NPO法人木育・木づかいネット

令和3年度 顔の見える木材での快適空間づくり事業

NPO法人木育・木づかいネット/株式会社サカモト

事務局所在:東京都
質の高い木育ツールのデザインと出口戦略としてのEC支援サイトの開設
 

事業計画

事業計画(pdfで表示されます)
 

実施概要

実施団体について
  1. NPO法人木育・木づかいネット(事務、進行管理、を担当) 
    木育、木材利用についての普及啓発、調査研究、製品開発等を進める。埼玉県内の事業者との連携をはじめ、全国の実践者、生産者と多くの連携実績を持つ。
  2. 株式会社サカモト(製品試作、デザイン開発を担当)
    西川材をはじめとする埼玉県飯能市の森林認証材利用に向けて積極的な製品開発を進める。埼玉県森林認証協議会会員。
事業の目的

 ここ数年、私たちは、木育や保育についての理解を持ったデザイナーの不在、良質なデザイン不足という問題の解決に向けて、木育を理解し、保育や教育の現場を知り、デザインとして提供できる、木育空間デザイナー養成について取り組みを進めてきました。木材の利用において、高付加価値の製品開発は喫緊の課題であり、豊かな持続可能な森林経営の基盤を形成するものであり、これを支えるのは消費者の声をとらえた製品のデザインと同時に、継続的な木材消費を支える市場の開拓と考えたからです。
 その一方で、私たちは具体的な製品の販売についての課題も抱えてきました。開発した製品の販売ルートの問題で十分に普及させることができないのです。優れたデザイン、製品であっても、戦略なしで販売を進めるのは限界があります。ウッドデザイン賞やグッドトイなど、木材製品に関わる顕彰の取り組みが様々に進められていますが、顕彰を受けた製品でさえ販路確保に多くの苦心があると言われています。これは木材業界全般に共通するマーケティング不足の問題あり、製品販売方法が事業者ごとに小規模で行われていることが原因の一つと考えられます。
 昨年そして今年と、コロナ禍で多くの業界で経済活動が停滞を続ける中、木材関連製品が非常に好調な売れ行きを示す一つの例がありました。それはネットビジネス、Eコマース(EC)による需要です。とりわけアウトドアやDIY関連の製品が好調と言われ、「すごもり需要」と呼ばれる消費者の新たなニーズがそれを支えていると言われています。こうした製品流通は、Amazonや楽天など大手ECサイトの影響が大きく、消費者の消費行動が、製品情報が大量に集約されたネットワークの力に大きく影響されていることを感じさせます。
 そこで本事業では、これまで私たちが進めてきた良質な木製品デザインの担い手育成、そしてデザインの開発についての取り組みに加えて、創造された新たなアイデア、製品を積極的に販売するために総合的な「EC支援サイト」の開設を目指すことにしました。製品ジャンルをDIYや木育に関連する製品、ツールに限定して、小規模事業者が持つ様々なツール、ECサイトをネットワークで結び、一般消費者や木育を進める教育者、保育者等が選べるサイト(EC支援サイト)として設置し、地域で進められる様々な製品、デザインを集約し、生産者、消費者双方にとって利便性の高いサイトの開発を進めました。

事業内容・結果

1)研修会プログラムについて

 A材による質の高い木育ツール(施設、空間、遊具、玩具等)のデザインとその実現を担う人材養成を目標に掲げ、アクティブラーニング型(受講者の主体的、能動的学びを重視する形態)の講義、ワークショップで構成された研修プログラムを開発、実施しました。またEラーニングの支援システムとしてLearning Boxと契約し、円滑な学習支援、教材配信等に努めました。基本的なプログラム、研修の枠組みは次の(1)~(5)に示す通りです。
(1)木育、保育、空間デザインの実践者、経験者との対話を中心とすること
(2)Eラーニングシステムにより反転形式の学習などを取り入れていくこと
(3)実践事例から学ぶだけでなく、自らの創造をもとに学ぶ改善を取り入れること
(4)木材の性質、特徴について、ものづくりなどの実体験から学ぶこと
(5)レポート作成を通じて、デザインについての学びの往還を活発にすること
 なお、講師には、木育、保育、空間デザイン、木材流通など、各分野の第一線で活躍する実践者、専門家を講師として招き、保育、木育の現場、実践者と対話を通して学べるよう、時間等の配置を検討しました。また、時間の効率化を図るために、各講義について事前に学習できる動画を作成し、受講者に視聴させる「反転形式学習」を取り入れました。

表1 虎の穴研修会講師
講師名 所属等 主な担当分野
浅田 茂裕 埼玉大学 木育・保育の基礎
古川 泰司 アトリエフルカワ一級建築事務所 木育施設設計、デザイン指導
坂本 幸 株式会社サカモト 木材の基礎、加工技術
関山 隆一 NPO法人もあなキッズ自然楽校 自然保育、こどもの発達
山口 哲生 優良教材株式会社 教材開発、学校教育
奥 ひろ子 パワープレイス株式会社 木育空間デザイン
酒井 慶太郎 酒井産業株式会社 木材製品の開発・流通

表2 研修会プログラムの概要
2021 木育デザイン虎の穴研修会プログラム
第1回目 「木育とデザインの基本」   9月24日(金)19:00~21:00
①木育について ②木育デザインについて ③デザインコンセプトの開発(ワークショップ)
第2回目 「木材製品開発のヒント」 10月15(金)19:00~21:00
①デザインプロセスの理解 ②木材製品の開発から販売まで ③アイデア出しトレーニング
特別編  「バーチャル見学会&虎の穴研究会」 10月22日(金)19:00~20:30
保育所事例のバーチャル視察・見学会の実施(優良事例の視察、情報交換)
第3回目  「木育教材の考え方について」 11月5日(金)19:00~21:00
①オンラインワークショップ ②教材開発の視点・考え方 ③課題の中間発表
第4回目 「保育と木育の関わりについて」 11月26日(金)19:00~21:00
①保育の視点とデザイン ②課題の中間発表
第5回目 「成果発表会」 12月18日(土)13:00〜17:00予定
1 デザイン成果発表会の開催 ②特別講義
 
 本プログラムの受講者は令和3年8月にホームページ、SNS等を活用した公募に応じた建築士、家具デザイナー、林業家、木工作家、行政関係者、学生など19名でした。このうち、13名が全課程を修了し、「木育空間デザイナー(二級)」が認定されました。
 この研修会を通じて受講者が検討、開発した木育ツールは、玩具、教材、空間、教育プログラムなど多岐にわたり、非常に意欲的な作品が多くみられました。一部製品については、製品化の可能性も感じられ、今後支援しながら、よりよい製品づくりにつなげていきたいと考えています。またこれまで同様に、この研修会修了者とは事務局として継続的に関わりながら、木材利用の促進、木育の普及に向けた協力関係を維持していきたいと考えています。
 

2)質の高い木育ツールデザインの開発について
 新しい木育ツールは、幼児教育や学校教育などのマーケットにおいて常に求められるものです。そこで、これまでの木育空間デザイン研修会の受講者とともに、新しいデザインを追求する検討会(デザイン開発グループ)を立ち上げ、その試作を行いました。
 製品の試作は、株式会社サカモトまたは開発グループ参加者が個々に行い、国産材を活用した製品化を試みました。を中心に活用し、必要なその他の木質系部材についても国産材製品を中心に用いました。
なお、この製品化については、申請者の1人であるNPO法人木育・木づかいネットが推進する「PRIDEOWOOD憲章」に合致する、安全安心で、透明性の高い製品づくりによるものを前提として、付加価値の向上に努めました。Pride woodについては、右のQRコードから該当Webページを参照することができます。
 地域の材料を活用し、木材利用推進だけでなく、地域おこしや教育への貢献につながる製品が完成したと考えております。
3)EC支援サイトの開発、設置について
 本事業では、一般消費者や木育を進めようとする教育機関、事業者の購入の促進を目指し、各地に存小規模事業者が持つ優れた商材をまとめ、紹介するEC支援サイト「木と森を育む暮らし百貨店」を設置しました。全国各地の事業者、デザイナーに対し、優れた、質の高い製品、そして生産者の紹介を依頼し、さまざまなツール、製品の収集を進めました。
 サイトの開発においては、既存の木育ツール等に関する情報の集約、整理を行うとともに、安全や安心、質の保証などにつながる製品の共通コンセプトの整理とブランド化について検討しました。このサイトを通じて結び、消費者の目に止まりやすくするとともに、木育や木材利用の意義、木材製品の特徴など、学びを深められコンテンツも同時に掲載し、地域材利用の推進にもつなげられるよう、工夫しています。
 まだまだ十分な商品、ツール数ではありませんが、このサイトによって地域の隠れた名品を含め、地域材利用につながる様々な取り組みを紹介していく予定です。現在、このサイトのアクセス履歴の分析等を進めており、商品情報を提供する事業者とともに、新たなマーケティング、デザイン開発情報として活用すること検討しています。
https://kitomori100.net
 
宣伝広報
 本事業においては、受講者の公募等のため告知ツールを作成し、研修会の開催経過等について、NPO法人木育木づかいネットのホームページやSNS(主としてFacebook)、環境・木材系WEBサイトの掲示板によって適時広報を行いました。また、試作品等の情報についても、ホームページ等で積極的に情報発信しています。EC支援サイトについては、開設後さらに情報を追加していることもありますが、ホームページはじめ、SNS等によって広告、宣伝をさらに続けていく予定です。
 
 なお、令和4年1月23日には、試作した製品の成果発表会を開催しましたが、新型コロナウイルスの感染拡大予防の観点から、対外的には公開せず、主催者、講師、受講者の一部により、厳重な感染予防策を講じた上で、成果物の確認および限定公開を行いました。製品の一部や公開の様子については、SNS等にて情報公開しています。
 
アンケート調査の概要について(研修会について)
 研修会プログラムの終了後、カリキュラム、講義内容についての感想、アンケートを実施しましたがその一部を紹介します。内容の満足度、さらなる学習への意欲が高く、研修会全体に対する評価も概ね評価は高いことがわかりました。また反転学習という、慣れない形式で、かつ夜間の実施でありながら、多くの受講者が積極的で、主体的に学習を進めたことがうかがえます。自由記述からも、大変な中でもしっかりと学んだ姿勢がうかがえます。
 2)受講者コメント(一部抜粋)
・毎度の講義を受けてのレポート提出は、仕事をしながらでは、凄く大変で、キツいことも多かったですが、ただ、受けるだけでなく、レポートとして返すことに、学びの増長にも繋がったし、自信にもなりました(公務員)
・研修内容もそうですが、参加型であったという点は今までの自分の枠を少し超えていけるような感覚がありました。講師の方々のお話を聞けるといくことが大変貴重でしたし、その場に一緒に参加できたことを光栄に思います(工務店)
・正直なところ、会社の予定やプライベートな予定との組立が大変~!と思う回もありましたが何とか完走できて安心しています。いろんな地域の皆さんとお話出来たのも、すごく楽しかったです!(デザイナー)


成果発表会と皆さんの課題(一部)
 
 事業実施により得られた効果
最終的に私たちが目指しているのは、付加価値、そして質の高い木材製品の需要促進、そして豊かな子どもの育ち、暮らしの実現です。この目標に向けて私たちは木材利用とともに、木育、自然保育にも理解を持つ作り手、使い手を養成するとともに、自ら製品開発、そして普及のための様々な取り組みをすすめてきました。
 今年度の事業においては、『木育空間デザイナー』を養成する研修会の開催し、13名の「デザイナー」養成を実現しました。今回の反転形式講義で作成した動画や資料は、今後の研修会につながる重要な基礎資料であり、その蓄積ができたのは大きな成果といえます。
 また、新製品の開発では、地域の木材関係者と連携し、豊かさを実現し、新たな木材需要を喚起する製品の開発を進めることができました。今回一般消費者に向けた紹介や効果の実証試験などは実施できませんでしたが、今後そうした事業も進めていきたいと思います。
 EC支援サイトについては30社余りの企業、団体からの協力を得ることができました。また、これまでに開発してきたさまざまな製品、あるいは各地で十分な注目を集められていない各種製品について、消費者、利用者に紹介する支援サイトを実現することができたことは、何よりの成果であると思います。また、今回の研修会やデザイン開発グループが開発した製品の一部についても、サイト内で公表することができ、消費者に届けやすい共有プラットフォームを手に入れることができたと考えています。
 今後さらに人材の養成や地域材の利用推進、消費者と生産者の顔の見える関係を構築し、持続可能な木材利用を進める社会の実現を目指したいと思います。
 

今後の課題と次年度以降の計画

 これまで3年間、木育デザインに関する研修会、新しいデザインの開発について進めてきました。コロナ禍ということもあり、オンラインでの会議、打ち合わせがほとんどとなり、不安の多い事業運営となりました。しかしながら、これまでの経験と、培った信頼関係をもとに、研修会にあたってはカリキュラム、グループワークの指導を行い、受講者からは高い満足度を得ることができるとともに、新たな仲間づくりが可能となったと思います。
 また、新たなデザイン開発では、デザイナー個々の背景や居住地域の課題を前提とした試作を行うことができました。前述の通り、試作品の消費者への紹介や製品の効果検証などについては大きな課題となりましたが、今後具体的な検証に取り組みたいと思います。
 EC支援サイトについては、全国から多くの協力者を得ることができ、地域の優れた製品を消費者に伝える重要なツールを完成させるこができたと考えています。システム開発に多くの時間を要したために、コンテンツ数が少なく、今後さらに充実させていくことが喫緊の課題となっています。
 次年度以降は、これらの課題を解決し、国産材、地域材製品の開発とその普及に努めていきたいと思います。