TOP » 木を学ぶ » イベント情報 » 第15回「新たな木材利用事例発表会~JAS材の普及拡大に向けて 」を開催しました
第15回「新たな木材利用事例発表会~JAS材の普及拡大に向けて」の概要
第15回「新たな木材利用事例発表会~JAS 材の普及拡大に向けて」を、令和6年1月29日(月)13:30~16:20、木材会館7階大ホールでの会場参加と WEB 参加との併用により開催しました。
木材関係業界のほか、建築・設計、土木、家具・建具、行政・地方公共団体等、幅広い業種の方々を含めて会場約70名、WEB 約300名のご参加をいただきました。
開催にあたりまして、多大なご協力・ご支援をいただいた関係各位の皆様に厚く御礼申し上げます。
1 開催日時等
2 事例発表
〇第一部 13:35~13:55
「製材 JAS の供給・利用の拡大に向けて」
林野庁 林政部 木材産業課 上席木材専門官
鈴 木 清 史 氏
〇第二部 13:55~14:25
「木材供給体制と JAS 材生産の取り組み」
協和木材株式会社 専務取締役
佐川 和佳子 氏
〇第三部 14:25~14:55
「カーボンニュートラル社会に向けた木材利用の取組と JAS 材への期待」
株式会社竹中工務店 木造・木質建築推進本部 シニアチーフエンジニア
小 林 道 和 氏
〇第四部 15:05~15:35
「マクドナルドの国産木材の活用状況 Planet Project」
日本マクドナルド株式会社 店舗開発本部 設計建設部 投資モデル最適化部 部長
佐 藤 弘 樹 氏
3 パネルディスカッション 15:40~16:20
「なぜ木材を利用するのか」
<パネラー>
鈴木 清史 氏、佐川 和佳子 氏、小林 道和 氏、佐藤 弘樹 氏
<司会>
一般社団法人 全国木材組合連合会 常務理事 田口 護 氏
<当日の講演・パネルディスカッションの動画及び講演資料など、以下のとおりです>
当日行われた Youtube 配信のアーカイブ動画は以下から視聴できます。
https://www.youtube.com/watch?v=nBoRBlMXKKg
当日行われた講演 の資料は次のとおりです。
第1部
「製材JASの供給・利用の拡大に向けて」
林野庁 林政部 木材産業課 上席木材専門官 鈴木 清史(すずき きよし)氏
講演データ https://www.zenmoku.jp/ippan/ivent/455/files/240129_1.pdf
第2部
「木材供給体制とJAS材生産の取り組み」
協和木材株式会社 専務取締役 佐川 和佳子(さがわ わかこ)氏
講演データ https://www.zenmoku.jp/ippan/ivent/455/files/240129_2.pdf
第3部
「カーボンニュートラル社会に向けた木材利用の取組とJAS材への期待」
株式会社竹中工務店 木造・木質建築推進本部 シニアチーフエンジニア
小林 道和(こばやし みちかず)氏
講演データ https://www.zenmoku.jp/ippan/ivent/455/files/240129_3.pdf
第4部
「マクドナルドの国産木材活用について」
日本マクドナルド株式会社 店舗開発本部 開発戦略部 兼 投資モデル適正化部 部長
佐藤 弘樹(さとう ひろき)氏
講演データ https://www.zenmoku.jp/ippan/ivent/455/files/240129_4.pdf
[事例発表]
〇第一部 13:35~13:55
「製材 JAS の供給・利用の拡大に向けて」
林野庁 林政部 木材産業課 上席木材専門官
鈴 木 清 史 氏
【概要】
冒頭、JAS(Japanese Agricultural Standards:日本農林規格)とは、食品・農林水産分野において農林水産大臣が定める国家規格であり、JAS 認証を受けた事業者が、製造した農林物資について、JAS に適合するか検査の上で適合する場合には JAS マークを貼付して流通させることができる制度であり、林産物 JAS については 13 品目 35 規格がある旨説明。
林産物 JAS のうち製材については JAS 格付率が 11%と低位にとどまっているが、JAS 製材のメリットとして無等級材より高い基準強度が与えられているため構造計算を行う場合有利であり、令和7年施行予定の改正建築基準法等により JAS 材のニーズが高まる可能性について言及されました。
一方、製材 JAS の課題として、生産者側である製材工場において、機械等級区分認証取得のための設備投資など認定申請・維持の費用が高額となること、JAS 製材の需要の乏しいこと、JAS 製材と無等級材の価格差の無いことなどの課題があるとともに、利用者側にとっては納期が長い、そもそも JAS 認定工場が少ない等の課題があるという現状を説明。製材 JAS の課題改善策として、乾燥区分、寸法精度、標準寸法などの見直し、破壊検査を伴っていた含水率測定について非破壊検査の導入、従来工場毎であった製材 JAS の認証を複数の工場が連携した製造工程での認証取得などが検討中であることが説明されました。
また、製材の利用促進は、原木価格の引き上げによる循環的な林業経営への貢献、全国的に所在する製材工場を通じた地域経済への波及効果などが大きいこと、更には、品質・性能の確かな JAS 製材の供給拡大により、輸入材から国産材への転換促進に繋がることが期待されるとの説明がありました。
改正建築基準法の施行等を契機として川下側で JAS 製材のニーズが高まることを想定しつつ、地域毎に川上から川下まで関係者間での協議や情報共有を行うことにより JAS 製材のサプライチェーンを構築することが、持続可能な森林経営、森林資源の循環利用においても大きな意義を 持つことを強調して、講演の締めくくりとなりました。
〇第二部 13:55~14:25
「木材供給体制と JAS 材生産の取り組み」
協和木材株式会社 専務取締役
佐川 和佳子 氏
【概要】
講演は、会社概要の説明から始まりました。
協和木材株式会社は、1973 年(昭和 48 年)に設立、本社は東京都江東区に所在し、福島県東白川郡塙町の塙工場など東北地方5か所の工場において、全て国産材を使った製材、集成材等の生産を行っています。製材量は、1989 年(平成元年)の 70 千㎥から、2023 年(令和 5 年) は 600 千㎥へ増加し、JAS 認証4工場における年間 JAS 格付製品販売数量は 23 万㎥となっています。
工場における原木集材については採算性の観点より工場から 50km 圏内での集材を目指し、工場立地においても 50km 圏内の森林資源蓄積量を重視しています。製品出荷については東北、関東、名古屋以北を商圏としている。製造コストを下げることで輸送コストをカバーできるよう、日々設備改善と自動化に取り組んでいる、ことが説明されました。
続いて、国内の製材工場全 3,804 社について出力 1,000kw 以上は 80 社、2%となっている中で、協和木材株式会社は 1,000kw 以上を占めて大規模工場の位置付けとなっていること、また、JAS 材の生産ラインにおいては、ヤング測定及び含水率測定の自動化及びスキャナーを使った省力化、などに取り組み、2023 年(令和4年)の JAS 製品出荷量は、構造用集成材(約 101 千㎥)、構造用製材(機械等級)(約 16 千㎥)など約 150 千㎥となっており、JAS 材生産、販売が会社の主軸となっていることが紹介されました。
一方、JAS 材が普及しない要因として、JAS 材を製造する初期費用と年間検査費用などそれぞれ数十万円以上かかること、品質を確認して表示する製造管理の手間、JAS でない乾燥材との価格差がないことなどが指摘されているが、自社では、スギ製材を始めた 1990 年代(平成初期)より規格に関心があり、建設業界において業種別の責任区の明確化、製造メーカーとして保証しなければならない範囲の明確化がなされていないことは、「事業継続においてのリスクである」との意識から JAS にいち早く取り組んだ、との説明がありました。
最後に、今後の JAS 材生産として選別を自動化する生産ラインがとりあげられ、視察で訪れたドイツの製材工場で目の当たりにした生産ライン上の無人化、人の介在は設備トラブル対応時のみといった生産体制が理想の姿であるとの話があり、カメラやセンサー等のスキャナーを使用した検査・選別・格付は、精度管理面・生産性向上、そして地方における人材確保の難しさにおいて有効な設備であるとの話があり、講演を終えました。
〇第三部 14:25~14:55
「カーボンニュートラル社会に向けた木材利用の取組と JAS 材への期待」
株式会社竹中工務店 木造・木質建築推進本部 シニアチーフエンジニア
小 林 道 和 氏
【概要】
講演の開始にあたり、「本業(建設業)を通じた自社と社会の共通価値の創造に焦点を定めること」という竹中工務店の事業に対する考え方、またそこから導かれる木造・木質建築推進本部のミッション「木のイノベーションで 森とまちの未来をつくる」、ならびにビジョン「①森林グランドサイクルを構築し 林業の活性化と地域づくりに貢献する」、「②まちづくりの中で木造木質建築を推進し 竹中工務店の企業価値を高める」、「③木造木質建築による循環型社会を木のイノベーションで実現する」が紹介されました。
また従来の森林資源循環、森林サイクルの概念に、建設会社こそ取り組める木のまちづくり、木のイノベーションなどの要素を加えた、森林資源と地域社会の持続可能な好循環「森林グランドサイクル」の実現に向けてステークホルダーと共に活動を進めているとの説明がありました。
会社の方針などの説明に続いて、講演は3つのテーマで進められました。
最初のテーマは、「竹中工務店の都市木造・木質建築の事例」です。令和5年度木材利用優良施設等コンクールの受賞施設である「水戸市民会館」、「立命館アジア太平洋大学 教学新棟」などが紹介され、これらの建築物で採用されている燃え代層による現しの設計技術や BIM の活用、地域材の活用などの各技術テーマについて説明がありました。木造・木質建築のマーケティングに 2011 年から取り組んだ小林氏は、アベノミクス政策や日銀の金融緩和、SDGs採択、2050 年カーボンニュートラル宣言など、これらの出来事が追い風となって木造・木質建築市場が順調に成長してきたこと、恵まれた 10 年であったことに言及されました。
次いで2番目のテーマ「木材利用、木造・木質建築の普及のための課題」では、木造・木質建築が社会に受け入れられるための課題として、①建設工事費の削減、②耐久性に関する建築主等の不安の払拭、③-1 木質建材を購入するまでの CO2 排出量の明確化・削減、③-2 森林資源の持続可能性、トレーサビリティの証明、③-3 半永久的に燃やさない森林資源・木質建材の循環利用があげられました。そして、日本の企業が人権侵害を理由として製品輸入の禁止措置がとられるなどの欧米での状況を取り上げて、木材についてもデューデリジェンス(「相当な注意義務」)への対応・配慮が必要な時代になってきたとの指摘がありました。(EU 木材法(EUTR) では、「取引する木材製品が違法でないことを確実にするためにあらゆる方法を駆使して調査確認をする義務」と規定されています)
そして3番目のテーマ「JAS 材への期待と果たす役割」においては、日本建設業連合会に新たな JAS 木質建材の企画・調査グループが設置され、JAS 材を使った構工法の検討が進んでいることの紹介がありました。脱炭素化社会に向けて建築分野での木材利用、建物の炭素貯蔵が有効な解決手段として注目される一方で、木質材料を用いた構工法の選択肢の少なさ、木造・木質化の際の建設工事費等が阻害要因とされており、木質建材による構工法の開発・実用化とその日本農林規格化によるこれら課題解決に期待されています。JAS 林産物である各種製品にアイディアを付加することにより、新たな JAS 木質建材の企画、仕様案、活用事例などへの可能性について説明がありました。
最後に最近の報道から、企業活動の情報開示基準をつくる国際組織である国際サステナビリティ基準審議会(ISSB: International Sustainability Standards Board)の記事の紹介がありました。ISSB は 2024 年6月までに気候変動の次に整備すべきサステナビリティ開示基準を絞り込む予定であり、そのテーマに生物多様性、人権、人的資本の3つが挙がっていること、生物多様性の採択の可能性が高く、採択されると5、6年先には企業の対応が求められるようになり、木材の使用についても気候変動と同等の説明責任を果たす必要があることに注意と準備が必要との記事解説があり、講演を締めくくりました。
〇第四部 15:05~15:35
「マクドナルドの国産木材の活用状況 Planet Project」
日本マクドナルド株式会社 店舗開発本部 設計建設部 投資モデル最適化部 部長
佐 藤 弘 樹 氏
【概要】
講演のはじめは日本マクドナルド株式会社の紹介です。世界約 100 以上の国と地域、約40,000 店舗で展開し、日本では約 3,000 店舗、年間約 14 億人が来店し約 19 万人のクルーを抱えていることが紹介されました。
また、日本マクドナルド株式会社の存在意義、優先的に取り組む SDGs とともに、3つの目標として「2025 年末までに、お客様に提供するすべての食品パッケージを、再生可能な素材、リサイクル素材または認証された素材に変更」、「2025 年末までに、すべてのハッピーセットのおもちゃを再生可能な素材、リサイクル素材または認証された素材など、サステナブルな素材へ移行」、「2050 年までに、店舗、オフィス、サプライチェーン全体で温室効果ガス排出ネットゼロを達成」を掲げていることが説明されました。このうち、1番目の目標である食品パッケージの素材変更については、プラスチック削減に向けた取り組みとして、木製スプーン・フォーク・ナイフ・マドラーと紙ストローの提供を全国の店舗で 2022 年 10 月より開始していることなどが紹介されました。
続いて、2019 年からウッドチェンジネットワークへ参画し、ドライブスルー(DT)のモデル化/木質化として 2020~2021 年に木造軸組み推進、2022 年に木造新モデルに取り組んでいること、2023 年2月に農林水産省と締結した建築物木材利用促進協定において、3年で計 5,550 ㎥の地域材利用を目指すなどの取組を内容としていることなどが説明されました。
また、自社マクドナルドによるカーボン・ニュートラルに向けたロードマップにそって、日本としては2030 年までに 2018 年比で CO2 排出量を 50.4%削減する目標を掲げており、2030 年の目標達成のためには、省エネ取組、太陽光パネル設置などやれることを全てやっている中で、企業PPA(Power Purchase Agreement:電力購入計画)を含む再生可能エネルギーの導入が不可欠であるとの紹介がありました。
そして、植林が約束されている木材を使いたいとの考えのもと、3年間で使う 5,500 ㎥の地域材について、それら地域材の伐採あとに植林しその後 40 年で成長する森林がCO2 を吸収すれば、都市の CO2 貯蓄倉庫と併せて森林の CO2 貯蔵装置が機能すること、また、森林からトレーサビリティのある木材が店舗に供給されるとともに、植林した木が成長すれば森林として CO2 を吸収することとなり森林資源の循環利用につながることが説明されました。木造店舗を開発することによって、CO2 排出削減だけでなくCO2 吸収にも貢献することがマクドナルドが描く夢であり、このことを子供たちにも理解してもらえば素晴らしいこととのお話で講演を終えました。
[パネルディスカッション] 15:40~16:20
「なぜ木材を利用するのか」
<パネラー>
鈴木 清史 氏、佐川 和佳子 氏、小林 道和 氏、佐藤 弘樹 氏
<司会>
一般社団法人 全国木材組合連合会 常務理事 田口 護 氏
〇まず、木材利用の意義、なぜ木材を利用するべきと考えるのかについて、川下の立場から小林氏(株式会社竹中工務店)、佐藤氏(日本マクドナルド株式会社)よりご発言いただきました。
小林氏より、建築物の木造・木質化は、日本の森林資源への需要を創出する手段、持続可能な好循環実現のための手段として木を利用している。木に限らず鉄、セメントでも調達時のトレーサビリティ、材料の性質や強度などを建築主に説明できるようにしている。説明できる材料を使うことが建築に携わる者の大前提。材料の性質や強度、調達時のトレーサビリティをきちんと把握するべきであり、そのために JAS 材は産業全体で共有できる便利な制度とのお話がありました。
次いで佐藤氏より、四国の水害で店舗に床上1.8m まで水が来て上流の森林でも木が散乱したことがあって森林が守られる必要を認識し、森林のために貢献できればと考えたのが木材の取組に関わる最初とのご紹介がありました。
〇次に、JAS 材を利用するうえでどういった工夫をしているかについて、佐川氏(協和木材株式会社)よりご発言いただきました。
佐川氏より、以前は大工さんが材の強度などを見ていたが、今はハウスメーカーが自社で強度などを見ており、責任区分をきちんとするうえで JAS 材を使うことで製品を供給する自分達も守れるし顧客にもメリットがあるとのお話がありました。また、スキャナーは高額だが、スキャナーのプログラムがあれば人を介するのと同じレベルの製品が作れ、大量生産を行う工場においては導入のメリットがあるとのご指摘がありました。
〇また、JAS 材の利用促進のうえで行政としての考えについて、鈴木氏(林野庁)からご発言いただきました。
鈴木氏からは、JAS 材のサプライチェーンが大事であり、製材工場の大規模化、集約化が進んでいるが、どこでも大量に材を供給できるわけではなく、地域毎のサプライチェーンができることにより、地域の木を使うこと、森林の価値向上につながるとのご説明をいただきました。
〇締めくくりで、パネラーの皆様全員から木材利用に対する将来の理想、思いなどを語っていただきました。
佐藤氏からは、お客であるお子さん、ファミリーに対して木を使っている、CO2 を蓄えているといった話ができればよいとのお話をいただきました。
小林氏からは、木材は人の感情移入がなされる素材。個人消費者でなく企業を相手にするビジネスなので、木を使って、建物を建て、森の存在への貢献に共感、感動できる体験を経営者や担当者に提供していくことが大事、とお話をいただきました。
佐川氏からは、人口減少により住宅着工が落ちていく中で会社の生き残りのために、外材からのチェンジ、大規模化、非住宅への木材利用などによりまだまだ成長できる。林業は地方でしか 成立しないが、地方に利益が残るよう持続可能な経営をしていきたいとのお話をいただきました。
鈴木氏からは、木材の循環利用、木材を社会が利用することが大事で、そのためには地域経済がしっかりしている必要があり、地方にある森林が元気になるよう取り組んでいきたいとのお話をいただきました。
・・・・・・・・・・以上で、終了となりました。
講師の皆様、長時間お疲れ様でした。
貴重なご講演・お話ありがとうございました!・・・・・・・・・・
連絡先:(一社)全国木材組合連合会、木材利用推進中央協議会
〒100-0014 東京都千代田区永田町2-4-3 永田町ビル6階
TEL:03-3580-3215 FAX:03-3580-3226
URL
(一社)全国木材組合連合会 http://www.zenmoku.jp/
木材利用推進中央協議会 http://www.jcatu.jp/home/
木材関係業界のほか、建築・設計、土木、家具・建具、行政・地方公共団体等、幅広い業種の方々を含めて会場約70名、WEB 約300名のご参加をいただきました。
開催にあたりまして、多大なご協力・ご支援をいただいた関係各位の皆様に厚く御礼申し上げます。
1 開催日時等
日 時 | :令和6年1月29日(月) 13時30分 ~16時20分 |
場 所 | :木材会館(東京都江東区新木場1-18-8) 、WEB 併用開催 |
主 催 | :一般社団法人 全国木材組合連合会、木材利用推進中央協議会 |
後 援 | :林野庁、国土交通省、(公財)日本住宅・木材技術センター、 (一財)日本木材総合情報センター |
参 加 | :木材関係、建築・設計、土木、家具・建具、行政・地方公共団体等会場 約70名、WEB 約300名 |
2 事例発表
〇第一部 13:35~13:55
「製材 JAS の供給・利用の拡大に向けて」
林野庁 林政部 木材産業課 上席木材専門官
鈴 木 清 史 氏
〇第二部 13:55~14:25
「木材供給体制と JAS 材生産の取り組み」
協和木材株式会社 専務取締役
佐川 和佳子 氏
〇第三部 14:25~14:55
「カーボンニュートラル社会に向けた木材利用の取組と JAS 材への期待」
株式会社竹中工務店 木造・木質建築推進本部 シニアチーフエンジニア
小 林 道 和 氏
〇第四部 15:05~15:35
「マクドナルドの国産木材の活用状況 Planet Project」
日本マクドナルド株式会社 店舗開発本部 設計建設部 投資モデル最適化部 部長
佐 藤 弘 樹 氏
3 パネルディスカッション 15:40~16:20
「なぜ木材を利用するのか」
<パネラー>
鈴木 清史 氏、佐川 和佳子 氏、小林 道和 氏、佐藤 弘樹 氏
<司会>
一般社団法人 全国木材組合連合会 常務理事 田口 護 氏
<当日の講演・パネルディスカッションの動画及び講演資料など、以下のとおりです>
当日行われた Youtube 配信のアーカイブ動画は以下から視聴できます。
https://www.youtube.com/watch?v=nBoRBlMXKKg
当日行われた講演 の資料は次のとおりです。
第1部
「製材JASの供給・利用の拡大に向けて」
林野庁 林政部 木材産業課 上席木材専門官 鈴木 清史(すずき きよし)氏
講演データ https://www.zenmoku.jp/ippan/ivent/455/files/240129_1.pdf
第2部
「木材供給体制とJAS材生産の取り組み」
協和木材株式会社 専務取締役 佐川 和佳子(さがわ わかこ)氏
講演データ https://www.zenmoku.jp/ippan/ivent/455/files/240129_2.pdf
第3部
「カーボンニュートラル社会に向けた木材利用の取組とJAS材への期待」
株式会社竹中工務店 木造・木質建築推進本部 シニアチーフエンジニア
小林 道和(こばやし みちかず)氏
講演データ https://www.zenmoku.jp/ippan/ivent/455/files/240129_3.pdf
第4部
「マクドナルドの国産木材活用について」
日本マクドナルド株式会社 店舗開発本部 開発戦略部 兼 投資モデル適正化部 部長
佐藤 弘樹(さとう ひろき)氏
講演データ https://www.zenmoku.jp/ippan/ivent/455/files/240129_4.pdf
[事例発表]
〇第一部 13:35~13:55
「製材 JAS の供給・利用の拡大に向けて」
林野庁 林政部 木材産業課 上席木材専門官
鈴 木 清 史 氏
【概要】
冒頭、JAS(Japanese Agricultural Standards:日本農林規格)とは、食品・農林水産分野において農林水産大臣が定める国家規格であり、JAS 認証を受けた事業者が、製造した農林物資について、JAS に適合するか検査の上で適合する場合には JAS マークを貼付して流通させることができる制度であり、林産物 JAS については 13 品目 35 規格がある旨説明。
林産物 JAS のうち製材については JAS 格付率が 11%と低位にとどまっているが、JAS 製材のメリットとして無等級材より高い基準強度が与えられているため構造計算を行う場合有利であり、令和7年施行予定の改正建築基準法等により JAS 材のニーズが高まる可能性について言及されました。
一方、製材 JAS の課題として、生産者側である製材工場において、機械等級区分認証取得のための設備投資など認定申請・維持の費用が高額となること、JAS 製材の需要の乏しいこと、JAS 製材と無等級材の価格差の無いことなどの課題があるとともに、利用者側にとっては納期が長い、そもそも JAS 認定工場が少ない等の課題があるという現状を説明。製材 JAS の課題改善策として、乾燥区分、寸法精度、標準寸法などの見直し、破壊検査を伴っていた含水率測定について非破壊検査の導入、従来工場毎であった製材 JAS の認証を複数の工場が連携した製造工程での認証取得などが検討中であることが説明されました。
また、製材の利用促進は、原木価格の引き上げによる循環的な林業経営への貢献、全国的に所在する製材工場を通じた地域経済への波及効果などが大きいこと、更には、品質・性能の確かな JAS 製材の供給拡大により、輸入材から国産材への転換促進に繋がることが期待されるとの説明がありました。
改正建築基準法の施行等を契機として川下側で JAS 製材のニーズが高まることを想定しつつ、地域毎に川上から川下まで関係者間での協議や情報共有を行うことにより JAS 製材のサプライチェーンを構築することが、持続可能な森林経営、森林資源の循環利用においても大きな意義を 持つことを強調して、講演の締めくくりとなりました。
〇第二部 13:55~14:25
「木材供給体制と JAS 材生産の取り組み」
協和木材株式会社 専務取締役
佐川 和佳子 氏
【概要】
講演は、会社概要の説明から始まりました。
協和木材株式会社は、1973 年(昭和 48 年)に設立、本社は東京都江東区に所在し、福島県東白川郡塙町の塙工場など東北地方5か所の工場において、全て国産材を使った製材、集成材等の生産を行っています。製材量は、1989 年(平成元年)の 70 千㎥から、2023 年(令和 5 年) は 600 千㎥へ増加し、JAS 認証4工場における年間 JAS 格付製品販売数量は 23 万㎥となっています。
工場における原木集材については採算性の観点より工場から 50km 圏内での集材を目指し、工場立地においても 50km 圏内の森林資源蓄積量を重視しています。製品出荷については東北、関東、名古屋以北を商圏としている。製造コストを下げることで輸送コストをカバーできるよう、日々設備改善と自動化に取り組んでいる、ことが説明されました。
続いて、国内の製材工場全 3,804 社について出力 1,000kw 以上は 80 社、2%となっている中で、協和木材株式会社は 1,000kw 以上を占めて大規模工場の位置付けとなっていること、また、JAS 材の生産ラインにおいては、ヤング測定及び含水率測定の自動化及びスキャナーを使った省力化、などに取り組み、2023 年(令和4年)の JAS 製品出荷量は、構造用集成材(約 101 千㎥)、構造用製材(機械等級)(約 16 千㎥)など約 150 千㎥となっており、JAS 材生産、販売が会社の主軸となっていることが紹介されました。
一方、JAS 材が普及しない要因として、JAS 材を製造する初期費用と年間検査費用などそれぞれ数十万円以上かかること、品質を確認して表示する製造管理の手間、JAS でない乾燥材との価格差がないことなどが指摘されているが、自社では、スギ製材を始めた 1990 年代(平成初期)より規格に関心があり、建設業界において業種別の責任区の明確化、製造メーカーとして保証しなければならない範囲の明確化がなされていないことは、「事業継続においてのリスクである」との意識から JAS にいち早く取り組んだ、との説明がありました。
最後に、今後の JAS 材生産として選別を自動化する生産ラインがとりあげられ、視察で訪れたドイツの製材工場で目の当たりにした生産ライン上の無人化、人の介在は設備トラブル対応時のみといった生産体制が理想の姿であるとの話があり、カメラやセンサー等のスキャナーを使用した検査・選別・格付は、精度管理面・生産性向上、そして地方における人材確保の難しさにおいて有効な設備であるとの話があり、講演を終えました。
〇第三部 14:25~14:55
「カーボンニュートラル社会に向けた木材利用の取組と JAS 材への期待」
株式会社竹中工務店 木造・木質建築推進本部 シニアチーフエンジニア
小 林 道 和 氏
【概要】
講演の開始にあたり、「本業(建設業)を通じた自社と社会の共通価値の創造に焦点を定めること」という竹中工務店の事業に対する考え方、またそこから導かれる木造・木質建築推進本部のミッション「木のイノベーションで 森とまちの未来をつくる」、ならびにビジョン「①森林グランドサイクルを構築し 林業の活性化と地域づくりに貢献する」、「②まちづくりの中で木造木質建築を推進し 竹中工務店の企業価値を高める」、「③木造木質建築による循環型社会を木のイノベーションで実現する」が紹介されました。
また従来の森林資源循環、森林サイクルの概念に、建設会社こそ取り組める木のまちづくり、木のイノベーションなどの要素を加えた、森林資源と地域社会の持続可能な好循環「森林グランドサイクル」の実現に向けてステークホルダーと共に活動を進めているとの説明がありました。
会社の方針などの説明に続いて、講演は3つのテーマで進められました。
最初のテーマは、「竹中工務店の都市木造・木質建築の事例」です。令和5年度木材利用優良施設等コンクールの受賞施設である「水戸市民会館」、「立命館アジア太平洋大学 教学新棟」などが紹介され、これらの建築物で採用されている燃え代層による現しの設計技術や BIM の活用、地域材の活用などの各技術テーマについて説明がありました。木造・木質建築のマーケティングに 2011 年から取り組んだ小林氏は、アベノミクス政策や日銀の金融緩和、SDGs採択、2050 年カーボンニュートラル宣言など、これらの出来事が追い風となって木造・木質建築市場が順調に成長してきたこと、恵まれた 10 年であったことに言及されました。
次いで2番目のテーマ「木材利用、木造・木質建築の普及のための課題」では、木造・木質建築が社会に受け入れられるための課題として、①建設工事費の削減、②耐久性に関する建築主等の不安の払拭、③-1 木質建材を購入するまでの CO2 排出量の明確化・削減、③-2 森林資源の持続可能性、トレーサビリティの証明、③-3 半永久的に燃やさない森林資源・木質建材の循環利用があげられました。そして、日本の企業が人権侵害を理由として製品輸入の禁止措置がとられるなどの欧米での状況を取り上げて、木材についてもデューデリジェンス(「相当な注意義務」)への対応・配慮が必要な時代になってきたとの指摘がありました。(EU 木材法(EUTR) では、「取引する木材製品が違法でないことを確実にするためにあらゆる方法を駆使して調査確認をする義務」と規定されています)
そして3番目のテーマ「JAS 材への期待と果たす役割」においては、日本建設業連合会に新たな JAS 木質建材の企画・調査グループが設置され、JAS 材を使った構工法の検討が進んでいることの紹介がありました。脱炭素化社会に向けて建築分野での木材利用、建物の炭素貯蔵が有効な解決手段として注目される一方で、木質材料を用いた構工法の選択肢の少なさ、木造・木質化の際の建設工事費等が阻害要因とされており、木質建材による構工法の開発・実用化とその日本農林規格化によるこれら課題解決に期待されています。JAS 林産物である各種製品にアイディアを付加することにより、新たな JAS 木質建材の企画、仕様案、活用事例などへの可能性について説明がありました。
最後に最近の報道から、企業活動の情報開示基準をつくる国際組織である国際サステナビリティ基準審議会(ISSB: International Sustainability Standards Board)の記事の紹介がありました。ISSB は 2024 年6月までに気候変動の次に整備すべきサステナビリティ開示基準を絞り込む予定であり、そのテーマに生物多様性、人権、人的資本の3つが挙がっていること、生物多様性の採択の可能性が高く、採択されると5、6年先には企業の対応が求められるようになり、木材の使用についても気候変動と同等の説明責任を果たす必要があることに注意と準備が必要との記事解説があり、講演を締めくくりました。
〇第四部 15:05~15:35
「マクドナルドの国産木材の活用状況 Planet Project」
日本マクドナルド株式会社 店舗開発本部 設計建設部 投資モデル最適化部 部長
佐 藤 弘 樹 氏
【概要】
講演のはじめは日本マクドナルド株式会社の紹介です。世界約 100 以上の国と地域、約40,000 店舗で展開し、日本では約 3,000 店舗、年間約 14 億人が来店し約 19 万人のクルーを抱えていることが紹介されました。
また、日本マクドナルド株式会社の存在意義、優先的に取り組む SDGs とともに、3つの目標として「2025 年末までに、お客様に提供するすべての食品パッケージを、再生可能な素材、リサイクル素材または認証された素材に変更」、「2025 年末までに、すべてのハッピーセットのおもちゃを再生可能な素材、リサイクル素材または認証された素材など、サステナブルな素材へ移行」、「2050 年までに、店舗、オフィス、サプライチェーン全体で温室効果ガス排出ネットゼロを達成」を掲げていることが説明されました。このうち、1番目の目標である食品パッケージの素材変更については、プラスチック削減に向けた取り組みとして、木製スプーン・フォーク・ナイフ・マドラーと紙ストローの提供を全国の店舗で 2022 年 10 月より開始していることなどが紹介されました。
続いて、2019 年からウッドチェンジネットワークへ参画し、ドライブスルー(DT)のモデル化/木質化として 2020~2021 年に木造軸組み推進、2022 年に木造新モデルに取り組んでいること、2023 年2月に農林水産省と締結した建築物木材利用促進協定において、3年で計 5,550 ㎥の地域材利用を目指すなどの取組を内容としていることなどが説明されました。
また、自社マクドナルドによるカーボン・ニュートラルに向けたロードマップにそって、日本としては2030 年までに 2018 年比で CO2 排出量を 50.4%削減する目標を掲げており、2030 年の目標達成のためには、省エネ取組、太陽光パネル設置などやれることを全てやっている中で、企業PPA(Power Purchase Agreement:電力購入計画)を含む再生可能エネルギーの導入が不可欠であるとの紹介がありました。
そして、植林が約束されている木材を使いたいとの考えのもと、3年間で使う 5,500 ㎥の地域材について、それら地域材の伐採あとに植林しその後 40 年で成長する森林がCO2 を吸収すれば、都市の CO2 貯蓄倉庫と併せて森林の CO2 貯蔵装置が機能すること、また、森林からトレーサビリティのある木材が店舗に供給されるとともに、植林した木が成長すれば森林として CO2 を吸収することとなり森林資源の循環利用につながることが説明されました。木造店舗を開発することによって、CO2 排出削減だけでなくCO2 吸収にも貢献することがマクドナルドが描く夢であり、このことを子供たちにも理解してもらえば素晴らしいこととのお話で講演を終えました。
[パネルディスカッション] 15:40~16:20
「なぜ木材を利用するのか」
<パネラー>
鈴木 清史 氏、佐川 和佳子 氏、小林 道和 氏、佐藤 弘樹 氏
<司会>
一般社団法人 全国木材組合連合会 常務理事 田口 護 氏
〇まず、木材利用の意義、なぜ木材を利用するべきと考えるのかについて、川下の立場から小林氏(株式会社竹中工務店)、佐藤氏(日本マクドナルド株式会社)よりご発言いただきました。
小林氏より、建築物の木造・木質化は、日本の森林資源への需要を創出する手段、持続可能な好循環実現のための手段として木を利用している。木に限らず鉄、セメントでも調達時のトレーサビリティ、材料の性質や強度などを建築主に説明できるようにしている。説明できる材料を使うことが建築に携わる者の大前提。材料の性質や強度、調達時のトレーサビリティをきちんと把握するべきであり、そのために JAS 材は産業全体で共有できる便利な制度とのお話がありました。
次いで佐藤氏より、四国の水害で店舗に床上1.8m まで水が来て上流の森林でも木が散乱したことがあって森林が守られる必要を認識し、森林のために貢献できればと考えたのが木材の取組に関わる最初とのご紹介がありました。
〇次に、JAS 材を利用するうえでどういった工夫をしているかについて、佐川氏(協和木材株式会社)よりご発言いただきました。
佐川氏より、以前は大工さんが材の強度などを見ていたが、今はハウスメーカーが自社で強度などを見ており、責任区分をきちんとするうえで JAS 材を使うことで製品を供給する自分達も守れるし顧客にもメリットがあるとのお話がありました。また、スキャナーは高額だが、スキャナーのプログラムがあれば人を介するのと同じレベルの製品が作れ、大量生産を行う工場においては導入のメリットがあるとのご指摘がありました。
〇また、JAS 材の利用促進のうえで行政としての考えについて、鈴木氏(林野庁)からご発言いただきました。
鈴木氏からは、JAS 材のサプライチェーンが大事であり、製材工場の大規模化、集約化が進んでいるが、どこでも大量に材を供給できるわけではなく、地域毎のサプライチェーンができることにより、地域の木を使うこと、森林の価値向上につながるとのご説明をいただきました。
〇締めくくりで、パネラーの皆様全員から木材利用に対する将来の理想、思いなどを語っていただきました。
佐藤氏からは、お客であるお子さん、ファミリーに対して木を使っている、CO2 を蓄えているといった話ができればよいとのお話をいただきました。
小林氏からは、木材は人の感情移入がなされる素材。個人消費者でなく企業を相手にするビジネスなので、木を使って、建物を建て、森の存在への貢献に共感、感動できる体験を経営者や担当者に提供していくことが大事、とお話をいただきました。
佐川氏からは、人口減少により住宅着工が落ちていく中で会社の生き残りのために、外材からのチェンジ、大規模化、非住宅への木材利用などによりまだまだ成長できる。林業は地方でしか 成立しないが、地方に利益が残るよう持続可能な経営をしていきたいとのお話をいただきました。
鈴木氏からは、木材の循環利用、木材を社会が利用することが大事で、そのためには地域経済がしっかりしている必要があり、地方にある森林が元気になるよう取り組んでいきたいとのお話をいただきました。
・・・・・・・・・・以上で、終了となりました。
講師の皆様、長時間お疲れ様でした。
貴重なご講演・お話ありがとうございました!・・・・・・・・・・
連絡先:(一社)全国木材組合連合会、木材利用推進中央協議会
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