秋田といえば「秋田杉」。天然秋田杉はとても認知度の高いブランドです。またこの地域は天然秋田杉に比べると若い秋田杉の蓄積も豊富な地域でもあります。これらの豊富な資源を背景として、製材や集成材などの技術の集積がこれまで進んできました。
しかし一方で、この高いブランド力のため、近年の需要ニーズの変化への対応が、他産地に遅れをとるようになりました。
そこで地域としても、需要ニーズに対応した木材をいかに供給できるか、具体的には高品質な資材を安定的に提供できるか、そして厳しさの続く林業への還元を果たしていくかを模索しながら、新たなブランド力を背景とした秋田地域の林材業の再構築を進めようとしています。
今回は、秋田地域で新生産システムの事業に参画している企業から株式会社沓澤製材所をご紹介いたします。
沓澤製材所の創業は昭和2年(1927年)で、今年創業80年の伝統ある企業。昭和37年(1962年)に現在の組織になりました。創業当初は桶や樽の木取り材を作るメーカーとしてスタートしましたが、戦後は製材部門に力を入れ、今では製材部門が主力事業となりました。
この製材部門での高品質な製品供給には定評があり、平成2年度の第18回JAS製材品普及推進展示会で食品流通局長賞を受賞以来、平成18年度の第34回JAS製材品普及推進展示会で農林大臣水産賞(6回受賞)を受賞した今年度まで、17年連続(上位3賞)受賞という栄誉を手にしています。
「天然秋田杉」と製材事業
天井板に代表される天然秋田杉製品は昔からとても高価なものでした。このため桶や樽の製品は「天然秋田杉」の高度利用の一環として、天然秋田杉の端材を有効活用し、生産されてきました。
天然秋田杉の製材は7mm板、造作材、建具材等で秋田スギブランドが形成されてきました。
ところが、樹齢200年を超える天然秋田杉資源の供給は年々減少(平成25年には伐採禁止予定)し始めました。そこで製材業界は資源として豊富ではあったものの、これまでは見向きもしなかった70年生以上の比較的若齢のスギから新たなブランド製品の開発に取り組みました。秋田杉ブランドの第2世代となった割柱と造作材の誕生です。沓澤製材所も、割柱と造作材主体の工場に転換していきました。また、天然秋田杉の高付加価値利用を目的に、造作用集成材の事業も始めています。この段階で沓澤製材所は、桶・樽製品の製造技術、製材の技術、集成材の技術といったノウハウを身に付けた総合メーカーへと歩みはじめたのです。
「人工乾燥機」
集成材事業をスタートさせると同時(昭和47年)に「人工乾燥機、木屑焚きボイラー」を導入しました。いまでは当たり前となった人工乾燥ですが、当時、スギ製材品の人工乾燥に取り組んだのは、秋田県の製材工場では初めてでした。この機械は現在でも使用しているそうです。これにより先述の各技術にプラスして、秋田スギの人工乾燥技術もノウハウ化していったのです。
「山林育成」
沓澤製材所では秋田杉の山林育成にも尽力していて、現在では提携先に整備管理を委託し、次代の供給に備えています。天然秋田杉が減少したのは、戦後の国土の復興資材として増伐採が続いたことが理由の最も大きいところですが、近年の林業経営を取り巻く環境が非常に厳しい中で、自らの所有するスギ人工林の育成管理に、さらに努めていくとのことです。
沓澤製材所の特徴 「板材」に特化
現在の製材所は、柱などになる「角材」を多く生産し、供給を伸ばしているメーカーが多いのですが、沓澤製材所では、秋田杉の特性を活かした、より付加価値の高い「板材」に特化した製材を行い市場でのブランド価値を高めるとともに、安定供給と品質向上を目指すことを目標としています。このために生産性の向上と製品の付加価値向上を図っていくことが、沓澤製材所の特徴のひとつと言えるでしょう。
沓澤製材所の「新生産システム事業」への参画について
以前から事業規模の拡大、生産性の拡大には前向きだった沓澤製材所は、全国の有力で先見性のある製材所が設備投資をし、生産性を上げているなかで、秋田スギで競争力ある商品を提供したいという思いと、高品質な商品を安定供給することによって地域材の需要拡大とともに、森林の整備再生が持続できるとの思いから、今回のこの新生産システム事業の参加企業となりました。
また、外材が高騰し、国産材が見直されているこの時期、外材や国産材の産地間競争に対抗できる「秋田スギ」製品を送り出したいという企業の意気込みを感じました。
沓澤製材所が「新生産システム事業」に期待すること
山から木を切るひと、山を管理するひとがいなければ、製材事業はやっていくことはできません。沓澤製材所は、少し忘れがちになっていたこの重要なことを再認識し、山を伐採・管理するひとたちが健全に持続的に経営できる体制を整えるため、あらゆる面から協力していこうと考えています。つまり川上から川下まで、誰もが事業を継続でき、皆が納得できる体制を確立したいということです。
そんな体制を根本からバックアップしてくれることを、この「新生産システム事業」には期待をしています。
また、JAS規格製品の生産拡大を視野に入れているとのことですが、これは製品寸法が地域性を含んで種類が多く、製材のコストアップ要因ともなることから、建築材や用途別の必要に応じた寸法規格を簡素化、集約していくことが生産効率をアップするとともに、コストダウンを図り、統一寸法化されている外材に対抗できる体制を整えられればと考えてのことと聞きました。11地域が先駆者となって、これまでに検討されなかったことを話し合い、各地域の特徴を活かしながら確立してゆく。そしてより良い商品を全国に供給していく。この点も大きく「新生産システム事業」に期待しているところです。
更に、地域材を使用した特色ある製品を開発し、様々な方々に使っていただくのも新生産システム事業でのテーマとして考えています。また、実際に使用していただく方々にも、木の良さとともに、木材の正しい使い方をしていただけるようなPRを行うことなど啓蒙活動の強化も必要だと感じています。
特化した板材