世の中には各種の経済統計があるが、鉱工業生産、GDP生産が一番優れた統計である。鉱工業生産統計は、製造業の活動状況を示している。日本で製造業の割合は、経済全体の2割である。8割がものづくり以外、林業、農業、運輸、サービス業、建設業、不動産業、流通業、金融業などは全て非製造業である。
製造業は全体の五分の一であるが、この統計を使うかというと、日本の統計の中で一番データが正確であり、信頼が高い。最近の数字まで発表になっているメリットがある。さらに、製造業の動きと経済全体の動きはほぼ連動しているので、経済全体の動きを見る上で役立つ。
現在、どういうところにいるかというと、右端の赤い点線の3月の予測指数で、図には実績が入っていないが、実績が公表され、予測よりもはるかに低い実績となった。日本の景気は2002年の8月から現在、下り坂に入っており、景気は再び後退局面になっている。98、99年の数字と同じレベルで、その頃は、長銀や日債銀が倒産したりして、日本が深刻な不況に突入していた時期で、今の経済活動はその頃と同じである。しかも下り坂である。
図の下の丸印は2001年11月が景気のどん底、2002年はどう動いたかというと、8月までの10ヶ月が上昇した。5月に景気底入れ、これで景気は心配ないとの判断で、竹中大臣が補正予算は愚の骨頂と発言し、ブレーキを踏んでしまい壊してしまった。重大な政策の判断ミスであった。
結局、景気は2002年の8月までの10ヶ月しか改善せず、これは史上最短の景気回復で、名づけて「ホールインワン景気」などと呼んでいる。ゴルフでボールを打って、そのままカップに入ってしまうと、グリーンでパットをしないので、パットをしない景気という意味である。
2000年の8月が景気のピーク、そして、2001年の11月が景気のどん底、15ヶ月で16%落ちている。この統計開始以来、最悪の景気の落ち込みである。なぜこれほど落ち込んだのかというと、一番の理由は、森政権と小泉政権が強烈なブレーキを踏んだ。超緊縮政策で、それに特殊な意味が加わった、2001年9月のテロ、ITバルブ崩壊が重なった。2002年はその反動があったが、ブレーキを踏んでしまった。
90年から現在までに日本の景気はどんな波動を描いてきたか。失われた90年代などといわれるが、図を見てわかるように、必ずしもズート悪かったわけではない。94年から97年に掛けて景気がはっきり浮上している。99年から2000年にかけてもはっきり浮上している。
何があったかというと、94年の2月の15兆の景気対策、95年9月の14兆の景気対策、しっかりした景気対策を打つと浮上してくる。98年から2000年は小渕政権の時代で、23兆の景気対策、18兆の景気対策で浮上した。
逆に落ち込んだのは、3回あり、91年から94年はバブル崩壊を背景に落ち込んだ。97〜99年は何かというと、橋本政権が史上空前の増税を行った。消費税2%(5兆円)上がったことは覚えていると思うが、プラス所得税2兆円、医療保険負担増が2兆円、公共投資削減が4兆円、合計13兆円となった。2000年〜2003年の落ち込みは、森政権と小泉政権が強烈なブレーキを踏んだ。
結局、我々の生活がよくなるのも悪くなるのも政策の舵取りに依存している。
小泉首相が丸ビルや六本木ヒリズが混んでいること、ディズニーランドがにぎわっていること、ブランド品が売れていることなどをさして、本当に不況なのかということをよく言われるが、それで不況でないということにならない。
不況とは、供給力が需要量よりも大きいこと、100人仕事をしたいという人がいる時に100人に仕事が行き渡っている状態が完全雇用で好景気である。
ところがものの売れ行きが悪くなり、住宅着工が年間114万戸になったり、個人消費が停滞したり、設備投資が減少するなどの状態になると、100ものを作れるのに稼働率が下がってくる。この稼働率が下がってくる状態を経済分析上は「不況」と呼んでいる。
戦後の日本経済を時系列的に調べて見ると、稼働率が95まで落ちてきた時を不況と呼んでいた。現在の稼働率はどのくらいかというと、日本経済全体で90〜93であり、戦後最低である。このギャップは7〜10%に拡大している。このギャップの大きさが大きいほど深刻な不況である。今の日本は戦後で一番厳しい不況である。
但し、深刻な不況のときに全員が苦しんでいるかというとそうではない。100人仕事をしたい人がいるときに90人しか仕事がない。公式統計で日本の失業率は5.5%ということになっているが、専門家の分析では、ハローワークに行かないけど仕事を探している人、このようなものを入れると、実態の失業率は9〜10%である。
100のうち、90が動いているので90の人に聞くと景気はよくないけどそこそこということになる。100人のうち50人は不況とは関係ないということになる。年金生活者も大変とはいえ、ある程度蓄えがあり、物価も下がっているので住み心地もよい。
主婦も川柳などで、「手弁当任せて妻はフルコース」などといわれるように、ホテルのランチタイムはご婦人が優雅にしている。そういう人は不況とは無縁である。
痛みのある改革といわれるが、結局、痛みのない人の痛みのない??痛みのない人のための改革であり、痛みのある人は相当深刻な状況が広がっている。
一部に好況な業種もあり、自動車、キャノン、リコーなどの精密機械、ソニー、シャープなどの電気の一部、このような企業は、高技術を持ち、よい経営をし、世界中で仕事をしている。このような会社は日本が不況でもわが社は史上最高益更新ということができる。
全ての業種でそのようなことができるかというとそうではない。8割の業種は企業活動そのものが日本経済に完全に取り組まれている。建設業、不動産業、流通業、金融業……このような業種はよい数字を出すことが難しい。
日本経済と切り離し、グローバルな構造をしている史上最高益を出している会社は、我々はうまくやっている。うまくやっていない会社は能力が足りないか、努力が足りないというが、それは傲慢な考えである。つまり、日本経済のうち8割の産業は内需型の産業であり、このような業種に属している会社は日本経済が浮上しない限り、自ら浮上させることは極まれである。