(受講者の主体的、能動的学びを重視する形態)の講義、ワークショップとすることを念頭に、次の1)~5)をガイドラインとして計画、実行しました。
  • (1)木育、保育、空間デザインの実践者、経験者との対話を中心とすること
  • (2)積極的なトライアルを促す反転形式の学習などを取り入れていくこと
  • (3)実践事例から学ぶだけでなく、自らの創造をもとに学ぶ改善を取り入れること
  • (4)西川材の性質、特徴について、ものづくりなどの実体験から学ぶこと
  • (5)木育の実践者、保育者からデザインニーズや意見を聞く機会を用意すること

講師には、木育、保育、空間デザイン、木材流通など、各分野の第一線で活躍する実践者、専門家を講師として招き、保育、木育の現場、実践者と対話を通して学べるよう、時間等の配置を検討しました。
また、研修会の実施にあたっては、埼玉県飯能市を中心に生産される西川材とその周辺地域を、「地域における木材利用の事例」の一つとして取り上げ、林業地域および地域材利用の現状と課題についての学習コンテンツとして位置づけるとともに、Aコースで実施した木育ツールデザインの試作の主たる素材として西川材を取り上げました。
なお本年度は、新型コロナウイルスの影響もあり、Aコース、Bコースともにオンライン開催を前提に研修プログラムを計画しました。

表 「2020木育デザイン 虎の穴」講師
講師名 所属等 担当分野
浅田 茂裕 埼玉大学 木育・保育の基礎、
デザインコンセプト
古川 泰司 アトリエフルカワ一級建築事務所 木材の利用。調達
木育施設設計、デザイン指導
坂本 幸 株式会社サカモト 木材の基礎、加工技術
木材生産地域の現状
関山 隆一 NPO法人もあなキッズ自然楽校 自然保育
こどもの発達
荒川 直志  社会福祉法人どろんこ会 幼児教育
保育
奥 ひろ子 パワープレイス株式会社 木育空間デザイン
デザイン指導
酒井 慶太郎 酒井産業株式会社 木材製品の開発・流通
商品化の方法
 
「木育デザイン虎の穴」研修会プログラムとその実施
①ビギナーコース(Bコース)の概要
Bコース研修は6回構成(隔週1回)とし、木育デザインに必要な、木育、保育、木材利用についての基礎学習と、保育、木材利用、デザインの実践者による具体事例の学習、および木育ツールデザインの演習課題(エスキース課題)を研修内容として、次の表に示す通り構成しました。なお演習課題は「木育の玩具、遊具、空間のデザイン」としました。

表 Bコースプログラムの概要
  日程・学習テーマ  講義内容 主担当講師
1

10/10(土)
14:00~16:00
「基礎・総論」
① 木育・保育の理解(序論~基本理解と課題提示)
② 木育空間のデザインについて(総論)
③ 保育環境の意味と役割    
浅田 茂裕
古川 泰司
浅田 茂裕
2

10/24(土)
14:00~16:00
「保育の実際」
④  デザインコンセプトのまとめ方
⑤ 森のようちえん型保育について
⑥ “自分で考え、行動する思考”を育む保育園
⑦ エスキースチェック
浅田 茂裕
関山 隆一
荒川 直志
古川 泰司
3

11/7(土)
14:00~16:00
「デザインと商品化」
⑧ 木育空間デザインのプロセス理解
⑨ 木製品の商品化までのプロセス
⑩ エスキースチェック    
奥 ひろ子
酒井 慶太郎
古川 泰司
4

 11/21(土)
14:00~16:00
「製品の生産」
⑪ 木育ツールの特徴と機能 
⑫ 地域の木材生産と加工の基礎知識
⑬ エスキースチェック
浅田 茂裕
坂本 幸
古川 泰司
5

12/5(土)
14:00~16:00
「事例視察」
⑭ 保育所事例の視察~埼玉県東松山市桑の木保育園
⑮ 体験ワークショップの開催
⑯ エスキースチェック
古川 泰司
浅田 茂裕
古川 泰司
6

12/19(土)
14:00~16:00
「成果発表会」
⑰ デザイン成果発表会の開催
修了式
古川、浅田
坂本、奥


受講者は令和2年8月にホームページ、SNS等を活用した公募に応じた建築士、家具デザイナー、林業家、木工作家、行政関係者、学生など30名であり、さらにエスキース課題の提出義務を課さない聴講のみの受講者(聴講生)20数名が参加しました。

②アドバンスコース(Aコース)の概要
昨年度の木育デザイン虎の穴では、デザインの製品化に近づいた受講者がいた一方で、多くの受講者はデザイン案だけで終了し、十分な満足度が得られないといった課題がありました。そこで、前回の参加者および具体的なデザイン経験を持つ設計者等を対象とした、アドバンスコースを開設しました。
Aコース研修は、6回構成(毎週1回)とし、木育ツールのデザイン課題と、デザイン事例の改善課題を中心にプログラムを構成しました。デザイン課題の検討場面では、保育、デザインの実践者等にも参加を要請し、対話型の研修活動を展開しました。また、6回目終了後、それぞれのデザインの試作に取り組み、令和3年度1月23日に成果発表会(埼玉県飯能市)にて開催しました。
なおAコースにおいては、「さいたま市内に実在する小規模保育施設に設置する遊具、玩具、ツール開発」をテーマとして、保育者ニーズに沿った木育ツールのデザインとその試作を課題として提示しました。
なおAコースの参加者は、前年度参加した5名(設計士、玩具作家等)と建築および木育ツールの設計経験を有する設計士の計6名を受講者としました。プログラムの概要を次表に示します。

表 Aコースプログラムの概要
  日程・学習テーマ 研修内容  主担当講師
1  10/7(水)
19:00~21:00
① 課題提示―対象保育施設の概要 
② 製品改善の事例について
浅田 茂裕
古川 泰司
2 10/14(水)
19:00~21:00
③ 保育の視点から見た木育ツール
④ エスキースチェック
関山 隆一
古川 泰司
3 10/21(水)
19:00~21:00 
⑤ 木製品の商品化までのプロセス
⑥ デザインコンセプトのまとめ方
酒井 慶太郎
浅田 茂裕
4 10/28(水)
19:00~21:00
⑦ エスキースチェック、ディスカッション 古川 泰司
荒川 直志
5 11/4(水)
19:00~21:00
⑧ エスキースチェック、ディスカッション 古川 泰司
浅田 茂裕
6 11/11(水)
19:00~21:00
⑨ 試作に向けた最終確認 坂本 幸
古川 泰司

11/12~1/22 ⑩  デザインの修正→図面化→材料の調達→部品加工
→修正→組み立て→仕上げ
株式会社
サカモト



1/23(土)
14:00~16:00
 ⑪  作品プレゼンテーション、講評
会場 飯能商工会議所(埼玉県飯能市)
〒357-0032 埼玉県飯能市本町 1-7
古川 泰司
坂本 幸
奥 ひろ子
井上 淳治
(浅田茂裕)

研修の成果
①Bコースの成果
受講者が提出した木育ツールは、玩具、教材、空間など多岐にわたり、非常に意欲的な作品となりました。
これらのいくつかは、すぐにでも製品化が可能なものであり、また今後さらに検討を進めることによって、大きな可能性があると考えられます。
この研修会で終了とせず、事務局として継続的に関わりながら、具体的な製品化につなげられるように支援を行っていきたいと思います。

(仮)まる太郎

Mocky

室内多用途わんぱく木質空間 Wood Gym

華道の入り口


②Aコースの成果
受講者の提案については、すべて試作品として製作することができました。遊具そのものというだけでなく、都市部の狭隘な保育施設の空間を活かし、保育活動の支援を想定するなどマーケットインを意識したデザインや、受講者が持つ既存の技術を活かすプロダクトアウト型のデザインなど、それぞれのデザイナーが個性を生かして試作品を完成させることができたと思います(試作品の詳細については次項で後述します)。
 
試作品について
Aコースでデザインされた木育ツールについて、株式会社サカモトの協力により、試作を行いました。材料は原則として埼玉県産材(西川材)を中心に活用し、必要なその他の木質系部材についても国産材製品を中心に用いました。なお、西川材の供給にあたっては、飯能市森林認証協議会に協力を依頼しています。最終的に次の4作品を試作しました。

試作品1 
「バランスピン」
青木健太郎(株式会社 京和木材)

3人で回転と均衡(バランス+スピン)を楽しむ遊具です。廻ったりしながら身体を使って遊びます。バランスをとって回転するというところから宇宙ゴマをイメージするようなデザインにしました。
 

試作品2 
「木のうんてい」
高木大輔・加藤一郎(竹広林業株式会社)

小規模保育園などの狭いスペースでも子供たちに屋内から屋外(世界)を見てほしい。そこで室内と外を繋ぐもの(遊具)があれば興味を持ち・行動するきっかけになるのでは?と思い、考えた遊具です。壁面に収納出来る、ということも機能の一つです。
 

試作品3 
「にほんのきの■(しかく)ちゃん」
堀内 良一(堀内ウッドクラフト)

昨年度の研修内容から温めてきた作品です。狭い保育園環境の中で、一つの遊具でいろいろな遊びが引き出されるように考えました。構造をシンプルにすることで製作コストを下げ、置く場所や収納に困りません。マグネットが付いており、平面→立体物も作れます。
 

試作品4 
「アイスキャンディーバー」
三輪 良恵(MIWA Atelier)

アイスの棒、スプーン、カップをイメージし、つないだり、重ねたりすることができます。遊ぶ道具としてだけでなく、場づくりの道具、パーティションとして活用することも可能です。長い棒はこども1人では重く、協働作業が促されることを期待してデザインしました。
 
宣伝広報
本事業においては、受講者の公募等のため告知ツールを作成し、研修会の開催経過等について、木づかい子育てネットワークのホームページやSNS(主としてFacebook)、環境・木材系WEBサイトの掲示板によって適時広報を行いました。また、試作品等の情報についても、ホームページ等で積極的に情報発信しています。
なお、令和3年1月23日には、Aコースで試作した製品の成果発表会を開催しましたが、新型コロナウイルスの感染拡大予防の観点から、対外的には公開せず、主催者、講師、受講者の一部により、厳重な感染予防策を講じた上で、成果物の確認および指導、講評を行いました。また、当日参加できなかった受講者ならびにBコース受講者に対しては、SNS上にて作品の一部についてオンラインで情報公開しました。

 
受講者アンケートの結果
事業終了後の調査結果(Bコースについて)
カリキュラム、講義内容については、概ね評価は高いものの、受講者の研修に対する姿勢はやや消極的で、研修時間、内容の理解度が十分でなかったこと、オンライン研修などが影響していると考えられます。ただし研修全体の満足度は75%以上であり、概ね肯定的に評価されたといえます。

 
受講者コメント(一部抜粋)
  • ・木育を中心に活動されている様々なプロの方が講義やコメントを頂く事が出来たので、毎回とても勉強になる事が多く、実り多い機会を頂きました(行政職)
  • ・今回はコロナの為にZOOM開催でしたが、やはり人間関係が無い中、人間関係を築く事が難しく、実践の中で重要になる事等上手く尋ねる事が出来ませんでした(建築)。
  • ・課題はつめが甘いまま時間に追われました。今後も活動は続けて行きたいと考えています。
 
その他製作物(マニュアル・事例集・PR冊子・DVD・パネル等)
本事業の効果をまとめ、今後の研修会実施の広報、展開に資することを目的として、実施報告書(8ページ)を作成しました。この内容の一部については、NPO法人木づかい子育てネットワークが運営するホームページ上で公開し、本事業に対する意見を広くうかがうとともに、今後の研修会の広報、受講者の募集等に活用していきます。

名称 令和2年度 木育デザイン虎の穴実施報告書
仕様  A4サイズ、8ページ、300部
目的 研修会の広報のため

当法人が管理運営する「Pride-wood」サイトに、成果報告ページを作成
https://www.pride-wood.net/

事業実施により得られた効果

この事業によって、私たちは木育・木材利用についての知識を持つデザイナー、設計士の養成およびスキルアップのための研修会を実施することにより、木育および木材利用に関する理解を持った人材育成を行うとともに、質の高い木育ツール開発、木育空間の実現に向けた今後の課題を明らかにすることができました。
また、本事業が目指す木育空間デザインのための基本的カリキュラムと必要なコンテンツの収集を図ることができました。とくに、オンラインによる実施はさまざまな制約があり講師、受講者双方に大きな負担となったと考えられますが、この経験によって全国の関係者を対象とするオンデマンド研修会実施の可能性など、今後の研修の効率化、および教育研修事業実施のための体制強化につながったと前向きに成果として捉えています。
受講生からは、本研修の講義内容、研修方法に対して高い評価が得られており、とりわけ木育ツール、木育空間デザインにおけるこどもや保育についての理解が必要なこと、保育に対して木材製品の導入の意義、価値について理解が進んだこと点について評価されました。また、実際の制作活動、商品化への意欲が見られるなど、さらなる学びへの意欲を喚起することができたと考えられます。
さらに、今回受講者のデザインをもとに試作した製品は非常にレベルが高く、質の高い木育ツール、木育空間の実現という、本事業の目的に沿った製品を生み出すことができました。一部の製品については実際に保育施設から購入希望が届いており、積極的に製品化、販売に向けてコスト、生産体制、販売ルート等を具体的に検討し、地域材、A材の高付加価値利用に向けて取り組んでいく予定です。

 

今後の課題と次年度以降の計画

オンライン開催という制限の多い状況の中で、昨年度までの反省を活かし、カリキュラムの工夫、グループワークの指導の工夫を行った結果、受講者の高い満足度を得ることができた一方で、受講者の基本的スキル、経験の差が学習への意欲、課題に対する積極性に差をもたらすことが明らかとなりました。また、木育空間のデザインについての理解を拡げた一方で、地域の抱える木材利用の課題を受講者に主体的に「自分事」として捉えさせることが不十分であったと思います。例えばサプライチェーンにおける具体的課題や実際に産出される材料の活用などについて、より深い理解、課題共有は、大きな課題の一つでしょう。
こうした課題の解決に向けては、受講者の学習レディネスを調整するための、より基本的なカリキュラムを設置することや、SNS、オンラインツールを積極的に活用した支援体制の確立、そして対面式実施による補完的プログラムの導入によって解決を図る必要があります。また、地域の課題をより具体的に理解するために、林業地や製材所の見学、地域の生産者を交えた交流プログラムの実施についても検討していきたいと思います。
最後に、本事業をさらに充実させ、継続、自立させていくことは、私たち主催者の最大の課題であり、次年度以降の事業実施に向けて、鋭意努力していく所存です。