木材流通における転換促進支援事業
日時: 令和6年2月19日(月)13:00~17:00
場所: ビジョンセンター東京八重洲 9階 904
はじめに
一般社団法人 全国木材組合連合会 常務理事 田口 護
能登半島地震で亡くなられた方々の御冥福をお祈りするとともに、被災された方々にお見舞い申し上げ、一日も早い復旧復興をお祈りいたします。昨今では市況動向により木材価格が大きく変化するとともに、令和7年には改正建築基準法が施工され、制度面も大きく変化する。その中で木材をきっちり使っていただくことが重要だ。私達の活動は山側の事情をお伝えすることが中心になっているが、需要者が木を選択してくれる体制をつくることも重要だ。そのためには流通が一つの要であり、需要者と山側の要望をつなぎ合わせることが必要だ。今、環境問題などで追い風が吹いている。これを流通というかたちで実現するために事業が実施された。本日は採用6団体のうち5団体に発表いただくことで、情報を共有し、より良い体制ができればと思う。
目次
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事例報告
大分県木材協同組合連合会
木材流通における転換促進支援事業の取り組みについて大分県のスギ・ヒノキの人工林は、50年生超えの面積が10年で約2倍に。これ以上大径化すると搬出が困難となり荒廃も懸念されるため、大径木の積極的な伐採と利活用が求められる。本事業では協議会を立ち上げ情報や意見交換を行った。また 、JAS材パンフレットを作成・配布し、県内のJAS認証工場を紹介した。さらに、大分県産スギ横架材のスパン表、横架材を国産材に転換する手引書き及び事例集を作成し、建設業者・設計事務所・行政機関等に配布を行った。周知活動としてイベントに参加し、新聞広告等で建築物の木造化、県産横架材の活用を推進した。そして、講習会や講演会開催による啓蒙活動を実施した。本事業により、特にJAS構造材の品質・性能の理解が深められ、地域材による木造化・木質化の機運が高まったが、生産・流通面での課題も浮き彫りとなったので今後に生かしたい。
一般社団法人 福岡県木材組合連合会
「福岡の木利用ガイドブック」を利用した木材流通における地域材への転換促進の取組弊会ではこれまでも、川下側の建築士、工務店関係の団体と連携を図り、地域材やJAS材の利用推進に向けた普及啓発活動に注力してきた。本事業では平成31年に発行した「福岡の木利用ガイドブック」の内容をより実用的に改定するとともに、それを用いて講習会を行った。まず、川上から川下までを網羅する委員により協議会を設置し、現行のガイドブックの欠点を洗い出した。実用性を重視して事業者別表示を改め規格別に整理、冊子とWEBで情報を分けて発信する方針を立てた。事業者に対し、取扱品目とサイズを調査。70社を取扱製品別に掲載している。HPでも冊子の内容を閲覧可能とし、地域や取り扱い製品、認定・証明など複数のカテゴリから事業者を検索する仕組みを構築した。活用法を解説する講習会には45名の参加があり、動画はHPで公開。さらなる情報ニーズ吸い上げの機会にもなった。今後も定期的な調査による情報の蓄積・更新、川下側に有用な表示方法の工夫を重ねていく。
兵庫県木材業協同組合連合会
木材流通における転換促進支援事業人工林の大径化スギは外材に比べヤング係数が低いほか、仕口のせん断耐力が小さいため梁成が大きくなり材料コストが嵩む。そこで高強度梁仕口「TajimaTAPOS」を県で10年前に開発した。本事業ではこの仕口の動画を作成しWEBで公開した。「WOODCOLLECTION2024」でもこの動画を上映し、建築設計事務所を中心に高い関心を集めた。講演会には他県からの参加者もあり全国的に関心の高い技術であることが分かった。スギ平角材が調達に時間を要するという課題に対しては、製材品の規格・寸法ごとの標準納期と生産量をまとめた冊子を改訂し、配布。今後は都市部でも講習会を開き、全国への普及を図りたい。また、石川県で強い構造材をセットにしたパッケージ商品が実績を上げていることから、パネル製品と合わせた商品化にも可能性を見出している。
山形県木材産業協同組合
川中・川下が連携して国産建築用部材への転換を目指す環境整備山形県産材の生産量は少なく、300kw以下の中小の製材工場が9割を占める。中小規模の工務店を調査すると、横架材のうち国産材使用率は50%程度に留まった。そのため本事業では、地域流通材をより多く使ってもらえる仕組みづくりを行った。川中の複数の協議会を中心に、ふたつのワーキンググループを結成。各製材工場で聞き取り調査した流通材のリストをパンフレットに掲載した。「一般流通材を活用した木造建築ワーキング」や「やまがた木造設計マイスター養成講座」の受講者にJAS製材や「やまがたの木認証材」等の情報提供を行うとともに、木産協が窓口となることで設計段階から地域流通材を活用しやすい環境を整えた。建物の木造化を進めるセミナーには建築士、工務店の参加が増えたので、ある程度情報提供できたのではないか。今後もワーキングの継続、新たなサプライチェーンを目指す取り組みを行っていく。
一般社団法人 木と住まい研究協会
当事業では、実物件の横架材を、外国産のベイマツやレッドウッド集成から国産スギ製材やスギ集成材に置き換えた場合に、構造的な問題が発生するかを検証した。その際2025年の建築基準法改正による強化された必要壁量により算定し、梁せいチェックを実施。結果をもって最適な樹種・梁せいを提案した。製材と集成材の特徴を生かし、コストパフォーマンスが高く工務店・ビルダーが採用しやすい国産材のパッケージとして提案している。また、解説テキストを作成し、ステークホルダーに対して普及活動のセミナーを行った。本事業によって、国産構造材(特にスギ製材)が使用できることを、工務店・ビルダーや設計事務所が理解できたので、今後利用が進むことを期待する。セミナーは今後も木と住まい研究協会のHPに掲載し学びの機会を提供していく。解説テキストは希望者に広く配布し、引き続き関係業界に働きかけていく。
いしかわの木を使おう推進協議会
令和6年能登半島地震の影響にて報告書を提出のみとなります。総評
林野庁林政部木材産業課 課長補佐(流通班担当) 永島 瑠美
ウッドショックは落ち着き、住宅の需要減や輸入材が長期的に減少していることに問題意識が移る中、横架材の国産材への転換が重要課題だ。また改正建築基準法の施行でより性能が明らかな木材が必要とされる中で、国産材の需要を増やしていくことが求められる。発表にあったように、川下にPRしてサプライチェーンを構築することが大切である。PRの方法として、パンフレットの作成や改訂によりニーズに沿った詳しい情報が盛り込まれており、動画も見やすく興味深く拝見した。今後も随時ブラッシュアップしながらPRを継続していただきたい。横のつながりをつくる場の大切さも感じたので、林野庁としてもバックアップしていきたい。効果については、各事業者さんの内部でも共有することで、継続へのモチベーションにして今後につなげていただきたい。本日は本当にありがとうございました。