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全国木材産業政治連盟時局大講演会
「日本経済の現状と展望」〔講演概要全文〕


   

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2.立ちはだかる経済問題

日本が直面している問題は、90年代前半のアメリカの状況と似ている。一般的には、深刻な不況、特に中小企業や国内型の産業が厳しい。不況以外に二つの問題がある。

その一つが財政赤字であり、日本の国家財政は規模として80兆円である。財政に対するお金の拠り所は税金である国税収入である。予算が81兆7千億円で、税金が41兆7千億円であるので差額が40兆円。この40兆円のほとんどを国債発行という借金でまかなっている。借金に頼る比率が約5割、家計のやりくりを考えた場合、半分借金であればほとんど破綻した状態である。

これは今年だけの話ではなく、これまで借金を繰り返してきたので、国と地方を合わせた借金の合計は700兆円、日本のGDPが500兆円であるので、140%のGDP比率というのは、主要国の中で日本が最悪であり、かつてはイタリアの財政が厳しいといわれていたが、イタリアを抜いて日本がトップになっている。そのため日本の国債の格付けが下がっているという問題が生じている。

もう一つの問題は不良債権問題、これは、銀行が貸したお金が戻らないということであり、不良債権問題が発生した理由は、大きく分けると理由は二つある。

一つは、バブルの頃に銀行が貸したお金が戻らない。

もう一つは、90年代後半にもバブルと関係ない会社に貸したお金も返らなくなってきている。

バブルの頃、日本でどのようなことが行われたかというと、1987年から90年にかける4年間に、銀行と名のつく金融機関が企業に対してお金を貸した残高の増加が100兆円あった。銀行と名のつかない金融機関(信用金庫、信用組合、農協、政府系の金融機関)があるが、バルブ関係の融資が92年までずれ込んでいる。これをあわせると金融機関の残高の増加は200兆円である。

誰が借りたかというと、日銀の統計の中に業種別の貸出残高の統計があり、残高の増加は、建設業、不動産業、リース業、その他金融業(ノンバンク)の4業種で100兆円以上を借りた(銀行が貸した)。そのお金は、圧倒的に土地、次に株式、ゴルフ会員権、一部は海外にも流れた。200兆を注ぎ込んだわけであるが、90年代のバブル崩壊で、買ったときの値段と現在の値段は、三分の一から四分の一、ものによっては十分の一というものもある。金融機関から200兆円を借りて、200兆円の資産を買っているが、その資産の時価評価は50兆になっている。そうなるとどうやっても150兆円は返ってこない。この150兆円が丸々、不良債権になっている

第二の発生の原因は、90年代後半の深刻な不況が長引いていることである。バブルとは無縁にまじめに仕事に取り組んでいた会社が、不況が長引く中で、収益が圧迫され、赤字になってくる。赤字が二期連続して計上している会社は、融資が要注意先、要管理先、ひどい場合は破綻懸念先企業に分類され、これも不良債権にカウントされる。これが100兆円位ある。合計すると200兆円から300兆円位の不良債権が生まれてきた。

担保で抑えているので全部がとりっぱぐれるということはないものの、銀行は含み資産として土地や株式をもっているので、それを切り売りして不良債権の処理をしているわけである。90年代から現在まで処理してきた不良債権は100兆円ある。残りは100兆円ある。厳しい不良債権は40兆円といわれているが、要注意先債権というグレーゾーンがあり、それを含めると100兆円になる。100兆円のうち担保などで抑えているものを差し引いても不良債権の処理を今やろうとすると80兆円位のお金が必要になる。誰がそれを出すのか、それを決めようとせず見て見ぬふりをしている状態である。

このように不況、財政赤字、不良債権の三つの問題が行く手を阻んでいるが、この三つの問題をどうやって乗り越えるかということについて、二つの正反対の意見がある。小泉首相が提案しているのは、改革路線、改革なくして成長なしといわれているが、これを「滝くぐり北壁直登ルート」と呼んでいるが、北側にある不良債権の絶壁、財政赤字の絶壁を歯を食いしばって登りきれば、不況克服にもつながるというなんとなく格好がいいものであるが、できるのかどうかわからない。

これに対して、私は当初から反対意見を唱えている。これを名づけて、「南側高原斜面横断ルート」している。どういうことかというと、不況を克服するため景気回復に全力をあげる不況をしっかり克服すれば、財政の建て直しや不良債権の処理がスムースに進めることができるのではないか。どのルートで進めるか意見対立がずーと続いている。

 外の国の例をみると、韓国やノルウェーのように北壁ルートから問題を処理した例もある。韓国は金融処理を大胆にやった。ノルウェーも危ない銀行を国有化して、金融処理をした後で景気回復につなげていった。

北側から行ってうまくやるためには条件が整っている必要がある。綿密な計画、周到な準備、適切な時期、優れたリーダー、チームワークで、この5つの条件が整っていなければならないが、今は残念ながらこの条件が一つも整っていない

例えば、綿密な計画であるが、つぶす銀行と生き残す銀行を線引きする必要がある。今、銀行が生きていけるかの脳死判定ルールは、自己資本比率であり、国際活動をする銀行は自前の資金を8%以上持たなければならないということになっているが、問題は、この自己資本比率をどのような計算で行うか、計算式によって結果がガラット変わる。今、日本の銀行は現在のルールで計算すると基準を満たしているので、銀行は健全であるということになっている。

しかし、先の内閣改造で竹中金融担当大臣になり、自己資本比率の計算ルールを厳しくなるように変えるということことを言った。資産先をやり直す、貸し倒れ引当金の積み立てのルールを変える。会計項目上、繰り延べ税金資産の取り扱いを変えるということ。

その結果何が起こるかというと、中央大学の深尾教授のルールを変えた場合の自己資本比率を試算しているが、大手銀行は軒並0%になる。9月30日にそれを始めた結果、大手銀行株があっという間に大暴落し、200円以上の株価が60円になってしまい、日経平均株価が大暴落した。

大変だということで、結局、2002年10月30日に総合デフレ対策を決めた時はこれが白紙に戻った。ところが、世間ではルール変更があるかもしれない。あったら銀行が破綻するかもしれないということで、株を持っている人は売ることなる。そのルール変更を話し合っている段階である。

もう一つ適切な時期ということがあるが、日本経済にある程度の体力がある時期であれば、金融問題を一気に処理することはいいと思われる。私は、今から10年〜11年前に、金融の抜本処理をすべきであるという論文を随分書いた。あの頃にやっていれば充分処理はできた。今の日本経済は、再びマイナス成長に入り、日経株価は8千円を割り、銀行株が100円を割り、株価が100円を割っている会社が150社、200社、こういう状況で金融処理を加速すると何が起こるかというと火を見るより明らかで、次から次へ日本中に倒産が広がり、銀行も破綻して日本中が焼け野原になる。現時点で常識的な判断をするならば北側から行くというのは無理で、正に、2月の猛吹雪の時期になって、北壁を登り集団自決を指示するようなもので、八甲田山の死の行軍のようになってしまう。

 

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