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全国木材産業政治連盟時局大講演会 
「日本経済の現状と展望」〔講演概要全文〕


   

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全国木材産業政治連盟時局大講演会 
「日本経済の現状と展望」〔講演概要全文〕

 

日時 平成15年5月9日(金)15:00〜16:30
場所 虎ノ門パストラル「鳳凰」
   
講師 植 草 一 秀 早稲田大学大学院公共経営研究科教授

 

1.日米株価の比較

日本経済の停滞が非常に深刻な状況である。日経平均株価は今から13年半前に39,000円という史上最高値をつけたが、1990年代に入り、バブル崩壊により株価の下落が進行し、現在も株価下落に歯止めがかからない状態で4月28日には7,607円という水準まで下落した。ここ数日間は、新しい株価対策ということで8,100円となっているが極めて低い水準である。小泉政権が誕生して2年を経過したが、この2年間に日経平均株価は半分になり、時価総額が170兆円以上減少している。

自分の財産が減少し、土地・不動産価格も下がっており、日本全体ではバブル崩壊後の資産価値の減少は1,400兆円を超えているといわれている。金融資産が1,400兆円といわれているがそれに匹敵する資産価格の減少が生じている。

今日は、日本経済の現状と今後の行方について、特に政治や政策を含めて話をしたい。

次の図は、日米株価の比較であるが、小泉政権発足してこの2年間で株価が半分に下落している。日本の政府関係者は、株価は下がっているが、ヨーロッパやアメリカも同様で、ヨーロッパの下落がきつくなっているので、ヨーロッパに比較すると日本は検討しているという自画自賛があるが、本当にそうなのか見てみたい。

上段の米国の株価は、史上最高値は2000年の1月14日でニューヨークダウが11,722$まで上昇し、その後3年半調整局面を迎えている。米国におけるバブル崩壊は、ITバブルで、IT関連株が実態を伴わない形で急上昇であったため、11,700$から下落し、7,500$、最近では8,500$という水準で、ピークから見て3〜4割の調整が入った。

米国の株価は、1990年の12月11日に2,365$で、この頃のアメリカは非常に厳しい状況に直面し、3つの大きな問題を抱えていた。

一点目は、深刻な不況に直面していた。1990年8月に湾岸紛争(イラクがクウェートを侵略)、91年1月11日に湾岸戦争が起こった。この湾岸紛争と湾岸戦争に前後してかなり深刻な不況に突入した。

二点目は、財政赤字が92会計年度の財政赤字は、2,927億ドル(30兆円)となっている。当時のアメリカは日本の現在の状況と同じ財政赤字に直面していた。

三つ目の問題として、S&Lという貯蓄貸付組合という日本で言う信用金庫などに近い小規模な金融機関であるが、アメリカでは、1990年代の初め頃、金融機関の倒産があいついて発生した。シティバンク、ケミカルバンク等の大手銀行でさえつぶれそうな状況だった。

つまり、90年代初頭のアメリカは、深刻な不況、巨額な財政赤字、不良債権問題の3点セットに直面していた(今の日本の状況と同じ。)。そのため株価が2,365$となったが、アメリカは90年代このような問題を乗り越えてきた。

どうやって乗り越えたかというと、92年の7月と9月に中央銀行のFRB(日本では日銀に相当)が大胆な金利引下げを行い、大きなインパクトを与えた。政策当局が力ずくでも景気回復に経済を持ち込み、その後のアメリカの順調な上昇はこれを転換点としている。

株価が上昇し、景気が底入れし、地価の下げ止まりとなり、不動産価格が上昇に転じ、不良債権問題の処理が急速に進展し始めた。景気がよくなると、企業が黒字になり、払う税金が増えてきた。そのため財政赤字が減少し始めた。

つまり、アメリカは景気回復優先の政策により、株価の底入れ、景気の底入れ、地価を底入れさせ、結果として不良債権処理を進め、財政赤字を減らした。これにより3重苦の経済を見事に克服した。これが93,94,95年である

しかし、勢いをつけすぎ、97、98,99年の3年間に株価が2倍に上昇した。ITバブルであり、96年12月5日のニューヨークダウが6,437$から、2000年1月14日の11,722$がアメリカのバブルである。バブルとは何かというと泡であり、ほうておくと消えてしまう。実態の裏づけがないのに株価だけが上がってしまった。日本でもバブルが13年も前に起こっている。

96年12月5日の株価6,437$の時にFRB議長のグリーンスパンがこれ以上株価が上がるのは根拠がなく、熱狂であるという発言をした。鋭い洞察力であった。2000年1月まで続いたバブルは2000年代に入り、3割から4割のバブルの調整が完了したところである。

それに対し、下のグラフの日本は、日本の株価の最高値は今から13年半前の1989年の12月29日、日経株価平均38,915円で、アメリカから10年先立ってバブルとなっている。1987年11月21,100円だったものが、89年12月に39千円と2年で株価が2倍になった。これがバブルであり、90年代に入り、13.5年間、株価は下落を続け現在に至っている。この中で2001年5月7日の株価14,529円というのは、実質的に小泉政権がスタートした時の株価である。

小泉政権は2001年4月27日であるが、最初の10日間株価が上がった。これは自民党の亀井清香政調会長が3月に緊急経済対策を行った効果で、5月7日まで株価が上がった。5月7日は小泉総理が国会で所信表明演説を行った時を転換点として、その後、株価は上がることなく2年たったというのが現在の状況である。小泉政権の政策こそ株価が半分になったことが中心的な背景である。この株価が7,607円まで下がった。今日は8,100円であるが、大幅に下がって半分になってしまった。

これに対して、日本は健闘しているという話が竹中大臣からあったが、とんでもないことで、1990年初めの頃の株価を100とすると、アメリカの場合、100の株価が2000年1月に495(5倍)になり、現在、350である。日本は2001年5月7日の株価で37、直近の安値は20となっており、1対1でスタートしたものが、現在1対18で、アメリカの株価の18分の一に下落したというのが日本の現状である。

これは危険な状況で、銀行の株価がそれを象徴している。三菱東京、三井住友、みずほ、UFJの4大グループが存在するが、みずほとUFJの株価が従来の50円額面に換算すると100円を割り込み、みずほの場合、先日は60円になっている。いつ破綻がおきてもおかしくない危機のさなかにある。

こういう状況であるが、一般的に言うとのんびりしている。その最大の理由は、ペイオフ(銀行が破綻したときに1千万円以上の預金がかえってこない)を延期したことであり、もし4月に実施していれば、大銀行から預金がのきなみ流出した可能性がある。ペイオフが延期されたことにより、預金が全額保護されるので、銀行がつぶれても心配しない。

例えて言えば、虫歯がどんどん進行し、激痛が走ると、歯医者は痛みを取り除くため神経を抜いてしまう。神経を抜くと痛みは感じないが直ったわけでない。神経を抜いてしまったぼろぼろの歯を抱えてる状況である。

 

 

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