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2.木の街づくりシンポジウム(概要)

   

 2000(平成13)年3月3日、兵庫県の神戸国際展示場で「木の街づくりシンポジウム」を開催しました。このシンポジウムは、木の街・むらづくり基本コンセプトの内容を広く周知するとともに、これからの木の街・むらづくりのあり方をより多くの皆様とともに考えることを目的に実施したものです。

 当日は、同じ神戸国際展示場で「木と暮らしのフェア」が開催されていたこともあり、約130名の方々にご参加いただき、全国各地で地域材の活用に取り組んでおられるパネリストを交えて、有意義な議論を展開することができました。その概要は、次のとおりです。

基調講演 安藤 直人(東京大学大学院助教授)
 20世紀は、大量生産・大量消費の時代でした。そして日本は、バブル崩壊から今日まで、不況が続いています。その中で、地域でどうやって毎日生活していくのか、地域にある山、あるいは近所の山にある木材をどうやって利用していくかが、今日の街づくり・むらづくりのテーマになってきています。

 一方、住宅建築の分野は、プレカットの普及や品確法の制定・施行などで、マーケットが大きく変化してきています。非常に長いスパンをかけて築き上げられた森林資源と地域材も、この変化に遅ればせながらついていかざるを得ないという現状もあります。

 木というのは、非常にいい材料我々は、木よりは工業製品に取り囲まれた住宅に住むようになってしまいました。しかし、環境や健康への意識が高まっている現代においては、合成された化物質よりは、天然の高分子である木材をもっと身近に置いておきたいというニーズが高まっています。

 ただ、一般の消費者から見ますと、木はどこに買いにいったらいいのかわからない。実際には、なかなか入手できない材料となっています。こうした現状を改善して、もっと身近に、もっと普段から木材と親しめるようにしていくことが求められています。

 そのため、木の街・むらづくりに向けた基本コンセプトをまとめました。そのポイントは次のとおりです。

 第1に、「木を活かす」ことが大きな課題です。現在社会の中で、木材のよさについての新しい評価を出して、それを子供達も含めて、地域で暮らす人達に伝えていく。街の中で、木はこんなにいいものだということを活かしていく。それが求められています。

 2番目の、「人を活かす」という課題については、地域という前提を踏まえて、街の中、むらの中で人を活かしていくことが必要です。そのためには、木を知っている人を育てていかなければなりません。

 3番目は、「技術を活かす」ということです。例えば、耐震性、耐久性を高める新しい技術をきちんとわきまえた住宅づくりを積み重ねていくことによって、安全な街づくり・むらづくりが可能になっていくわけです。住宅は、個人の所有物ですが、それを踏まえた上で、地域の街づくりをどうやって進めていくか、その際に新しい技術を活かすという視点が大切になります。

 4番目は、「生業を活かす」ということ。これは、木材にかかわる産業に携わられている方々を対象にしています。自分たちの持っている業、技、生業を発展させていく、それを地域の中に還元させていくことが大事だと思います。

 5番目は、「繋がりを活かす」ことです。一人一人の問題がその地域の問題になっていくのですから、繋がり、連帯、連携というものをもっと大事にしようということです。

 以上、5つの課題は、言うは易く行うは難しかもしれません。けれども、非常に当たり前のことを当たり前のようにやっていきたいというのが、今回の基本コンセプトで考えていることです。

事例報告1 芦田 喬(兵庫県木材業協同組合連合会副会長)
 兵庫県の奥丹波という農村と山の地域で、小さな製材工場を営んでいます。平成6年頃に兵庫県立丹波年輪の里の事務局として、兵庫県の製品開発研究会を設立し、スギ材を利用した住宅部材、ベンチなど野外遊具などを製作していました。

その中で、都市の設計事務所とタイアップして「ひょうごネットワーク木の道」を立ち上げました。このネットワークで、これまでに80〜90棟分の納材をさせていただきました。今年からもう一度原点に戻って、スギを使った兵庫の木の家づくりを進めています。

 また、兵庫県知事のご意向を受けて、地域材の活用と環境問題への対応をとり入れた「ひょうごウッディビジネスパーク」という構想を、県下3流域における森林から木材加工、そして住宅までを含めた方々と兵庫県とが専門部会を組織して研究・整備しているところです。

 これができれば、消費者の皆さんにも地域材をアピールできるのではないかと、私達もその完成を楽しみに期待しているところです。さらに、地域材の供給部会を昨年の12月に兵庫県木連を中心にして26社がつくっており、兵庫県の公共的な物件にぜひ地域材を使っていただきたいということで積極的に取り組んでいます。

 私の地元の丹波林産振興センターという市場では、治山事業でスギの間伐材を利用して、コンクリートパネル、あるいは土留めの水利工、あるいは丸太組工法などを、柏原農林事務所の指導のもとで現在製作しており、たくさん利用していただいています。このような製品化をして、今後もどしどし地域材を使っていただきたいと現場からお願いします。

事例報告2 津嶋 貴弘(高知県商工労働部産業技術委員会事務局研究開発推進スタッフ)
 高知県は、県土の84%を森林が占める全国1位の森林県です。その森林の中でも人工林が極めて多く、現在も、「木の文化県構想」を打ち上げまして、木を育てる、木に親しむ、木を活かすことに取り組んでいます。

 この木を活かすというテーマは、基本コンセプト(五段変革活用)の1番目に当たるもので、それを4、5年前からやっています。

 吉野川に架かる県道の橋(本山大橋)を地元産のスギを使ってつくりました。このケースでは、芯に鉄製品を使って、そのまわりをスギで囲う工法―オーバーラップ構法―で建設省の車道用の防護柵基準をクリアしました。

 また、21世紀に向けて住宅問題を研究していこうと、産学官のメンバー20人くらいで研究会をつくり、SEB(セビー)住宅開発協議会を組織しました。その成果として、平成8年にはストレートカット住宅、平成9年にはエマージェンシーハウス=緊急災害時の仮設的住宅を開発、さらに、平成10年にはバリアフリー住宅ということで、長寿社会対応型住宅の問題を検討しています。

 このほか、山間地の梼原町立保育園に木製遊具を整備して、父母会などとの交流を進めるなど、さまざまな取り組みを続けています。せてもらいます。

事例報告3 溝渕木綿子(株式会社市浦都市開発建築コンサルタンツ住宅開発推進室専門役)
 群馬県高崎市で全15棟の木造団地をつくった事例をご紹介します。15棟という大規模な木造住宅団地は、全国でもなかなかないと思います。建設地は、信越本線の沿線で、東京からも近いのどかな田園地帯で、木とか緑とかがかなり豊富なところです。木造団地が計画されたのも、この全体的な景観を壊さないということがありました。

 特に、高崎市が、「これから国産材を有効に活用していくために、木造の団地をつくることで、居住者だけではなくて周りの住民に対しても木材はこれだけいいものだということをアピールしていきたい」というはっきりとした目的を持っていました。

 私共が木造団地を提案しても、コストなどの問題もからみ合って、すんなりと木造団地ができるというわけにはいきません。しかし、ここの場合は、高崎市が市民に木材をアピールしたいという目的をはっきりさせていたため、大きな団地をつくることができました。

 モデル団地として木材のよさをアピールするため、ベランダの手すりの一部にも木材を使っていますし、外構部分でもかなり木材を使っています。本当は全部国産材を使ってつくりたいのですけれど、一度にすべての問題を解決していくのは非常に難しく、大断面の構造用LVLを使っています。

 このLVLは、国産の工場でつくられたものが半分で、あとの半分は輸入材を使わざるを得ないという状況でした。そうした妥協点はありましたけれども、被覆材であるとか内装材などにも国産材を使っていますので、結果的には輸入材と同じくらいの量の国産スギ材を使うことができました。

 この木造団地はいい評価を得て、結果的に次の県営住宅を木造団地にすることができました。これからも、木造団地が世の中に1つでも多くできるように業務を進めていきたいと思っています。

事例報告4 森山 輝男(株式会社野元代表取締役社長)
 鹿児島で、製材、トラス事業、住設、新建材、サッシ、鋸目立て事業、さらに不動産事業と、南風人館(はやとかん)というギャラリーをやっています。また、CADセンター、プレカット、羽柄もやっており、要するに田舎のよろず屋です。地域の住宅産業の支援ができないということで、いろいろなことをくっつけくっつけしながらやっています。

 地域の11社の製材所が集まり、「霧島スギ優良住宅供給協議会」をつくって、「神々の降りた森からの霧島スギ」のブランド化を図っています。また、製材所から出てくるゴミを全部炭にして、蒸気式燻煙乾燥法で木材をつくったり、社有田圃に土壌改良剤として炭を利用し、化学肥料を使わない無農薬米の栽培や合鴨を育てるなど、いろいろな試みをしています。

 特に、当社にあるギャラリーでは、毎月いろいろな企画展をやっており、平成9年のスタート以降の来場者は5万数千人となっています。

 地域の住宅産業の一番の悩みは、「注文がとれない」ことです。一口に地域の住宅産業と言いますが、最近はプレハブでつくった家なのか、地域の大工さんがつくっている家なのか、わからなくなっています。

 本来は、プレハブとまったく違う家づくりをやっていなければならなかった。大工さんのつくった家ということが一発でわかるような家づくりのお手伝いをしなければいけない。ところが、残念ながら、地域の住宅産業はデザイン能力をだんだん失っています。

 ですから、地域の住宅デザインとは何かということを、もう1回構築したいのです。世の中には地域の木にこだわってものをつくっている工芸作家であったり、アーチストであったり。そういう人達を私共の住宅産業の土俵に引っ張り込んで、地域の住宅産業とドッキングさせることによって、新しい地域デザインができないかと考えています。