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2.「木」の街・むらづくりの現状と課題

   

<1. なぜ「木」の街・むらづくりが必要なのか

(1)地域材へのニーズと課題
 我が国で消費される木材(丸太換算した用材)の用途をみると、最大の需要先は平成9年までは、製材用であったが、その後はパルプ、チップ用に代わっている。製材用は全消費量の約4割を占め、そのうちの8割は建築に用いられ、その大半は住宅用であると推定されている。このうち国産材(地域材)についてみると、7割が製材用に用いられ、その大半は住宅建築用とみられている。

 一方、我が国の新設住宅着工戸数(新たに建てられた住宅の戸数)に占める木造住宅の割合(木造率)は46.6%(平成11年)であり、長期的には減少傾向にあるが、ここ数年大きな変動はない。また、総理府が行った世論調査によると、建てるなら木造住宅にしたいという国民が多く(
表4)、潜在需要は大きいと言える。

  第1位 第2位 第3位 第4位
全体 木造住宅(在来工法)(67.0) 木造住宅(在来工法以外)(21.5) 非木造住宅(7.7) わからない(3.8)




大都市 木造住宅(在来工法)(57.1) 木造住宅(在来工法以外)(22.8) 非木造住宅(13.6) わからない(6.5)
中小都市 木造住宅(在来工法)(66.9) 木造住宅(在来工法以外)(22.8) 非木造住宅(6.9) わからない(3.5)
町村 木造住宅(在来工法)(75.3) 木造住宅(在来工法以外)(17.4) 非木造住宅(4.9) わからない(3.8)


20〜29歳 木造住宅(在来工法以外)(44.8) 木造住宅(在来工法)(31.5) 非木造住宅(15.3) わからない(8.4)
30〜39歳 木造住宅(在来工法)(45.1) 木造住宅(在来工法以外)(37.5) 非木造住宅(12.7) わからない(4.7)
40〜49歳 木造住宅(在来工法)(59.9) 木造住宅(在来工法以外)(27.0) 非木造住宅(10.0) わからない(3.2)
50〜29歳 木造住宅(在来工法)(77.2) 木造住宅(在来工法以外)(15.8) 非木造住宅(4.5) わからない(2.5)
60歳以上 木造住宅(在来工法)(85.1) 木造住宅(在来工法以外)(7.6) 非木造住宅(4.0) わからない(3.3)
資料:総理府「森林と生活に関する世論調査」(平成11年7月)
注:1)「大都市」は東京都区部及び政令指定都市である。
  2)四捨五入のため、割合の合計は100%にならない場合がある。

 このように、「木」の街・むらづくりの“主役”に位置づけられる地域材の利用推進を図るためには、住宅建築用製材品に対する需要への対応が喫緊の課題となるが、現実にはここにさまざまな問題が横たわっている。

 現在、地域材を取り巻く状況は、押し寄せる国際化(コストパフォーマンスの高い海外製品との大競争)、住宅のシステム生産化、住宅部材の性能の時代などの波に激しくゆれており、存亡の危機にある地域材企業も少なくない。しかも、機械プレカット、パネル工法、金具工法などの合理化工法の進展に伴う住宅のシステム生産化により、既存流通のシェアが徐々に低くなっており、産地間の価格競争が激化している。このようなことから、「何をつくるか」、「どうつくるか」、そして「どう売るか」を再検証し、新たな事業展開のビジョンを構築し直すことが必要になっている。

(2)地域材利用の問題点と解決の方策
 地域材の利用状況等について、「木造住宅における国産材活用方策検討業務報告書」(平成11年3月:(財)日本住宅・木材技術センター)から、大工・工務店に対する調査結果をみると、地域材は、柱と和風造作材に多く使われ、土台には6割強、梁には4割弱が使われている。樹種は、見え掛かり柱は、ヒノキ7割、スギ4割、見え隠れの柱ではスギ7割、ヒノキ4割、和風造作材にはスギ6.5割、ヒノキ5割弱、土台はヒノキ、梁材はマツがほとんどである。いずれの部位も、使用理由は「昔から使っている」からが多くなっている。

 一方、地域材が使われない理由としては、「外材に比べて割高だから」が最も多い。全体的に、地域材を利用する際の問題はコストの高さに集約され、@材の均質性を求めると割高になること、A定尺もの以外は割高になること、B乾燥材が割高になること等が指摘されている。

 今後の地域材利用の方針では、全体的には変わらないという回答が多い。ただし、規模が小さな工務店は増加させるという回答が多く、工務店の規模が大きくなるにつれ地域材を利用しようとする意欲が減少する傾向にある。
今後、地域材を利用するための条件としては、価格の低下をあげた回答者が最も多く、次いで乾燥材の普及、求める品質の材の調達がそれぞれ1/4となっている。

 国土保全のために国産材を使った方がよいかという質問に対しては、使ったほうがよいという回答がほとんどであった。また、国土保全上、外材より割高でも使うかという質問に対しては、5〜10%高でも使用するとの回答が約3割を占めた。なお、外材と同じ条件ならば地域材を利用するかという質問に対しては、利用するとの回答が圧倒的に多くなっている。

 このようなユーザー(大工・工務店等)のニーズを集約し、かつ、これまで地域材に対して問題になっていたことなどを整理し、解決の方策やチェックポイントを示すと表5、6のとおりとなる。

表5 地域材を利用する上での問題点と解決方策
チェック項目 具体的な対応策

1.豊かな森林資源があっても実際に地域材を使おうとすると、適切な品質・寸法、適切な量の地域材が適切な時期に、適切な価格で手に入らない。

<検討すべき事項>
価格:外材に比べ高い(10%程度までは許容する可能性)
品質
:強度、含水率が不明確
寸法:必要寸法の材が入手困難(径と長さ)
数量:発注後手配で適切な量が揃わない
時期:発注後手配で適切な時期に入手困難
その他:品質の安定した材料が求められ、特に乾燥材化がポイントなるが、現状では高品質な乾燥材の入手が困難。また、高性能・高耐久の住宅部品・部材がない(特に木製の建具関係は、内装材や木製サッシどまりで外壁など外部に使うものがない)。

個別散在的な林業・木材関連組織のネットワークによる適切な時期、量、品質の木材供給体制の整備が早急に必要。

施工者との情報交換により、需要の把握・喚起によりある程度の予測製材の可能性の検討、組織化によるリスクヘッジも必要。

地域内における乾燥材の生産供給体制の整備(部品・部材化とするための性能表示まで段階的に展開することが急務)

名目だけでなく、地域における機能する受注相談窓口の設置と木材コーディネーターの要請が必要

施工を考慮した建築部材・部品の開発推進とその安定生産供給体制の構築(サポートまで含めて)

2.設計者・工務店を含めて地域 材を使うことに対して認識不足の面がある。

<検討すべき事項>
木の良さ、木を使うことの大切さ
木造住宅の良さ、地域の住文化の大切さ、快適さ
地域の生産組織に適した住宅の設計や構法・材料

十分に吟味した設計・施工を行い木造の良さを供給側で十分認識することがまず必要

その内容をわかりやすい言葉と支援ツールを使って、消費者に理解を得る努力が必要。

消費者に木の使い方についての情報や提案を行う。(クレーム情報を含め情報のオープン化が必要。)

3.消費者への情報提供と価値観の共有化が進んでいない

<検討すべき事項>
木材利用の意義(環境、再生、省エネ、健康等)
木造施設の良さ(安心、快適、安全、健康等)
地域に根差した住文化の大切さ(環境対応、街並み、祭事、近所付き合い等)

地域に根ざして住まうこと、活動することの再認識と木造文化の良さ、特に地域木造住宅の快適さ、住み易さを消費者に理解してもらうよう積極的な働きがけが必要。

現在の大手ハウスやプレハブ住宅では実現できない伝統や風土に根差した生活と地域木造住宅の大切さや価値観を再発見・再認識してもらう積極的な働きがけが必要。

4.地域材(地域の材料)の情報や地域に根差した建築のレベルが分からない。  また、設計者側の研鑚も不足    している。

<検討すべき事項>
木構造設計者で地域材のことが分かる人が極めて少ない
知識や過去の経験で収めてしまう
金物を使わない建築をどこまでやれるか
大断面の経験がなくなってきている
木の特性に合致した木構造のデータが極めて少ない。

対応策は1〜2とも共通する。

地域の情報木材・木造建築ネットワークの構築が必要。

木構造設計者の要請とそのネットワークづくりが必要

大学・専門学校等の建築学科での木造教育の実務の働きがけが必要

5.過去に木の街・むらづくりにつながるさまざまな取り組みがなされたが機能していないケースがある。 ・その地域で必要とされる木の街づくりの具体的なビジョンと実践プランを関係者が自ら考え、自主的な街づくりのための活動が実践されることが必要。・それが、時代ニーズに応じて、段階的に革新していくようなやる気と情熱をもった人材と組織の構築が必要。・実績のあるコンサルタントのサポートの活用も検討すべき。

 

表6 地域材の利用を推進する上でのチェックポイント
チェック項目 具体的な対応策
1、つくるものを見直す→売れるものをつくる
  • 消費ニーズに合わせ、例えば、性能の時代ということでは、乾燥材の生産、含水率・強度の表示(売り先に合せる)
  • 住宅の構法・工法の変化に合せて品目の変更
2、組織を見直す
  • 自らの組織を柔軟に変更
3、地域の内外で協力体制を構築する→ネットワークづくり
  • 地域の木材・建築・設計・消費者の有機的なネットワークをつくる
  • 地域内のやる気のある仲間を集め、共同で製品開発や使い方の提案をつくる
  • 地域外にブレーンをつくり、新製品企画等に活かす
4、技術を見直す
  • 新しい技術や高性能機械設備を活用して新しいニーズに合った売れる製品をつくる
5、売り方を見直す
  • 既存の流通ルートだけでなく、顧客となりえる販路を開拓する
  • 木工品では直販ショップ・Netショップの展開を行う

 

(3)先進事例に学ぶ
 以前から、地域材は、全般的に量(供給)・品質・価格が不安定であり、住宅建築サイドから「使いにくい」との指摘が続けられてきた。ただし、表5、6に示したように、地域材の利用に係る問題点と解決方策はかなり明確になってきている。

 今後は、表5、6に示したような取り組みを各地域でどこまで実践できるかが、「木」の街・むらづくりの大きな課題である。そして、すでにいくつかの地域においては、こうした取り組みに着手し、地域材の活用などで成果を上げている事例が見られるようになってきた。そこで以下では、これらの先進的取組事例の概要とポイントを整理し、「木」の街・むらづくりの具体的なモデル像を探っていくこととする。 

@島根県益田市「石州の家」プロジェクト
 益田市が属する高津川流域は、林業が盛んなところであり、地域材の利用を目指したマスタープランを作成して、地域ブランド住宅「石州の家」の供給によるまちづくりを進めている。平成11年度に林業、木材産業、建築業が参加した「高津川流域木造住宅建設推進協議会」を組織、関係者が横断的に協力しながら、「@これからの住宅づくりはどうあるべきか、A21世紀に求められる住宅像は何か」の2つの課題の解決に向けた事業を実施している。「高津川流域間伐推進アクションプログラム」を策定して、地域材の利用推進を図る体制をとっており、協議会員の舟入工芸(株)(家具部材などの木工が主体)が、広島市府中市の家具会社の協力を得て木製サッシの分野に進出するなどの波及効果が出てきている。

 地域ブランド住宅である「石州の家」は、在来構法に新しい工夫を取り入れ、地域材を活用した地域特性のある性能水準を維持するとともに、細かいプランや仕様にも自由に対応できるようにしている。また、「石州の家 安心・納得シート」(性能・評価シート)の整備や支援センターの設置など、ユーザーの信頼を高めるためのソフト面での取り組みも進めており、これから順次「石州の家」の供給戸数が増えていくと見通されている。

 課題としては、新しい接合方法の採用に伴う建築基準法等との整合性の問題や、コスト・品質を含めて地域材の安定供給体制が不十分なため、現時点では外材を併用せざるを得ないことなどがあげられている。

A広島県府中市「備後の家」プロジェクト
 家具の産地として有名な広島県の府中市において、家具づくりの技術を家づくりに活かす取り組みが進められている。これから本格的に供給しようとしている「備後の家」は、地域材を活用した在来軸組の木造住宅で、性能水準及びコストパフォーマンスの高さが特長である。「地域の住宅は、地域の人とモノでつくる」ことを基本に住宅生産を行っていく方針を打ち出している。

 事業の推進体制としては、「備後の家」のコンセプトなどを策定する備後の家研究委員会があり、その下に、「備後の家推進協議会」、さらにワーキンググループを設置している。これらの事業主体により、「備後の家」として備えるべき性能や品質、技術、つくり方などの条件を定めている。ただし、個々の住宅のデザイン及び仕様は規定せず、実際に住宅を建築する工務店の自由度を高めている。また、地域材の利用推進を図るため、「住宅づくり支援センター」(府中インターハウジング協同組合)を整備し、地域が一体となった体制整備・技術開発等を進めている。
 なお、このプロジェクトでも、@の事例と同様、地域材の安定供給体制整備などが課題として指摘されている。

B福島県塙町HOPE計画
 福島県の塙町では、地域材を活用するための研究会(地場産木材活用住宅研究会)を組織して、住宅のみならず、内装・外構まで木を活用したまちづくりを行っている。研究会には、森林経営者や木材加工業者らも幅広く参加し、ローコスト化のため共同受注で木材のロットをまとめたり、品質保証の問題などに対応しているほか、イメージアップや技能者の育成なども手がけている。住宅団地の整備にあたっては、「建築協定」や「建築指針」を定め、生垣や街路樹の整備に対する助成制度を設け、緑化の推進を図っている。

 また、住宅の構造材にとどまらず、公共施設や民間の病院や銀行などの公益施設にも木材を活用、ストリートファニチャー(バス停、ベンチ、電話ボックス等)も木製にするなどの取り組みを行った結果、住民が塙町全体を木の町として意識し、町そのものの活性化にもつながっている。

 なお、塙町HOPE計画では、新木造構法のRH構法の設計にも取り組んでいる。構造材は外材のLVLだが、耐火被覆材料に地域のスギ間伐材を使っている。将来的に技術・コストの問題をクリアすれば、スギのLVLを活用することも予定されており、地域材の利用拡大につながることが期待されている。

C福岡県山田市営住宅・北九州市営住宅「ビレッジ香月」
山田市営尾浦住宅団地(ワークショップ後の庭園を見ながら歓談) 産炭地の活性化策の1つとして、住民参加型の住宅づくりを推進した事例である。
 山田市営住宅(尾浦住宅団地-写真左)では、様々な関係者が横の連絡をとりながら事業に参画できるように、建設協議会を組織してまちづくりを進めた。地域の流通組織と地域材を活用し、地元の大工・工務店の施工による、地域特性を反映した効率的で質の高い現代の木造住宅づくりに取り組んだ。特に、共同庭園の整備をワークショップ方式で行うなど、住民の積極的な参加を促すことに配慮している点が注目される。住まい手(入居者)からは、「木造なので暖かく快適」などの反応が寄せられており、周囲の景観に溶けこんだ木のぬくもりが感じられる木造公営住宅として評価されている。

 同じく福岡県の政令指定都市である北九州市営住宅「ビレッジ香月」(写真右)でも、炭住地の再開発事業として、山田市営住宅と同様のやり方で木造公営住宅を整備(政令指定都市では国内初)、手摺やバルコニー等にまで地域材を使用し、木造の親しみやすさを損なわずに、新鮮さを備えた外観として評価されている。住まい手からは、「冬、特に暖かく感じる」、「住み始めから結露等に悩まされることなく快適」などの反響が寄せられており、平成2年度の福岡県建築文化大賞を受賞している。

D佐賀県有田HOPE計画
 佐賀県の有田町では、磁器産地としての伝統を持つ町並みの保存・修景を前提にしながら、個性を尊重した多様な地域材住宅づくり運動を展開している。大型スーパーストアの進出などで街並み・景観が壊れ、不調和になっていくとの危機感から、有田町らしい地域住宅のあり方を考える組織として「有田町HOPE研究会」を設置し、ここに地域の工務店、設計者らが集まり、論議を重ねながら、伝統的な手法と新しい手法を調和させ、質の高い町並みの創造を目指すとの合意を形成していった。同研究会は、「住宅計画チェックリスト」を作成するなどして、「焼き物の町・有田」にふさわしい多様な家づくりの推進主体となっている。

 また、町内会ごとに町並み景観のスライド映写会を実施したり、「広報ありた」での特集記事の掲載やシンポジウムの開催などを通じて、普段は見慣れていた風景の大切さを住民が再認識し、価値観・問題意識の共有化が図られている。

 このような取り組みにより、「有田町HOPE研究会」のメンバーによる地域材住宅の建築実績が着実に増加している。

E富山県上平村克雪タウン計画
 上平村は、世界遺産に指定された飛騨地域の合掌造りの民家が現存する地域で、豪雪地帯に位置する。だが、合掌造り民家は住みづらいという面があったので、昭和61年に「上平村克雪タウン計画策定委員会」が発足し、合掌を下ろし、雪下ろしが不要で、かつ、地域に相応しい木造住宅に関する技術・研究を進めた。その成果として、「楽雪住宅」(屋根雪が自然に滑り落ち、落ちた雪を軒下の池で溶かす方法)を開発した。また、合掌造りによって形成されている景観を保全するため、民家への改装にあたっては、外側と内側を変えずに居住性を改善するなどの工夫を施している。平成2年には、「上平村合掌の里整備基本計画策定委員会」を設置し、合掌造り民家の保存と再生の技術開発を行う拠点づくりに取り組んでいる。

 上平村は、高齢化・過疎化が進んでいたが、平成2年に10人の新しい村民が誕生するなど、近年は若者が定住するきざしが出てきている。村は、「楽雪住宅」に関する条例を定め、楽雪屋根への改修費を補助するなどの支援措置を講じており、地域工務店により、毎年数件の民家が楽雪屋根に改修、同様の動きが隣村の平村にも広がっている。

F富山県住宅産業近代化促進事業
 富山県住宅産業近代化促進事業は、大手ハウスメーカーの住宅と競合できる地域材住宅の供給を目指して実施されている。県内の中小工務店80社の参加により「富山県優良住宅協会」を組織し、勉強会を重ねて、取り組み方向を集約した結果、@富山の匠が得意とする木の良さを実感できる住まい、A富山らしさの表現、B新しい住まいの提案、C高耐震・高耐久の保証、D将来の増改築と維持管理への対応、E省エネルギー、F高齢者にやさしいこと、G町並みの創造―の8つのポイントが決められている。

 これまでに、富山県住宅供給公社の協力を得て、3棟の地域木造住宅(建売住宅)を共同設計・建設した。さらに、各社が取り組んでいる内容をそれぞれ発表しあい、その中から共通項を導き出して富山型住まいづくりの手引きを作成したほか、富山県林政課と連携・協力して県産スギの活用にも取り組んでいる。

 また、同事業の特長として、「住まいづくりワークショップ」の開催があげられる。これは、地域材住宅の担い手である工務店の技術者を中心にして、関係者が勉強会や情報交換、討論などを継続的に重ねるもので、これにより「富山の風土や生活文化に根ざした真に快適な住まい」の追求などが進められている。

(4)先進事例の共通点を探る
 以上、7つの事例の概要を見てきたが、いずれも今後の「木」の街・むらづくりのあり方・進め方を考える上で、示唆に富む内容を含んでいる。これらの事例から、参考とすべき点(成功した要因)について、ポイントを整理すると次のとおりとなる。

  • ワークショップ方式の導入など、住民参加を進めることで、街づくり活動の定着化・永続化が可能になる…山田市営尾浦住宅団地・北九州市営  住宅 「ビレッジ香月」(福岡県)。

  • 伝統的手法(技術)と現代的手法(技術)を調和させることで、住まい手のニーズに応えた質の高い街づくりが実現できる…有田HOPE計画(佐賀県有田町)、富山県上平村克雪タウン計画。

  • 地域工務店の体質強化と地場産材の活用を進めることで地域特性が明確となり、大手ハウスメーカーとの差別化を図ることができる…「石州の家」プロジェクト(島根県益田市)、「備後の家」プロジェクト(広島県府中市)、 富山県住宅産業近代化促進事業。

  • 住宅だけにとどまらず、公共施設や民間の病院、銀行などの公益施設、ストリートファニチャー(バス停、ベンチ等)などにも木材を使用することで、街並みに新たな魅力を加えることができる…塙町HOPE計画(福島県塙町)。
     また、今後の「木」の街・むらづくりに当たって、注意すべき点として次の事項があげられる。

  • 住まい手との連携を深める仕組みづくりに取り組むこと、その際、合意形成のための期間等を十分に確保すること。

  • 地域の特性(歴史・文化・ライフスタイル・森林資源状況・住宅市場の特徴など)を分析・研究した上で、画一化を避けたまちづくりを進めること。

  • 伝統的な街並みの単純な保存を図るのではなく、現代的な技術・ライフスタイル・価値感等を踏まえ、住まい手の満足度の向上を目指した街づくりを行うこと。

 つまり、「木」の街・むらづくりを進めるためには、林業、木材産業、建築業などの住宅供給関係者が連携するだけでなく、ワークショップ方式などを取り入れて住民参加を進め、地域ぐるみで取り組めるソフト面での基盤づくりが不可欠なのである。「木」の街・むらづくりは、単純に地域材住宅の建築戸数が増えることだけを目的としているのではない。地域の森林資源とそこから生み出される木材(地域材)の有効利用に、どれだけ多くの人々がかかわれるか、そしてどれだけ共通の問題意識・価値観を共有できるかに、「木」の街・むらづくりの成否がかかっている。そのためには、地域の歴史・文化・伝統などの特性を、現時点でもう一度見つめ直すことが必要である。

(5)地域資源の賦存状況と活用方法
 「木」の街づくり・むらづくりを進めるにあたっては、地域の森林資源や地域材の利用状況を把握しておくことが、当然のことながら欠かせない。また、整備対象街区の状況を把握しておくことも必要である。その際、いわゆるスクラップアンドビルド的な概念ではなく、コアとなる整備対象街区の状況を把握し、既存の資源を有効に活かして整備していくことがポイントとなる。従来のまちづくり・地域振興は、ハード事業優先で進められる傾向にあり、事業にかかわるノウハウが蓄積・共有化されづらい面があった。この点を見直し、事業実行のプロセスをオープンにするとともに、ソフト面への支援を強化することが大切である。

 さらに、「木」の街・むらづくりを、「循環型社会」の構築につながるモデル事業とするためには、地域の資源を再生利用するリサイクルルートを確立することも必要である。もともと、地域木材産業においては、木材加工の副産物である端材をチップ化して製紙用原料に、オガ粉は畜産敷料・キノコ培地に、樹皮はバークたい肥に利用するなど、古くから再生利用の取り組みが続けられてきた。「環境の世紀」とも言われる21世紀には、こうした再生利用の手法に現代のリサイクル技術を融合させ、環境に負荷のかけない地域における循環システムをつくり上げていくことが求められている。そのためには、「木」の街・むらづくりの一環として、地域におけるリサイクル処理施設の現状やその利用状況を把握し、木質資源の循環利用方策を検討していくことが重要である。

 木質資源のリサイクル化に関して、既に確立されたマーケットは表7のとおりである。これ以外にも複合化技術により、新たな製品開発も検討できる。ただし、リサイクル商品は、試験的に製品化はできても、工業製品化までを橋渡しするブリッジテクノロジーがないと、市場競争力を持てない。「もの」はできても、それは必ずしも売れる商品とは限らず、また売れる商品にするためのテクノロジーと同時に開発段階からのマーケティングが重要である。売れるまでの開発期間が長期化する可能性もあるので、国や地方自治体等が講じている各種の補助制度なども活用しながら開発を進め、品質・性能が確保されているか、価格競争力があるか、安定的な販売が可能か、差別化が図れているか、独自性が図れているかなどを常にチェックしていかなければならない。

リサイクル品目 マーケットの規模、動向と問題点
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>3.「木」の街・むらづくりを進めるために―課題と提言―

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